後期高齢者医療制度、長続きするとは思えず

 47ニュース、社会保障費の抑制はもう無理! 後期高齢者医療制度を考えるより。

 【47コラム】 今年4月に始まった後期高齢者医療制度。野党があれほど強く見直しを求めたのに、政府・自民党が頑として応じなかったこの問題は、衆院選を控え、自民党が争点外しに動いた。「廃止」「抜本見直し」「現制度の枠内で運用を改善」とトーンがばらばら。舛添さんが突然、制度廃止を言い出したのが9月19日。麻生首相(このときはまだ自民党総裁候補)がこれに同調。しかし与党内からも反発が出て、厚労相に再任された舛添さんも右往左往状態。
 茨城県医師会の政治団体茨城県医師連盟が17日、次期衆院選の県内7選挙区すべてで民主党の立候補予定者を推薦すると発表。また10月15日の第二段階の年金“天引き”スタートが与党に逆風になるのは確実。一方の民主党など野党は「廃止」方針で一貫しているから、是非はともかく与党側の混乱ぶりばかりが目に付く。


 そもそもこの制度に怒ったのは高齢者たちだけではない。肝心の医師たちがきわめて冷ややかだった。75歳以上を「別枠」にしたのは、年齢で線引きして国の社会保障費を抑制するのが狙いだった。抑制策をあくまで守るのか、それともこの際思い切って抑制のタガを外すべきなのか。一番良いのは老若一元的な医療保険の実現なのだが、それが実現するまでは、当面、「別枠」制度を白紙に戻し、税金をもっと投入するしかないのである。


 ある年齢以上の人たちだけ切り離した独立の社会保険制度は世界にも例がない。


 何人かの知人の医師たちに聞いてみたところ、医療保険の「一元化」論は昔からある。老若を一つの枠に、というだけでなく、いろんな職種も一つの枠に、という一元化の構想だ。しかし現役世代のサラリーマンが加入する企業単位の健保組合の連合会と経団連がぜんぜん乗ってこない。政府管掌健保、共済組合なども及び腰だ。だから「本当は一元化がいいんだけど、こういう利益団体が壁を作っていて実現はまず無理。だから現実的には公費負担を増やすしかない」と、どの医師も口をそろえた。


 政府が押し通そうとしてきた高齢者「別枠」制度も、一応現役世代の「支援」は受ける。75歳以上の医療費の4割を現役世代が負担する。そして5割は公費。つまり「一元化」は無理だが、部分的な「拠出」で「支援」する。それでも残り1割を75歳以上の人たち自身に保険料として自己負担させる。75歳以上の医療費が上がれば75歳以上の人たちが払う保険料も上がる。自己責任論である。少しでも保険料上昇を避けたければ、医者にかかる費用を抑制しなさい、つまり風邪くらいで医者の世話になるな…と年寄りを脅迫するみたいな仕組みだ。ここに相当の無理があった。


 「別枠」制度が医師たちに悪評だったのは、「かかりつけ医」制だ。これが高齢者医療の質を低下させる、として制度受け入れ拒否を決めてしまった医師会が全国にかなりある。茨城、青森、山形、佐賀、岡山、鳥取、広島、山口、福島、宮崎、栃木、秋田、徳島・・。これらの県の、一部地域の医師会が拒否ないし消極対応の意思表示をしている。医師たちが二の足を踏むのは、新制度だと「かかりつけ医」の報酬が原則として患者1人当たり「月6000円」(定額制、患者負担は600-1200円)で打ち切られるからだ。この金額では入念な医療ができない恐れが十分にある。「月に6000円では簡単な検査と診察をするだけで足が出る」と医師たちはいう。患者にしてみれば、「かかりつけ医」にみてもらうだけならいくら診療してもらっても定額で済むともいえるが、ちゃんとした検査や治療をしてもらえない可能性がある。
 6000円でなく2万円だったら引き受ける医師が多くなるかもしれない。以前なら厚生労働省も制度を新しくするときは決まって医師にインセンティブを与えて制度を円滑にスタートさせたそうだ。それができないほど社会保障費抑制の政策が限度を超えてしまっていたのだろう。貧すれば鈍すだ。


 低所得者層にとっての厳しさ、年金から天引きする心無さ、保険証未着、対象外の人から間違って天引き、算定額の誤り・・・こうした問題だけなら、政府・与党のいう「運用上の改善」でなんとかなる。しかし「かかりつけ医」制ひとつとっても制度自体が長続きするとは思えなかった。(4月6日、9月25日更新 憲)


 後期高齢者医療制度の本質をえぐるコラムである。後期高齢者医療制度凍結が選挙対策にすぎないこと、診療報酬を通じた誘導が社会保障費抑制政策が限度を超えたため機能しなくなったことを鋭く指摘している。
 医療費財源論に関しても鋭い指摘がされている。医療保険の「一元化」をすれば良いものを、社会保険料負担増加を嫌う財界と各種健康保険組合が反対したため、実施のメドすら立たない。
 そもそも、日本の社会保険料の事業主負担は、同様の社会保険方式をとるフランスやドイツと比べ、著しく低い。さらに、非正規雇用増加、賃金据え置きで保険料全体が減少している。国民健康保険政府管掌健康保険への国庫負担割合も削減されている。これでは、医療保険がガタガタになるのは当たり前である。
 病気がちな75歳以上の高齢者だけを集めた後期高齢者医療制度など、分かち合いの精神になじまない。保険料増大、医療費切り下げが待っているだけである。対象となった高齢者からも、医療関係者からも見放された制度など長続きするとは到底思えない。