後期高齢者医療制度 片腹痛し

 兵庫県医師会 会長所感、より。

「会長所感」 −その1−


兵庫県医師会 会長 西村亮一


 桜花爛漫。新しい年度を迎えました。県民の皆さまにはお元気で、お過ごしになっておられるでしょうか。
 私は引き続き「会長」を拝命することになりました。この欄を利用しながら、折に触れての医療問題を解り易くお話していきたいと思いますので、何卒よろしくお願い致します。
 4月からは医療保険制度も大きく変化致しました。75才以上の方々は後期高齢者医療制度に加入しなければならなくなりました。病院・診療所を受診した時の窓口での負担は、今のところ1割負担ということで、そんなに変わらないと思います。しかし、これもその内に収入の多い方は、たとえ75才以上でも3割負担になることになっています。
 しかし、保険料のことがいささか複雑で、連日電話での問い合わせが殺到しています。準備が不十分な中を見切り発車をしてしまったので説明が行き届かなかったものと思います。特に相手は高齢者です。もっと解り易く親切にして欲しいものです。


後期高齢者医療制度
 何故このような制度ができてきたのでしょうか。厚労省は美辞麗句を並べてその理由を述べていますが、国民が長生きするため多額の医療費がかかる。何とかしなければ。という発想から生まれてきたものです。
 人間は生まれてから死ぬまで同じ生命である筈です。75才から生命の質が変わるわけがありません。私自身、75才で医療を区別するこの制度には根本的に基本的に反対です。
 この制度の中にもう一つ困ったことがあります。お年寄りの方が、「この先生が私の主治医」と決める先生を一人だけ選ばねばなりません。一人の患者さんが、一人の先生に診てもらう。と決められました。他の医療機関は医学管理料を算定することはできません。血圧は○○先生、胃腸は○○先生、糖尿は○○先生、心臓は○○先生。というようなかかり方はできなくなりました。あくまで一人、主病は一つ、一医療機関ということになりました。一人のお年寄りは、色んな病気を持っています。色んな医療機関にかかることがあります。そのような自由が日本の今までの医療保険の優れたところだったのです。「いつでも、誰でも、どこでも」という原則が覆されたことになります。ただ、財政の問題だけで生命を75才以上で区別するような制度は、早く取り止めていただきたいものです。
 最近、後期高齢という言葉は失礼にあたる。長寿医療制度と変えたらどうだと福田総理は言い出しました。「長寿」とは片腹痛し。我々の医療の現場では、むしろ命を縮める制度であるとかなり批判の多い制度です。果たしてどうなっていくことやら。波瀾万丈の年度明けとなりました。


平成20年4月


兵庫県医師会
会長 西 村 亮 一


 小気味の良い所感です。「片腹痛し」、年輪を感じさせる言葉です。