2012年度介護療養病床廃止、猶予の方向へ

 医療保険は2年に1回、介護保険は3年に1回、保険診療の見直しが行われる。両者が重なるのは6年に1回となる。両制度にまたがる課題は、同時改訂時をねらって、抜本的な改革がなされる。2012年度には、診療報酬と介護報酬の同時改訂が行われる。厚労省の関係部局で政策調整が本格化している。
 前回は、2006年度に同時改訂があった。診療報酬においては、医療療養病床に医療区分とADL区分が導入された。医療区分1(ADL区分1、2)の点数は7,640円/日と大幅に引き下げられ、ちょっとしたビジネスホテルより安価になった。医療療養病床の経営は打撃を受け、生き残りをはかり、医療必要度の高い医療区分2や3などの比率を高めていった。胃瘻があるような重度障害者も、医療度が低いと判断されると転院を断られるようになった。連動するように、介護療養病床が2012年度末に廃止することが決まり、転換型老人保健施設や居住施設へ移行することが求められた。社会保障費削減を強行に押し進めたこれらの改革は、介護難民を生むと同時に、現場を疲弊させ、医療崩壊や介護従事者大量離職を引き起こした。


 医療機関介護施設は、療養病床政策の見直しを強く求め続けていたが、本日の国会審議において、2012年度の介護療養病床廃止が猶予される方向が明らかになった。

 長妻昭厚生労働相は8日の衆院厚労委員会で、慢性疾患の高齢者が長期入院する介護型療養病床を2011年度末までに廃止するとの自公政権時の決定について「廃止は困難だと判断し、今後法改正が必要になると思っている。猶予を含めて方針を決定したい」と述べ、期限を延長するなどの見直しを検討し、来年の通常国会に必要な法案を提出する考えを示した。


 長妻氏は見直しの理由として、厚労省の調査で、他の施設への転換が進んでいない実態が判明したことを挙げた。

http://www.47news.jp/CN/201009/CN2010090801001148.html


 長妻厚労相が指摘したのは、「療養病床の転換意向等調査」結果概要のことである。内容の一部を紹介する。


 第1回調査で回答した医療療養病床229,919中、転換したと答えたのは10,983床であった。そのうち8,310床76%が一般病床に転換していた。介護保険施設への転換は1,087床10%に過ぎなかった。一方、同じ調査で介護療養病床79,096床中、転換したと回答したの20,906床であり、うち17,765床が医療療養病床に形態を変更していた。介護保険施設への転換は1,112床5%にとどまった。



 医療療養病床からの転換意向は、1回目も2回目も70%強が現状維持と答えた。一方、未定が1/4いた。



 介護療養病床においては、約2/3が未定と回答し、医療療養病床への転換を20%前後の施設が検討している。両者をあわせると83〜85%にもなる。一方、老健施設への転換意向は13%程度にとどまっている。


 いずれの結果をみても、厚労省が当初想定していた転換型老健や居住施設の転換は全く人気がないことが明らかになった。
 団塊の世代が75歳以上になる2025年までは、高齢者の実数も人口比率も急速に増加する。今後の10数年を高齢社会の最後の上り坂と厚労省は定義している。介護予防を進め在宅で元気に暮らすことができるようにすることや軽度要介護者用の住宅整備を進めることも大事だが、平行して重度障害者用の施設整備も行わないと片手落ちである。社会保障費の一律削減だけを目的とした介護療養病床の廃止施策は、小泉構造改革路線の最大の失策の一つである。厚労省の方針転換はやや遅きに失したが、現状をふまえた妥当なものである。速やかに法案審議を進めることを期待する。