保険金を払ってもらうためミスを認めた

 m3com、医療維新に、加藤被告の出身医局、佐藤章・福島県医大産婦人科教授のコメントが掲載された。昨日のエントリー、「今回の判決の方がより正しい」とは無責任に関係する部分を引用する。

福島県大野病院事件◆Vol.21
「ほっとしたが、なぜ逮捕されたか疑念は晴れず」
佐藤章・福島県医大産婦人科教授が判決直後の真情を吐露 
聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)


 加藤克彦医師の所属医局は、福島県立医科大学産婦人科。その教授である佐藤章氏は、事件直後から、2006年の逮捕・起訴、そして8月20日の判決に至るまで、担当教授として事件にかかわってきた。また、佐藤氏は自ら一般傍聴券を求めて並び、計15回にわたった公判をすべて傍聴してきた。果たして、今回の判決をどう受け止めたのだろうか。判決直後の思いを聞いた(2008年8月21日にインタビュー)。


(中略)


−−医療事故の調査と言えば、「県立大野病院医療事故調査委員会」がまとめた報告書が発端になっています。以前、先生に、「加藤医師の過失と受け取られかねない部分があるので、訂正を求めた」とお聞きしました。


 はい。ここ(佐藤先生の教授室)に院長と県の病院局長が来て、「もうこれで認めてください」と言うから、「ダメだ」と言ったんです。


−−それは遺族への補償に使うからですか。


 そうです。「先生、これはこういう風に書かないと、保険会社が保険金を払ってくれない」と言ったんです。


−−でも、県はそれを否定しています。


 絶対にそんなことはありません。医療事故調査委員会の委員の先生方も、そう(補償に使う)と聞いているそうです。


−−事故調査報告書が刑事訴追に使われることは想定されていなかった。


 私が「最後までダメだ」と言い張ればよかったのですが。


 今回のように刑事訴追に使われる可能性を考えると、事故調査報告書をどう書けばいいか、難しいですね。厚生労働省が考える「医療安全調査委員会」も、うまく機能するのか。だから私が思うのは、行政ではなく、医師同士、専門家同士が調査して、「これはお前、ダメだ」などと自浄作用を働かせる仕組みの必要性です。そうでないと、国民は納得しないと思います。


−−そうした意味では、この事件を機に、医療事故調査のあり方について議論が進んだ意義は大きいと思います。世間の医療への関心も高まったように思います。


(中略)


−−どのくらいこの裁判に時間をかけていたのですか。


 最初のころは、弁護士の先生に癒着胎盤の説明をしたり、論文をお渡しするなど、月2回くらいは東京に行っていました。あとは月1回くらいでしょうか。四六時中、裁判のことをやっていたわけではないのですが、やはり精神的に負担でした。物事に集中できない。手術をやっている時だけは裁判のことを忘れられました。でもそれ以外、勉強している時などには、ふと裁判のことが頭をよぎっていました。加藤医師の逮捕時、60kgあった体重が53kgまで減りました。今は戻りましたが。


−−最後にお聞きします。今回の件で各種団体や医師など、全国各地から加藤医師を支援する動きがありました。


 それは非常にありがたかったですね。支援団体の活動が盛んになり、マスコミが取り上げるほど、裁判官もまた検察も、「この裁判は簡単にはいかないぞ」という意識を持ったのではないでしょうか。そうした意味では、大きかったですね。今回の件では、本当にいろいろな意味で勉強になりました。


 県立大野病院事故調査委員会報告書は、賠償金支払いのために保険会社に保険金を払ってもらうためにミスを認めた、と言われていた。そのことが、加藤医師の訴追に結びついた。佐藤章・福島県医大産婦人科教授は、加藤被告の支援のために心身をすり減らした。本インタビューの中で、医学者としての良心と責任感が伺える。やりきれない思いがこみあげるこの事件の中で、加藤医師と佐藤章教授の絆に心打たれる。


 本事件後、保険会社から保険金をもらうため、医学的事実からかけ離れた報告書を作成することは、「禁じ手」となった。医師は自分の身を守るために医学的妥当性にかける医療事故報告書を拒否すべきである。現在、脳性麻痺などの重い後遺症を抱えて生まれた新生児を巡り、医師らの過失がなくても補償対象とする「無過失補償制度」が検討されている。今回も、医師の過失が認定されなくても、遺族への保障がされる制度があれば、刑事裁判にならなかったのではないかと思われてならない。