茨城県医師会が制度撤回を求める声明発表

 茨城県医師会が、都道府県レベルの医師会で初めて、制度撤回を求める声明を発表した。長寿医療制度:「高齢者に大きな負担」県医師会、撤回求める 当事者に戸惑い /茨城より。

長寿医療制度:「高齢者に大きな負担」県医師会、撤回求める 当事者に戸惑い /茨城


4月5日12時1分配信 毎日新聞


 1日始まった後期高齢者医療制度を巡り、茨城県医師会(原中勝征会長)が都道府県レベルの医師会で初めて、制度撤回を求める声明を発表した。運用開始当日に福田康夫首相の指示で急きょ「長寿医療制度」に呼び替えることが決まるなど、異例の船出となった。対象となった高齢者から戸惑いの声が聞こえる。【八田浩輔】


 制度は75歳以上の高齢者全員が対象で、国民健康保険などから新しい医療保険に移行した。窓口での自己負担1割は従来と変わらないが、保険料は所得により異なり、年金受領額が年18万円以上の場合は年金から天引きされる。背景には、膨らみ続ける高齢者医療費抑制の狙いがある。
 これに対し、県医師会は先月22日に開いた理事会で反対する方針を決定。同月末に「制度は高齢者に大きな負担をもたらし、医療を制限する萎縮(いしゅく)医療そのものだ」として、制度の撤回を求める声明を発表した。ポスターを作って全会員に配布し、来週から署名活動を展開する。原中会長は「制度について、高齢者も医師もよく分からない状態。世界一の健康長寿国を支える今の(国民皆保険)制度をなぜ壊そうとするのか。この国を立て直してきた高齢者に対して、早く死ねということか」と疑問を投げかける。
 「何で線引きされなければいけないの」。水戸市の伊部豊子さん(79)は不安を隠さない。13年前に夫を亡くし、収入は月約11万円の年金のみ。貯蓄はほとんどない。リウマチなどの持病があり、医療費は月2万円以上。食費や生活に必要な車の維持費などを取ると、手元に現金はほとんど残らないという。制度移行に伴い、知人に保険料の計算を頼んだところ、月々の負担は若干だが上がる見込みであることが分かった。「やっていけないよ。今更(長寿医療制度に)名前を変えても本質は一緒。言葉だけじゃなく、高齢者を本当に大事にする制度にすべきだ」と嘆く。
 県内の運営主体「県後期高齢者医療広域連合」(水戸市)は、約31万人の被保険者を抱える。1日から問い合わせ用の電話回線を5本から10本に増やし、相次ぐ問い合わせに対応している。4日までに大きな混乱はないという。黒川英治事務局長は「従来と同じように医療が受けられることを引き続き周知していきたい」と話している。


4月5日朝刊


 どうでも良いことながら、見出しに見慣れぬ「長寿医療制度」という言葉を用いていることは、読者を混乱させる。「後期高齢者医療制度」という用語で統一すべきである。


 m3ニュースで、茨城県医師会がらみのニュースが取り上げられている。

後期高齢者診療料 地域医師会で届け出拒否の動き 茨城県医は会員に出来高払いでの算定求める


記事:Japan Medicine
提供:じほう


【2008年4月7日】
 後期高齢者の外来での継続的な医学管理を評価する「後期高齢者診療料」の届け出を行わないよう推進する動きが、都道府県医師会や郡市医師会などで出始めている。茨城県医師会では、後期高齢者診療料の施設基準の届け出を行わず、出来高払いで算定するよう求める文書を会員あてに送付した。原中勝征会長は本紙の取材に対し、「75歳を境に医療を区別するのは、命の差別ではないか。制度自体の撤廃を求める運動を展開するが、とりあえず後期高齢者診療料を届け出ないよう呼び掛けたい」と述べた。


 同診療料は、糖尿病などの慢性疾患を「主病」とする後期高齢者に対して、診療計画書に基づいて継続的な外来医療を提供した場合に評価する包括点数。月1回の算定で600点となっている。厚生労働省は、1人の後期高齢者について主病は1つであり、原則として1人の患者を1つの医療機関が診るとしているが、日本医師会は同診療料が登録医制度につながると警戒している。
  茨城県医が会員あてに送付した文書では、<1>「1患者につき1医療機関」の算定は実態に合わないものであり、断固反対する<2>後期高齢者診療料の届け出を行わず、出来高払いで算定する<3>後期高齢者診療料の届け出条件である研修会の開催について、茨城県医では行わない-の3点を挙げた。このほか茨城県医は、後期高齢者医療制度自体に反対するポスターを作製して会員に配布。患者に対する署名活動も開始した。
  原中会長は「関東甲信越医師会連合会の各会長にもこうした動きに賛同してもらえるよう話し合いを進めたい」と話した。
  茨城県医と同様の動きは山形県医も始めており、同診療料の届け出を行わず出来高算定とするよう会員に呼び掛けている。これ以外に郡市区医師会レベルでも、同様の動きが広まりつつある。


日医執行部、慎重に検討


 この問題は2日の日医定例代議員会でも取り上げられ、難波俊司代議員が「後期高齢者医療制度長寿医療制度と呼称するというが、何が長寿だと言いたい。むしろ命を縮める制度だ。日医は後期高齢者医療制度をつぶしにいく覚悟はあるのか」と問いただした。これに対し竹嶋康弘副会長は「即座には答えられないが、かつて武見太郎会長は高齢者医療制度はうば捨て山になると言われた。そうならないようにする必要がある。執行部で十分に検討したい」と述べるにとどめた。


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 この件に関し、So-net M3で橋本佳子編集長が次のような記事を書いている。

4/4号 苦情殺到、「長寿医療制度」に変更しても… - 2008/04/04


 「長寿医療制度」に名称を変更する。4月1日にこのニュースを聞いたときは、一瞬、エープリルフールのいたずからと思いました。まさか後期高齢者医療制度のスタート初日に、名称が変わるとは想定していなかったからです。


 「長寿医療制度」はあくまで、「通称」ですが、福田康夫首相の発案で急きょ決定したとか。後期高齢者医療制度に対しては、野党が撤廃を求めるなど批判的な意見が多く、名称変更で批判をかわすどころか、ますます混迷の度合いが深まりそうです。


 テレビを見ていたら、苦情を言いに来る高齢者がお役所の窓口に殺到している、とも受け取られる場面を取り上げていました。「なんでわれわれお年寄りから保険料を徴収するんだ」と。私の手元に新聞の折込広告として入っていた「政府広報」があります。Q&A方式でこの制度を説明していますが、


Q:なぜ「後期高齢者医療制度」が創設されるのですか?
A:高齢者の心身の特性に応じた医療を提供し、その医療費を国民全体で支える分かりやすい仕組みをつくるためです。


 と書いてあります。現状では、この「医療費を国民全体で支える仕組み」について合意が得られるとは思えません。


 医療機関でも、この新制度への対応に苦慮しているようです。例えば、今回の診療報酬改定で新設された「後期高齢者診療料」。この包括点数には批判も多く、例えば茨城県医師会では、同点数の届け出をしないよう会員に呼びかけるなど反対運動を展開しています。


 先日、4月2日の日本医師会定例代議員会では、茨城県医師会の代議員の方と、日医幹部との間で興味深いやり取りがありました。


茨城県医師会の代議員:「白クマ通信」で、茨城県後期高齢者医療制度の反対運動を取り上げるよう先日お願いしたが、取り上げてもらっていない。「白クマ通信」では、どんな基準で取り上げるのか。


中川常任理事:特に規定はない。ただこの制度への反対運動を取り上げると、日医がそれを支持していると受け取られる…。


 中川常任理事の答えは、やや歯切れの悪いものでした。


 そのほか、「高齢者の医療の確保に関する法律」の第88条を問題視する医療関係者もいます。同条では、


 被保険者が闘争、泥酔又は著しい不行跡によって疾病にかかり、又は負傷したときは、当該疾病又は負傷に係る療養の給付等は、その全部又は一部を行わないことができる


 と定めています。酔っ払って転び骨折した患者はいったいどうなるのでしょうか。後期高齢者医療制度をめぐる動きからしばらく目が離せません。


 後期高齢者医療制度に賛成した手前、日医本体はどうしても及び腰の対応となる。それに比べ、茨城県医師会の対応は明瞭で心地よい。
 都道府県医師会レベルでも、後期高齢者医療制度への反対運動が始まっている。先頭を切って、発言を続けている茨城県医師会にエールを送りたい。