健保組合存亡の危機とは、利己的な主張

 CBニュース、健保組合存亡の危機」−「健保連が全国大会より。


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大規模健康保険組合の解散続く?(2008年8月23日)

「健保組合存亡の危機」−健保連が全国大会


 健康保険組合連合会健保連)は11月17日の正午から午後3時15分まで、東京都千代田区東京国際フォーラム「ホールA」で2008年度全国大会を開く。


 全国大会は「健保組合存亡の危機突破総決起大会」と銘打ち、▽前期高齢者医療制度に対する公費投入の実現▽制度間の財政調整・一元化構想の断固阻止▽税・財政改革による安定した社会保障財源の確保−をスローガンに掲げる。健保連では約4000人の参加を見込んでいる。


 特別シンポジウム「医療保険制度−そのあるべき姿とは」には、健保連対馬忠明専務理事のほか、日本医師会の竹嶋康弘副会長、NHKの飯野奈津子解説委員、全国健康保険協会協会けんぽ)の貝谷伸理事が参加する予定。


 対馬専務理事は11月7日の記者会見で、健保組合全体の財政状況が今年度、6300億円規模の赤字になるとの見通しを示し、「これを(健保組合の)存亡の危機と言わずして何と言おうか」と述べている。


更新:2008/11/10 20:12   キャリアブレイン


 続けて、経済、株価、ビジネス、政治のニュース:日経電子版より。

前期高齢者医療制度に公費投入を 健保組合全国大会


 健康保険組合連合会は17日、都内で全国大会を開いた。健保組合の財政悪化を食い止めるため、前期高齢者医療制度への公費投入などを訴える方針を決議した。


 健保連の平井克彦会長は基調演説で、高齢者医療制度への納付金や支援金が健保組合の財政を圧迫していることを強調。「前期についても後期と同様に公費を投入していただきたい」と述べた。


 このほか、医療制度間の財政調整の阻止と税・財政改革による社会保障財源の確保を訴えていく方針を決議した。中小企業の社員などが加入する旧政府管掌健康保険(現・全国健康保険協会)への国庫負担を肩代わりした今年度の財政支援については「今後することはない」と話し、来年度以降は支援しない方針を示した。(21:01)


 保険料率増大を理由として、組合管掌健康保険組合が解散し、政府管掌保険に移行する事例が増えている。しかし、存亡の危機と叫ぶほど、健保組合は大変なのだろうかと疑問に感じる。


 トヨタ自動車健康保険組合 健康保険料を見ると、保険料負担は次のようになっている。

  • 基本保険料(皆さんの医療の給付や保健事業等にあてられる保険料): 本人負担分 11,952/1000、事業主負担分 26,048/1000、合計 38/1000。
  • 特定保険料(高齢者等の医療を支えるための費用にあてられる保険料): 本人負担分 7,548/1000、事業主負担分 16,452/1000、合計 24/1000。
  • 基本+特定保険料: 本人負担分 19,5/1000、事業主負担分 42,5/1000、合計 62/1000。


 協会けんぽ(旧政府管掌健康保険)では、当面8.2%の健康保険料率が適用され、労使折半となる。このことを考慮すると、トヨタ自動車健康保険組合では、本人負担分が著しく抑えられていることが分かる。一方、事業主負担はわずかだが、協会けんぽの事業主負担を上回る。労使あわせて8.2%以下の保険料率に他の健康保険組合も抑えられている。この保険料率を上回ると、健康保険組合を維持する理由がなくなり、協会けんぽに移行することになる。


 医療保険は助け合いの精神で財源がまかなわれる。しかし、国民健康保険の逆進性というエントリーで示したように、国民健康保険の保険料率は概ね所得の10%前後と高率である。しかも、負担能力がない層ほど保険料が高くなっている。国保滞納世帯は18.5%に及ぶ。保険証がない子供も全国で約3万人いる。国民皆保険制度は既に形骸化している。
 組合健保の「制度間の財政調整・一元化構想の断固阻止」という主張は、利己的すぎる。「税・財政改革による安定した社会保障財源の確保」というが、税収はほっといても増えない。消費税増税を想定しているようだが、消費税は低所得者層ほどより負担が増える構造となっている。


 高齢社会の本格化を前に、医療費財源の安定した確保が求められる。そのために、財政的に比較的余裕がある組合管掌健康保険組合は国民皆保険維持のために社会的責任を果たすべきであると私は考える。


<追記>
 誤解を招かないように、追記する。
 本エントリーは、増大する医療費財源を、組合管掌健康保険組合からの拠出金だけでまかなえという主張ではない。医療費財源-国庫負担の拡充と保険料事業主負担の増大が鍵(2008年5月6日)でも触れたが、国民健康保険が危機に陥った最大の理由は、1984年に「国が老人医療への国庫負担割合を45%から35%へ引き下げた」ことにある。その他、政府管掌健康保険への補助金の削減などが、低医療費政策とあいまって「医療崩壊」という現象を引き起こしている。国民健康保険協会けんぽへの公費負担の引き上げは当然のことである。
 だからといって、組合管掌健康保険組合が、応分の負担をしなくても良いということにはならない。特に事業主の保険料負担は、国際水準と比し著しく低く、引き上げの余地がある。