秋保おはぎの「さいち」

 丸善で、「売れ続ける理由」が平積みにされていました。著者の佐藤啓二氏は、秋保おはぎで有名な「さいち」の社長です。

売れ続ける理由~一回のお客を一生の顧客にする非常識な経営法

売れ続ける理由~一回のお客を一生の顧客にする非常識な経営法


 調べてみると、本書は丸善全店のビジネス書ランキングで堂々の28位(2010年11月)に入っています。ちなみにトップは、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」です。両書を出版しているダイヤモンド社が本書の宣伝に力を入れており、ホームページでも「さいち」のビジネス手法の特集を組んでいます。*1*2


 秋保町仙台市政令指定都市移行時に合併された小さな町です。旧秋保町は、秋保温泉がある湯元地区、秋保支所がある長袋地区、秋保大滝がある馬場地区と3つの地域に分かれています。全地区あわせても人口は4,700人あまりしかありません。旧秋保町は東西に細長く、一体の商圏とは言い難い状況です。「さいち」がある湯元地区に限っていうと、1,700人となります。以前と比べ道路事情が良くなったこともあり、秋保の住民は、国道286号線沿いに新しくできた大手スーパーに買い物に行ってしまいます。



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 コンビニに毛のはえた程度の規模の中小スーパーにとって絶望的ともいえる立地条件ではありながら、「さいち」は年商6億円という信じられない業績をあげています。中心となっているのは、おはぎと惣菜の「惣菜部門」で売り上げの5割を占めます。特に「秋保おはぎ」と命名されたおはぎは、1日平均で5000個、土日祝日は1万個以上、お彼岸の中日には2万個以上の売り上げを誇っています。私も日帰り温泉に来た帰りによく寄りますが、いつも駐車場があふれるばかりの状態となっています。添加物を使っていないため、その日のうちに作らなければ行けないこと、手づくりであることなどが理由で、これ以上増産しようとしても困難とのことです。当然ながら、保存を前提としたお土産品としては不適です。少量、仙台駅や地元百貨店でも売られていますが、あっという間に売り切れてしまいます。地元でしか味わえない逸品です。


 「さいち」は、おはぎと惣菜の製造業者、地域に密着した小売業者という両側面を絶妙のバランスで一体化しています。利益を追求しようと思うならば、製造業者に特化しても良いはずです。精肉、青果、鮮魚、菓子、酒、雑貨は大手スーパーやコンビニでも扱っています。しかし、地元住民にとって欠くことのできないスーパーであるという自負のもと、小売業をやめようということは全く考えていません。むしろ、お客と製造部門が近いことを意識的に利用し、商品開発や職員教育に役立てています。例えば、専務(筆者の奥さん)は、お客様に「おいしかった」と言われたときには、つくった従業員をお客様のところに連れて行き、直接お客様にほめてもらうということをしているそうです。心のこもったものを作ることが商品の質を高め、そのことがただちに従業員にフィードバックされるという良循環が作られています。


 本書の帯に、「日本でいちばん大切にしたい会社」の著者坂本光司氏が推薦の文を書いています。*3「さいち」も間違いなく「日本でいちばん大切にしたい会社」の一つです。