CSR(企業の社会的責任)とは何か?

 障がい者雇用率7.42%、ユニクロの取組みというエントリーで、CSR(Corporate Social Responsibility)という言葉に出会った。調べているうちに、野村総合研究所経営用語の基礎知識というサイトに出会った。


 CSR(企業の社会的責任)は、法制度・企業倫理編にあり、次のように説明されている。

CSR(企業の社会的責任) Corporate Social Responsibility


企業が事業活動を営む上で、様々な社会的な責務を果たそうとする取り組み。

                                                                                                        • -


 相次ぐ企業不祥事を背景に、企業に対してCSRを果たすべきとの要請が高まっています。企業が事業活動を営む上で、様々な社会的責務を果たす取り組みをCSRと呼びます。


自社の持続的発展のチャンス
 CSRは、日本では公害問題が起こった1970年代に盛んに論じられました。しかし、最近、CSRが改めて注目されている理由は、企業を取り巻くステークホルダーの価値観が変化し、より社会と調和した新しい企業経営を求め始めているからです。また、CSRは社会の要請に応えるだけではなく「自社の持続的発展を促すチャンス」でもあります。


CSRの3つの活動領域
 企業が実践しているCSR活動は大きく3つの領域に整理されます。
 第1は「企業倫理・社会責任領域」です。企業は社会的な存在として守るべき法令や果たすべき社会責任を明確にし実行する必要があります。
 第2は「投資的社会貢献活動領域」です。企業の社会貢献活動というと、慈善的な考え方に基づき多額の経営資源が費やされてきた経緯がありますが、今後は社会貢献活動を企業が社会と良好な関係を維持していく有力な戦略ツールとして位置づけ、社会価値と経営価値の両立を図る取り組みにする必要があります。
 第3は「事業活動を通じた社会革新領域」です。これからの企業経営では、事業展開する際に、利益の獲得を第一の目標としながらも、事業を通じて社会を革新し、社会価値を創造するような事業が評価される時代となるでしょう。社会革新を意識した事業戦略を構築できれば、企業の社会性は一段と高まります。
 これらの3領域のバランスを考えてCSRを実践することが重要です。


戦略的CSRの基本フレーム(図省略)


 「企業倫理・社会責任領域」とは、法令遵守など内向きの守りの領域となる。一方、「投資的社会貢献活動領域」と「事業活動を通じた社会革新領域」は、外向きの攻めの領域だが、前者が本来の事業と無関係な社会奉仕活動であるのに対し、後者は本来の事業を通じた社会貢献活動となる。


 ファーストリテイリング、私たちの考えるCSRトップコミットメントには、柳井会長の次のような言葉が記載されている。

こうした新しいステージに立つファーストリテイリングにとって社会的責任を果たすということは決定的に重要です。自分たちが考えていることが海外でも通用するのか。海外で行われていることで、自分たちが本来やるべきことはないか。そういう意識をもって、国や地域を超えて通用するCSR活動を行っていかなくてはなりません。


法令遵守は当たり前です。それだけでは明らかに受け身であって、もっと能動的に「私たちは自分の意志としてこうします」というものを提示しなければなりません。自分たちは何者で、過去に何をしてきて、これから何をしようとしているのか。その中でファーストリテイリングステークホルダーとどのような関係を築こうとしているのか。それを明らかにする必要があります。こうした情報発信や情報開示がなければ、グローバルな市場で受け入れられ、まして尊敬される企業になることはできません。


 ステークホルダーという訳の分からない言葉が出てきた。この言葉も経営用語の基礎知識の法制度・企業倫理編にある。

ステークホルダー Stake-holder


企業を取り巻く利害関係者のこと。企業はステークホルダーと良好な関係を築き、互いの利益を実現しなければならない。

                                                                                                        • -


 ステークホルダーとは、企業の経営活動、企業の存続や発展に対して利害関係を有する個人や法人のことです。
 具体的には、消費者(顧客)、従業員、株主、債権者、仕入先、得意先、地域社会、行政機関など、企業を取り巻くあらゆる利害関係者を指しています。


 ユニクロステークホルダーとの関わりをみると、次のような内容が記載されている。

  • お客様: お客様に対して誠実に接し、商品・サービスを通じて満足を提供する。
  • お取引先: お取引先と健全で友好的な関係を構築する。
  • 従業員: 働きやすく、やりがいのある労働環境を提供する。
  • 地域社会・環境: 地域社会の発展と持続可能な社会の実現に貢献する。
  • 株主・投資家: 高効率・高配分の経営を目指し、正しい情報開示を行う。


 企業では、顧客第一とか株主の利益優先という考え方が支配しがちである。しかし、ステークホルダー=企業を取り巻く利害関係者の中には、従業員や地域社会も含まれる。このような関係者全てと良好な関係を築くことが、企業の社会的使命として重要であることが示されている。ユニクロが、障がい者雇用に熱心なことも、フリースのリサイクル活動に熱心なことも、瀬戸内オリーブ基金を行っていることも全てステークホルダーとの関わりを重視する企業姿勢として理解できる。


 医療分野も、考えみると同じような構造となっている。

  • お客様 → 患者様
  • お取引先 → 製薬メーカー、医療機器メーカーほか
  • 従業員 → 職員
  • 地域社会・環境 → 地域社会・環境
  • 株主・投資家 → 病院設立者


 医療自体が公益性の高いものであり、医療活動を通じて社会貢献をすることが第一義的なものとなる。しかし、それだけでは、やはり不十分である。職員を大事にし、医療以外の社会活動を積極的に行うことも求められている。病院機能評価など第3者評価を受け、医療機関の理念を明らかにするということは、自らのスタンスを確認する作業である。


 最後にどうしても言いたいことが2つある。
 法令遵守は当然のこととして、さらに、社会から尊敬されるために何をすべきかということを自らに問い続けられる企業はどの程度存在しているのか、気にかかる。少なくとも、偽装請負名ばかり管理職を放置している企業は、ステークホルダーである従業員を大事にしていないことになる。そのような企業が、隠れ蓑としてCSRという言葉を使用しているとしたら許し難い。
 もう1つは、一般人が聞いても分からない言葉を乱用するのはいかがなものか。CSRという言葉を使わずに、「企業の社会的責任」と言い換えても全く問題がないのではないか。ステークホルダーという用語を使わず、「企業を取り巻く利害関係者」でも良いのではないか。耳慣れない専門用語で煙に巻こうという意図があるのではと邪推したくなる。まあ、医療関係者が使う医学用語も似たようなところはあるので人のことを言えた義理ではないのだが…。