Greeeenの出身学部、消滅の恐れ

 東北地方の私立大歯学部が定員割れに苦しんでいる。

 奥羽大は本年度、募集人員96人に対し入学者は32人、岩手医科大は70人の募集に入学者は42人だった。両大学とも欠員が出たのは前年度から。昨春の入学者は奥羽大が53人(充足率55%)、80人を募集した岩手医科大は60人(同75%)で、状況は今春さらに悪化した。


(中略)


 定員割れは大学経営に影響する。入学金や授業料などの初年度納付金は奥羽大が950万円、岩手医科大は890万円。奥羽大の天野義和学長は「まだ余力はあるが、この状況が続けば大学を維持できず、歯科医療の崩壊につながる」と訴える。


(中略)


 大学関係者によると、歯学部離れの背景には、少子化や不況、医学部の定員増などがある。中でも最大の要因に挙げられるのが「歯科医師過剰」への過敏な反応だ。
 歯科医師数は1990年の7万4000人から、2008年は9万9000人に増加した。天野学長は「過当競争でワーキングプアになっているかのようなうわさは、誤解にすぎない。就職率は100%で、30代の開業医は大企業の役員並みの収入を得ているケースもある。国民の健康を守る魅力的な職業だ」と強調する。

http://www.kahoku.co.jp/news/2010/05/20100508t73021.htm


 『コンビニよりも歯医者が多い、歯科医師の20人に一人は「ワーキングプア」、5人に1人はそれに近い状態』ことが話題となっている*1。このような「歯科医師過剰」論に具体的に反論することはなく、歯学部経営陣の主張だけ掲載するのは妥当ではない。典型的な提灯記事である。確かに、私立大歯学部は経営的に困難に陥っているが、そのことが歯科医療の崩壊に直結はしない。


 厚労省は、既に歯科医師数抑制に舵を切っている。平成18年にまとめられた、厚生労働省:「今後の歯科保健医療と歯科医師の資質向上等に関する検討会」中間報告書についてでは、次のような指摘をしている。

2 歯科医師の需給
 歯科医師の新規参入は、昭和61年の検討会報告書の後、入学定員の20%削減が実現され、平成10年度の検討会において、さらに10%程度の新規参入歯科医師数の削減が提言されるが1.7%の削減にとどまっている。本年8月の両大臣による確認書を受け歯科医師の需給について次のように考える。
 歯科診療所の患者数は、全体としては横ばいの傾向にある。歯科医師数は毎年平均1,500人程度のペースで増加しており、歯科医師1人当たりの患者数が減少し、歯科医師の過剰感がますます強くなっていくと考えられる。
 歯科医師の過剰は、歯科医師の専門職としての魅力の低下と歯学部入学者の質の低下を招くことになる。また、勤務医として長期間従事することは一般的に困難であり、技術的に未熟な歯科医師が開業するといった問題も生じることとなる。その結果、患者が期待する歯科医師の水準と提供される歯科医師との水準が乖離し患者の満足度が低下することとなる。
(今後の方針)
 現時点で歯科医師数の伸びをゼロとし、新規参入歯科医師の9割が稼働すると仮定すると、新規参入歯科医師数を約1,200人程度とする必要がある。これは、平成18年度の歯学部募集人員2,667人、平成18年の国家試験合格者数2,673人の45%に相当する。


 歯科医師養成数を、現状の半分以下にするという提案である。そのためには、入学定員削減と国家試験改革が検討されている。しかし、軟着陸をはかる前に現実が進行している。不人気の私立大学歯学部は、市場原理で淘汰されかねない事態となっている。岩手医大と奥羽大を比べてみると、後者の方がより深刻である。へたをすると、Greeeenの4人の出身学部が消滅する恐れがある。