社会的入院の意味を恣意的に変更した実態調査

 社会的入院の意味を恣意的に変更した実態調査が行われた。
 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/jiten/20081127-OYT8T00458.htmより。

社会的入院の実態…「不適切な転院」 年のべ78万人


 医療の必要性が低いのに入院する「社会的入院」。患者数の実態調査をもとに、問題点を整理しました。


 社会的入院が増えたのは、高齢者の窓口負担が無料化された1970年代以降です。当時、病院だと食費、居住費も無料になることもあり、長期入院の患者が増えました。


 こうした患者の受け皿として、93年に、長期療養する患者のための「療養型病床群」ができました。医療が福祉の肩代わりをしてきたわけです。そして、2000年の介護保険制度発足後、「療養病床」と名前を変え、医療の必要性が高い患者のための医療保険型と、介護を重視した介護保険型に分けられました。


 ところが、厚生労働省は06年、「社会的入院の解消」を掲げて、当時38万床あった療養病床を、介護保険型は廃止、医療保険型は15万床に削減するという再編計画を打ち出しました。


 では、実態はどうなのでしょうか。健康保険組合連合会の委託を受け、慶応大学の印南一路(いんなみいちろ)教授(総合政策)らが、急性期の一般病院、療養病床を対象に行った全国調査によると、短期入院も含め、「入院医療の必要性が小さいのに入院を継続している患者」は32万人と推計。このうち、従来、問題にされていた療養病床の患者は約15万人で、一般病床の患者が半数以上の約17万人を占めました。


 さらに、介護者が不在で在宅療養が難しかったり、介護施設に入れなかったりして入院する患者が、少なくとも1年間に約52万人もうまれていることがわかりました。このほか、本来は入院の必要性が低いのに、一般病床や療養病床に転院させる不適切な転院も1年間で約78万人に上りました。長期になると入院費を下げる在院日数短縮化政策の影響です。なかには、すぐに退院する患者もいますが、社会的入院を続ける患者も少なくありません。


 治療のために入院した後、退院先が見つからずに社会的入院になるというイメージでとらえがちですが、そもそも最初から入院の必要がなかったり、不適切な転院によって、社会的入院になる患者も無視できません。施設やケア付き住宅などの受け皿づくりや、病院による退院支援の体制強化が必要です。(阿部文彦)


(2008年11月27日 読売新聞)


 本実態調査の特徴は、「入院医療の必要性が小さいのに入院を継続している患者」=社会的入院と定義し、そこに短期入院も含めていることである。
 そもそも社会的入院に関して厳密な定義がなく、実態調査も困難である。中央社会保険医療協議会 基本問題小委員会議事概要(2001年4月18日)では、次のような議論がされている。

(1号側委員より)
介護保険制度をつくるとき、社会的入院を解消することが盛んに言われていたが、その政策は今でも堅持されているのか。基本的な考え方はその後どうなっているのか。


(事務局より回答)
社会的入院の適正化についての方針に変更はない。ただ、何を社会的入院ととらえるかについては時代によってさまざまであり、介護保険をつくるときは、介護を主たる原因として6か月以上一般病棟に入院している方を社会的入院ととらえ対策を講じ、かなり改善できたと思っている。ただ、療養型病床群のうちの医療保険適用に残っている方が引き続きの課題ではないかととらえている。なかなか移行が進まない面も確かにあるが、要因の分析・調査を含め、適正な移行が図れるよう対処していきたい。


(1号側委員より)
・ 資料の「入院期間・診療行為別1日当たり点数の構成割合」で、入院料が大部分を占める患者がいる。この中には要介護と思ってもいいような人がかなり入っているのではないか。こういう患者については介護保険が払った方がいいのではないか。


(2号側委員より)
介護保険制度をつくったのだから、いわゆる社会的入院はもう解消されたと思っている。ほとんどの費用が入院費という場合であっても、医療が何もないのかというと、決してそうではない。必要な医療が残っているからやむを得ず入院しているという認識であり、従来から言われていた意味での社会的入院は解消されていると思っている。


(1号側委員より)
・ それは実態に反するのではないか。医療を行う必要があるのかどうかは、患者の医療内容を分析すれば出てくるのではないか。介護保険制度ができた現状に立って考えてみれば、健康保険が支払うべきものなのか。


(事務局より回答)
・ 介護の要素が非常に強い人、医療の要素が非常に強い人、それらを受け入れるものとしての提供施設、あるいはそれに応じた支払いをどちらでするのか、そういうことになるのではないかと思われる。医療保険介護保険の報酬の設定については、今の問題意識のもとに、細かくこれから議論いただければと思っている。


 厚労省事務局の説明では、「介護を主たる原因として6か月以上一般病棟に入院している方を社会的入院」ととりあえず定義している。それに対し、1号側委員、すなわち支払い側が入院料以外の請求がない者は社会的入院ではないかと詰め寄っている。
 今回の印南一路教授の調査も、健康保険組合連合会の委託を受けたものである。「社会的入院」の意味を恣意的に変更し、過大な数値を出してきた可能性は捨てきれない。ちなみに、記事に添付されている図を見ると、本調査は2007年3月に全国7,463病院を対象に実施されており、有効回答率は5.1%となっている。