厚労省の責任転嫁

 昨年の12月20日、TBS、なぜ?病院追われる高齢者 | 報道特集 : TBSテレビで、リハビリテーション医療の特集があった。澤田石先生からDVDをいただき、視聴した。算定日数制限や成果主義導入が重症脳卒中患者に如何に過酷な制度となっているかをとりあげた迫真のドキュメントである。番組内容や関連資料に関しては、http://homepage1.nifty.com/jsawa/medical/をご参照いただきたい。


 「報道特集NEXT」からの質問に対する、厚生労働省のコメントを全文引用する。なお、()内が質問部分である。

厚生労働省のコメント 


1.回復期リハビリ病棟でのリハビリの算定日数の上限


(脳血管疾患等リハビリテーションの算定日数の上限を180日とし、その後の診療報酬を引き下げているのはなぜですか。)


厚生労働省老健局のもと設置された、リハビリテーションに関する専門家、利用者、メディアなどから選出された委員からなる「高齢者リハビリテーション研究会」の報告(平成16年1月)において、リハビリテーションに関する問題点として、


◆もっとも重点的に行われるべき急性期のリハビリテーション医療が十分行われていない
◆長期にわたって効果の明らかでないリハビリテーション医療が行われている
リハビリテーションとケアの境界が明確に区分されておらず、リハビリテーションとケアが混在して提供されているものがある


といったご指摘を頂きました。このような指摘を踏まえ、平成18年度診療報酬改定において関係学会等のご意見を聞きながら急性期、回復期のリハビリテーションについて評価をした一方、算定日数の目安を設け、それ以降は時間あたりの報酬は変わらないものの、1ヶ月に行うことができるリハビリテーションの回数を少なくしています。


なお、医師が、リハビリを続けることで症状が改善する見込みがあると医学的に認める場合や先天性又は進行性の神経・筋疾患の患者の場合は、算定日数の目安を超えてもそれまで通り、リハビリテーションを続けることができます。


(180日が過ぎた後もリハビリを継続し、一定の維持期を経た後、急に機能が回復した症例があります。こうした症例に対する見解をお聞かせ下さい。また、機能を維持するリハビリについての見解をお聞かせ下さい。)


御指摘のような例にも対応できるよう、医師がリハビリを続けることで症状が改善する見込みがあると医学的に認める場合等は算定日の目安を超えてもそれまで通り、リハビリテーションを続けることができるよう配慮をしております。


しかしながら、回復期リハビリテーションを行っている多くの専門家によると、算定日数を超えたリハビリテーションが機能回復につながる事例は極めて珍しいとのことであり、そうした事例については、是非とも積極的に学会発表を行っていただき、専門的な検討を行われることが、望まれます。


現在のリハビリの概念には、「高齢者リハビリテーション研究会」にも指摘されているように、リハビリテーションとケアが明確に区分されないまま包含されており、前者は医療保険においてみるべき急性期や回復期のリハビリテーション、後者は介護保険においてみるべき機能を維持するためのリハビリや生活訓練等のケアという形で提供されています。御指摘のような、機能を維持するリハビリは基本的には介護保険から提供されるものと考えています。



2. 回復期リハビリ病棟に対する質の評価導入について


(自宅等へ退院させようとしても現実的に受け皿がなく、病院、患者共に困っているケースが存在します。こうした事態に対する見解をお聞かせください。)


リハビリテーションを行っている患者さんに限らず、患者さん一人一人の状態に応じた施設や家庭で療養されるのが適切と考えており、入院を担う医療機関や在宅療養をサポートする各機関等との緊密な連携体制の整備に努めているところです。


また、回復期リハビリテーション病棟は、ADLの向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的として、脳卒中などの発症早期から、リハビリテーションを集中的に行うことを目的として病棟であり、他のよりリハビリテーションを必要としている患者さんに活用していただく必要があることもご理解いただきたい。


なお、回復期リハビリテーションを行っている多くの専門家によると算定日数を超えて、機能回復を目的としたリハビリテーションが必要となる事例は極めて珍しいとのことであり、医療保険でのリハビリが必要となる事例については、積極的に学会発表等を行っていただき、専門的な見地からの検討が行われる必要があると理解しております。


(特に高齢化率が高く、介護施設が充実していない地方において、患者が回復期リハビリ病棟を出た後の行き場がない状況が顕著に見られます。こうした状況下、全国一律に自宅等退院率を定めたことに対する見解をお聞かせください。)


回復期リハビリテーション病棟は、ADLの向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的として、脳卒中などの発症早期から、リハビリテーションを集中的に行うことを目的とした病棟です。


平成20年度診療報酬改定において、重症患者を一定数以上受け入れ状態を改善させているとともに、患者さんの6割以上を自宅等に退院できるほど改善させている病棟に対して、質の高いリハビリテーションを行っていることに対する評価として、回復期リハビリテーション病棟入院料1や重症患者回復病棟加算として従来より高い評価を新設しました。


なお、診療報酬では、従来の在宅復帰率等を要件としない病棟も回復期リハビリテーション病棟入院科2として評価しているほか、回復期リハビリテーション病棟以外の病棟でもリハビリテーションを受けることができ、こうした病棟には在宅復帰率の要件は設けていません。


また、今回の在宅復帰率等の要件は、回復期リハビリテーション専門的に行っている医療機関の団体からの要望を踏まえて導入をしたところであり、最近同団体が発表した調査結果でも、回復期リハビリテーション全体の底上げにつながっているなどの前向きな評価がされているところであります。今後とも関係する専門家等からの科学的根拠に基づくご意見を踏まえて、必要な対応を行ってまいります。


厚生労働省保険局医療課


《終》


 2006年度以降の相次ぐリハビリテーション医療の改定は、「高齢者リハビリテーション研究会」に参加したリハビリテーション医療の専門家、「関係学会等」、「回復期リハビリテーションを行っている多くの専門家」、「回復期リハビリテーションを専門的に行っている医療機関の団体」からの意見や要望を聞いて行ったと、厚生労働省保険局医療課名で述べている。
 しかし、中医協「回復期リハビリテーション病棟に対する成果主義導入」論議(2008年5月12日)で紹介した中医協の議論をみると、成果主義導入の過程において厚労省官僚がイニシアティブをとっていることがわかる。学会発表での検討を重視しているようだが、「日常生活機能評価」という臨床指標が回復期リハビリテーション病棟の質の評価に有用だということが、学会レベルで合意されたことはない。
 また、「高齢者リハビリテーション研究会」の議事録をみても、「長期にわたって効果の明らかでないリハビリテーション医療が行われている」という発言は確認できない。このことは、社民党福島みずほ氏のホームページ、http://www.mizuhoto.org/01/06back_n/061128.htmlに詳しく記載されている。
 厚労省は、リハビリテーション医療に関する診療報酬改定への批判を、リハビリテーション医療専門家へと責任転嫁した。このような卑怯な振る舞いをしていること自体、官僚の質の劣化を示している。