石川誠氏が語る日常生活機能評価の問題点

 医学書院/週刊医学界新聞 第2805号 2008年11月10日、(『総合リハビリテーション』第36巻11号より)  2008年の医療制度改革を語るに、二木立氏、石川誠氏、近藤克則氏の鼎談より、石川誠氏が日常生活機能評価の問題点を次のように語っている。


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石川 1つは質の評価として出てきた「日常生活機能評価」です。リハ領域ではBarthel Index(以下,BI)やFunctional Independence Measure(以下,FIM)を使っていますが,「これらはどう違うのか」という議論が起こったため,協議会で「日常生活機能評価」とFIMの関係を検証しました。その結果,両者の間には互換性があるとは言い難いことがわかりました。「日常生活機能評価」は看護必要度(必要看護人員の算定ツール)なのです。ですから協議会では,BI,FIMとはそもそも視点の異なる評価であると考え,両方を調べるように主張しています。

 「日常生活機能評価」を使うことになったのは,厚労省の意図的な戦略だと思います。これまで「重症度・看護必要度」は特定集中治療室管理料とハイケアユニット入院医療管理料で使われていましたが,7対1看護に導入され,急性期病院では看護必要度のチェックが必須事項となりました。このなかのB項目が「日常生活機能評価」として回復期リハ病棟に導入されたのです。


 また介護保険の分野では,9月に開始した介護認定のモデル事業で新たな要介護度の認定調査項目となる動きがあり,そこに看護必要度の項目が入ります。つまり,急性期の「重症度・看護必要度」,回復期リハ病棟の「日常生活機能評価」,介護保険の「要介護度」がつながるのです。国は,急性期から長期・慢性期まで継続的に手のかかり具合を測りたかったのだと思います。

 これまで、本ブログで主張してきた内容とほぼ同じ問題点を石川誠氏が指摘している。毎年行われる全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会のデータをもとに、ADL指標と看護必要度との違いを検証しようという戦略を描いているように思われる。
 「看護必要度」を介護保険の要介護認定まで使用しようという企みがあるということは初めて知った。ICUやハイケアユニットにおける看護要員数を算定するツールが、とめどもなく暴走し始めている。

回復期リハ病棟では、看護業務の2割が「リハ」

 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会第7巻第3号(通巻26号)に、「回復期リハ病棟における提供サービスの実態と今後の課題 −他計式1分間タイムスタディ調査結果をもとに」という調査報告(講演要旨)が載った。筒井孝子氏と東野定律氏が分担して報告をしている。この報告の中で、回復期リハビリテーション病棟における看護業務の特徴が紹介されている。


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# 職員に対するタイムスタディ調査のポイント(対象職員:337名)
 看護師1人あたりの総看護業務提供時間は平均483.6分。

  • 「療養上の世話」が29.9%
  • 与薬、治療、処置などの「専門的看護」が4.0%
  • 機能訓練など「リハビリテーション」が20.8%
  • 残りは「行事、連絡、調整、報告、会議、研修など」看護関連業務が45.2%


# 患者に対するタイムスタディ調査のポイント(対象患者:58名)

  • 「専門的看護」では、明らかに「7対1」「10対1」のほうが「回復期」よりも提供時間が長い。
  • リハビリテーション」では、「回復期」が「7対1」「10対1」の10倍近く提供時間が長くかかっている。


 本講演では、「日常生活機能評価」を用いて、回復期リハ病棟間に重症度の差があることや患者の改善度を見ている。一方、「重症度に係る評価票」(ICU用)、「重症度・看護必要度に係る評価票」(ハイケアユニット用)の2種類を組み合わせ、回復期リハ病棟の看護師配置数を算定し、実配置数と比較するという試みを行っている。


 「看護必要度」とは、「入院患者に提供されるべき看護の必要量」をいう。「看護必要度」を正確に把握し、適切な看護師配置を評価するために用いられる。いわば、科学的根拠に基づく要員管理のツールである。しかし、実際に調査を行った対象は、ICUやハイケアユニットであり、回復期リハビリテーション病棟ではない。
 1分間タイムスタディで明らかになったことは、回復期リハビリテーション病棟で働く看護職の業務が、「7対1」「10対1」の看護業務は明らかに異なっていることである。ICUやハイケアユニット用の「看護必要度」を用いて、回復期リハビリテーション病棟の看護師配置数を算定することは誤りである。
 「重症度・看護必要度に係る評価票」(ハイケアユニット用)のB得点を、「日常生活機能評価」という名前に変更し、ADL評価のような体裁で評価するという恣意的な改変がなされた。石川誠氏の発言にもあるように、「日常生活機能評価」とFIMやBarthel IndexのようなADL評価には互換性があるとは言い難い。言い換えると、日常生活機能評価はADL評価として妥当性に欠けることを、「看護必要度」開発メンバーや厚労省官僚が理解しないといけない。

名称類似薬誤投与事件続報

 徳島県で起きた名称類似薬誤投与事件の続報。朝日新聞電子カルテ、過去にも誤入力 筋弛緩剤誤投与の病院より。


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電子カルテ、過去にも誤入力 筋弛緩剤誤投与の病院
2008年11月20日


 徳島県鳴門市の健康保険鳴門病院で、誤って筋弛緩(きんしかん)剤を点滴された男性患者(70)が18日に死亡した医療事故で、同病院は朝日新聞の取材に対し、過去にも電子カルテの入力ミスや誤表示のため、違う薬を投与しそうになったケースがあったことを明らかにした。同病院は再発防止策をとっていなかった。


 同病院によると、医師がパソコン端末で入力する電子カルテを通じて薬品を発注すると、薬剤師の手元には薬品の名前と分量を示した紙しか出てこない。電子カルテを導入した04年7月以降、医師の入力ミスや誤表示で、誤った薬品名が薬剤師に伝達されたことが数回あったという。


 同病院は、いずれも薬剤師が「分量がおかしい」と気づき、誤投与はなかったとしている。だが、電子カルテの表示システムの改良や、医師や薬剤師の意思疎通を強化するなど具体的な対策は取られなかった。


 今回、抗炎症剤「サクシゾン」と筋弛緩剤「サクシン」を取り違えた原因の一つについて同病院は、薬品名を検索する時、入力した文字を含む全薬品名がパソコン画面に表示され、毒薬や劇薬かどうかの区別までは分からないシステムだったことを挙げている。


 00年に同様のミスが起きた富山県高岡市民病院は、薬品の検索システムを改善。毒薬の場合、毒薬の検索画面を開かないと処方できないようにした。また、薬剤師や看護師には、薬剤が間違っていないか医師に確認させているという。


 財団法人・日本医療機能評価機構の調査では、鳴門病院を含め、登録している全国約550の医療機関のうち、類似した名前で薬剤を取り違えた事例は、調査を始めた04年10月から07年12月までに11件あった。医療過誤に詳しい森谷和馬弁護士(第二東京弁護士会)は「電子カルテの画面でサクシンが表示された時に、筋弛緩剤だと警告も出ていれば間違いに気づいたはず。ミスが起きることを前提に、食い止めるシステムを作るべきだ」と指摘する。


 医療事故が起きると、当事者や医療機関の責任を追及する論調でニュースが流される。しかし、本記事は、「なぜ起こったのか」「どうしたら防げるのか」という視点で記載されている。全く同じ事件が過去にも起こっていたこと、システムエラーが問題であること、ミスが起きることを前提に食い止めるシステムを作ることが最も大事であることが、簡潔な文章でまとめられている。
 名称類似薬誤投与事故はどの医療機関でも起こりうる。電子カルテ自体の機能を生かし、同種の事故を未然に防ぐことが求められる。厚労省は、全国全ての病院にシステム再点検を呼びかける緊急通達を出すべきではないかと考える。