嚥下内視鏡の紹介記事

 嚥下内視鏡検査が紹介された。読売新聞、嚥下内視鏡検査「のみ込める食事」判別 より。

嚥下内視鏡検査「のみ込める食事」判別


 東京都の男性Aさん(78)は、昨年5月、食べ物が誤って肺に入って起こる「誤嚥(ごえん)性肺炎」のため入院した。口から食べられなくなり、退院後は、鼻から胃に通したチューブで栄養をとった。「口から食べさせたい」。そう願う妻(74)が日本歯科大(東京・飯田橋)に依頼し、のみ込む様子を内視鏡で見る「嚥下(えんげ)内視鏡検査」を自宅で受けた。(山口博弥)


 高齢者は、食べ物をのみ込む嚥下機能が落ちる。特に、脳梗塞(こうそく)などの後遺症が残ると、誤嚥性肺炎を起こしやすい。このため、食材を細かく刻む、とろみを付けるなど、食べやすくする工夫が必要になる。


 しかし、誤嚥してもむせない人もいて、どういう食事ならのみ込めるか、分かりづらい。


 そこで役に立つのが、嚥下内視鏡検査だ。直径3〜4ミリの細い内視鏡を鼻から通し、のどの様子をモニター画面に映し出した状態で食事する。よくかめずに食べ物が塊のまま食道の入り口に落ちてきたり、お茶が気管に流れ込んだりといった様子を画面で見ながら、どんな食事が適しているかを検討する。


 Aさんが最初にこの検査を受けた時、食道の入り口につばがたまり、つばさえのみ込めない状態が映し出された。


 のみ込む力を高めるため、妻は毎日3回、Aさんの歯茎やほおの裏側を指でマッサージするなどの訓練をした。すると、数か月後、ゼリーならのみ込めることが内視鏡検査で確認された。次第に、おかゆなども少量ずつ食べられるようになった。


 Aさんを検査した日本歯科大口腔(こうくう)介護・リハビリテーションセンター長の歯科医師、菊谷武さんは「看護師や介護士、栄養士、家族らが同じ画面を見られるので、適した食事をチームで検討する時に有効」と語る。


 嚥下機能を検査する場合、一般的には「嚥下造影検査」が行われる。造影剤を入れた食べ物を食べ、口から食道まで食べ物が移動する様子を、エックス線画像で見る方法だ。嚥下内視鏡で見られるのはのどの入り口までなのに対し、口から食道まで全体の流れを見るには、造影検査の方が優れている。


 ただ、在宅療養中の高齢者は、撮影設備のある病院に足を運ばなければならない。造影剤を入れた検査食を作る手間もかかる。嚥下内視鏡なら、装置を持ち運びでき、医師や歯科医師が家や施設を訪ね、普段の食事で検査できる。放射線被曝(ひばく)もない。


 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会理事長の才藤栄一さんは「嚥下内視鏡の技術を学ぶ医師や歯科医師は増えており、今後さらに普及するはず」と話している。


【嚥下内視鏡検査を行う主な医療機関
◆北海道大(リ)(札幌市)
◆北海道医療大(摂食・嚥下外来)(同)
◆東北大・肢体不自由(リ)(仙台市
◆鶴岡協立リハ病院(山形県鶴岡市
◆埼玉県歯科医師会口腔保健センター(さいたま市
◆慶応大(リ)(東京都新宿区)
◆昭和大(リ)(同品川区)
◆昭和大歯科(同大田区
◆日本歯科大口腔介護・リハセンター(同千代田区
◆日本大歯科(同)
◆慶応大月が瀬リハセンター(静岡県伊豆市
◆聖隷三方原病院(リ)(浜松市
浜松市リハ病院(同)
◆藤田保健衛生大(リ)(愛知県豊明市
刈谷豊田総合病院(リ)(愛知県刈谷市
◆藤田保健衛生大七サナトリウムリハセンター(津市)
◆松阪中央総合病院(リ)(三重県松阪市
◆大阪大歯学部(大阪府吹田市
◆川崎医大(リ)(岡山県倉敷市
国立病院機構徳島病院神経内科徳島県吉野川市
産業医大(リ)(北九州市
◆九州歯科大(同)
 ※(リ)=リハビリテーション科、リハ=リハビリテーションの略。上記のほか、大学病院や病院の耳鼻咽喉(いんこう)科でこの検査を行っていることが多い。


(2008年8月1日 読売新聞)


 当院でも、嚥下内視鏡検査を行っている。特養などに出張して検査に行くこともある。今後、嚥下内視鏡検査の需要が増えていくことは間違いなく、リハビリテーション科医師にとって必須の技術となる。


 嚥下障害の検査を熱心に行っている知り合いの医師が熱く語っていた。
 「胃潰瘍か胃癌かの診断に内視鏡検査が必要であるように、嚥下障害の病態を明らかにする上で、嚥下造影・嚥下内視鏡は不可欠である。簡便に嚥下障害の鑑別をできる方法を教えて欲しいと聞いてくる介護施設職員がいるが、それは間違いである。嚥下障害検査のできる医師が気軽に施設や在宅に行き、評価を行い、治療法を指導するような時代を目指さなければならない。」
 全く同感である。嚥下障害が重度であるにも関わらず、無理に経口摂取を進め誤嚥性肺炎を起こす事例が後を絶たない。逆に、食事や体位工夫だけで口から食事が食べることができても、経管栄養になっている場合も少なくない。
 嚥下障害に関する基礎的な評価・治療技術の普及が待ち望まれている。