歴史上の有名人の終末期

 ドラマを見ていて、主要登場人物の終末期をあまりにも美化しすぎることにいつも不満を感じる。今わの際まで意識が清明で、最期の言葉を語り終え静かに閉眼する。ほんの少し診ただけで傍に控える医師がお亡くなりになりましたと告げる。親しい人が泣き崩れ、臨終の場面があっけなく終わる。前段部分の長さに比較して、死亡確認の段階が極端に短い。
 この傾向は歴史ドラマになるほど顕著になる。NHK大河ドラマ天地人」では、妻夫木聡演じる直江兼続がまだ60歳なのにも関わらず、死期を悟ったような行動をとる。家老職を辞した後、米沢から江戸にのぼり、次期藩主に仕えている妻のお船常盤貴子)を連れて、故郷の越後に旅する。山に登り、子供たち3人の位牌を手に、感慨にふける。帰郷した後、自宅の縁側に腰かけ、落葉を見ながら人生を振り返る。そして、いつの間にかお船が呼びかけても反応しなくなる。ご苦労様という妻が呼びかけ、その涙とともにドラマは終わる。主人公が突然死に近い最期をとげても、誰も騒がないのかと、思わずつっこみたくなる。


 歴史上の有名人が実際にどのようにして亡くなったのか気になっていたところ、たまたま、2つの単行本を本屋で見つけた。

日本史有名人の臨終図鑑

日本史有名人の臨終図鑑


寿命戦争―武将列伝

寿命戦争―武将列伝


 篠田達明氏も若林利光氏も、医師兼文筆家という2足のわらじをはいている。数々の傍証を積み上げながら、死因に迫っていくところには、推理小説に近い面白さがある。


 直江兼続の死因は「日本史有名人の臨終図鑑」の方に次のように記載されている。

 元和5(1619)年5月初旬、忙しさのあまり体調を崩した。それでも5月13日に景勝に従って京都入りしている。京都滞在中、兼続の体調は思わしくなく、いつまでも疲労感がぬけなかった。江戸屋敷に帰ると病床に臥し、同年12月19日に不帰の客となった。享年60。


 臨床診断名: がん、腎臓病、肝臓病などの慢性疾患の末期。


 動乱の戦国を生き抜き、畳の上で亡くなったという経過からすると大往生であるといえる。


 「天地人」の登場人物の中で最も史実に忠実に描かれていたのは上杉謙信である。関東出陣を前に突然倒れ、言葉を発することができない状態で数日で亡くなった。享年49歳という若さで後継者も指名できない状態だったため、養子2人、景勝と景虎の骨肉の争いが生じることになる。
 若林利光氏は、謙信が40歳の時にも軽い発作を起こし、右手に障害を生じたことから、左内頚動脈狭窄に伴う脳梗塞と診断している。一方、篠田達明氏は、高血圧を基礎疾患とした脳出血と推測している。CTもなく、解剖もしていないので、どちらが正しいかは全くわからない。いずれにしろ、重度脳血管障害で失語症を生じたことは間違いないようだ。


 2つの本とも、酒の肴になりそうな話のタネが満載である。歴史ドラマを見る楽しみが少し増えたような気がする。今日から「龍馬伝」が始まる。