新常用漢字表、「碍」の採用先送り
新常用漢字表の告示にあたり、「碍」の採用が先送りになった。
【関連エントリー】
よく使われる漢字の目安「常用漢字表」について、政府は24日、現行の1945字から196字増、5字減の計2136字に改めた新常用漢字表の内閣告示日を30日にすると閣議決定した。
(中略)
常用漢字表の改定作業で、文化庁の意見募集に対し、追加を望む声が多かった字の一つが「碍」だ。「障害」を「障碍」と表記できるよう障害者団体などが求めた。今回の内閣告示では追加が見送られるが、「障害」の表記の在り方を議論している政府の「障がい者制度改革推進本部」の結論次第で、文化庁は追加も検討するとしている。
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20101124k0000e040014000c.html
第26回障がい者制度改革推進会議議事次第内に、資料2 「障害」の表記に関する検討結果についてがある。本資料は、障害に関して様々な表記をしている各種団体からのヒアリング結果と一般からの意見を紹介している。
「第4 ヒアリング及び意見募集の結果を踏まえた総括」に、表記問題の核心といえる記述がある。
第2及び第3で述べてきたように、様々な主体がそれぞれの考えに基づき、「障害」について様々な表記を用いており、法令等における「障害」の表記について、現時点において新たに特定のものに決定することは困難であると言わざるを得ない。
他方で、この度の様々な関係者、有識者からのヒアリング等を通じて、これまで明らかになっていなかった検討課題や論点も浮かび上がってきており、今後「障害」の表記に関する議論を進めるに当たっては、以下の観点が必要と考えられる。
- 「障害(者)」の表記は、障害のある当事者(家族を含む。)のアイデンティティと密接な関係があるので、当事者がどのような呼称や表記を望んでいるかに配慮すること。
- 「障害」の表記を社会モデルの観点から検討していくに当たっては、障害者権利条約における障害者(persons with disabilities)の考え方、ICF(国際生活機能分類)の障害概念、及び障害学における表記に関する議論等との整合性に配慮すること。
これらを踏まえ、法令等における「障害」の表記については、当面、現状の「障害」を用いることとし、今後、制度改革の集中期間内を目途に一定の結論を得ることを目指すべきである。そのためには、障害は様々な障壁との相互作用によって生ずるものであるという障害者権利条約の考え方を念頭に置きつつ、それぞれの表記に関する考え方を国民に広く紹介し、各界各層の議論を喚起するとともに、その動向やそれぞれの表記の普及状況等を注視しながら、今後、更に検討を進め、意見集約を図っていく必要がある。
国際障害分類(ICIDH)から、国際生活機能分類(ICF)に発展した際、マイナスイメージを持つ言葉が中立的な用語に変更された。例えば、ICIDHで使用されていた「能力低下 disability」は、否定の意味をもつ接頭辞「dis」+能力を意味する「ability」から成り立っている。同じ概念を、ICHでは「活動Activitity」と表現し、否定的な意味合いを持たせる際も「活動制限 Activity limitation」という用語を使用することにしている。身体障碍者を意味する「disabled」も差別的な表現ととられることがあり、「physically-challenged」などの方が好まれるようになった。ただし、economically-challenged(経済的挑戦者=貧困者)といったような揶揄する表現が多数生み出されており、言葉の言い換えだけでは解決できない問題が残っている。
政府は、「障がい者制度改革推進本部」をわざわざ「障がい」という表記を用いている。「障害」という表記を当事者たちが望んでいないことを反映している。私自身としては、漢字かな混じり語は美的には望ましくないと考えているため、「障碍」、「障碍者」という表記の方が適切だと感じる。融通無碍(ゆうづうむげ)の時に使用するくらいで見慣れない漢字だが、意識的に使用していけばすぐに違和感はなくなる。影響力の大きい新常用漢字表には残念ながら掲載されなかったが、息長く関係者が訴えていく問題だと考えている。