産科医療協議会の声明文とご主人のコメント

 墨東病院において妊婦さんが脳出血で亡くなられた件に関し、産科医療協議会のコアメンバーからの声明文が出されました。産科医療協議会の声明文を読まれたご主人からのコメントも記載されています。謹んで引用させていただきます。

 「この度の皆様方の声明に対して、深く感謝申し上げると共に、心強く感じております。 決して恵まれたとは言えない環境の中、ご苦労が絶えないことと思いますが、決して屈することなく、命を取り出すという重責ある、尊い仕事を誇りを持ってまっとうして頂くことを心よりお願い申し上げます。」


 時事通信安心して産める社会に=「誰も責める気ない」−死亡妊婦の夫が会見の中で、亡くなられた妊婦さんのご主人は次のように語っておられます。

  • 「妻が浮き彫りにしてくれた問題を、力を合わせて改善してほしい。安心して赤ちゃんを産める社会になることを願っている」
  • 搬送要請で、医師は頭痛が尋常でない状況を伝えていたといい、「伝わらないはずがないと思うが、誰も責める気はない」
  • 最初に断った同病院の当直医について「傷ついて辞めるようなことになったら意味がない。絶対辞めないでほしい」
  • 墨東病院の医師も看護師も本当に良くしてくれた。彼らが傷つかないようにしてほしい」
  • 「のど元過ぎれば忘れるのではなく、具体的な目標を持って改善に向かってほしい。何かが変われば『これを変えたのはおまえのお母さんだよ』と子供に言ってあげたい」


 医療が進歩したとしても、安定した供給体制がなければ、いざという時に医療サービスを受けることはできません。今回の場合、産科救急の最後の砦というべき周産期医療センターが脆弱な体制に陥っていたことが判明しました。高次医療機関がそろっているはずの東京でさえ、医療崩壊が現実の危機となっていることが明らかになり、社会問題化しています。
 このような中、亡くなられた妊婦のご主人は、悲しみの淵にありながら、理性的な態度を貫いています。その言葉のひとつひとつが私たち医療者を粛然とした思いにさせます。心が折れそうになりながらも、日々荒廃していく日本の医療をなんとか支えようとする医療者たちに勇気を与えてくれます。
 ご主人の言葉は、周産期医療だけに向けられたものではなく、医療全般の再生への願いをこめたものと私は受け止めています。


 本エントリーで紹介した産科医療協議会の声明文は、ロハス・メディカル、声明文で知りました。投稿いただいた川口恭氏に感謝いたします。

こんにゃくゼリーの物性

 農林水産省こんにゃく入りゼリーに関する調査結果について内にある、調査2 こんにゃく入りゼリーの物性の測定及び注意表示に関する調査の結果について【別紙3及び4(PDF:711KB)】を紹介する。

3 結果と考察
(1)物性の測定
1) 国民生活センターが実施した測定結果との比較(図1)
 今回の測定結果は、平成7年に国民生活センターが測定した結果に比べ、事故品を含め、かたさ及び弾力ともに高い値を示した商品が多く、若しくはかたさ及び弾力が高い商品も認められた。その一方で、かたさ及び弾力がより低い商品も認められた。これらの結果は、平成19年7月5日に国民生活センターが公表したこんにゃく入りゼリーのかたさ及び弾力に関する測定結果ともほぼ同様であった。


2) 解析結果と商品の表示に記載された事項との関連(図2)
 解析対象中9商品については、商品の表示から原材料等に関する詳細な情報が確認された。今回の解析結果とこれらの商品に記載された事項との関連は次のとおりであった。


(中略)


 以上の結果から、限られたデータではあるが、使用されるこんにゃく粉(マンナン)の含量並びにゲル化剤の組合せからゼリーの物性に影響を及ぼすことが明らかになったことから、食品事業者がゼリーのかたさや弾力について今後の改善策を検討する場合には、それらに十分注意を払う必要がある。


 本調査は、2007年3月及び4月にこんにゃくゼリーに起因する児童の窒息事故が発生したことを受け、農林水産省が行ったものである。


 以下、「脳卒中の摂食・嚥下障害(第2版)、「食べやすい食品とはなにかー食物のテクスチャーとレオロジー」(p.101〜103)を参考に話を進める。

脳卒中の摂食・嚥下障害第2版

脳卒中の摂食・嚥下障害第2版


 食品の性状を語る言葉としてテクスチャー(texture)がある。また、物質の変形や流動の現象を扱う学問をレオロジー(rheology)という。感覚的な食べやすさ(テクスチャー)をレオロジーの面から数量化しようとする研究がなされている。
 液体内部に生じる摩擦により、サラッとしているものからドロッとしている性質が決まる。これを粘性という。一方、固体に力を加えようとした時にもとの形にもどろうとする性質のことを弾性という。安全に嚥下できる食塊とは、咀嚼をしながらつくられていくもので、ある一定の粘性と弾性がある。嚥下食とは、あらかじめ、嚥下しやすいように調整された食事のことを指す。
 ゼラチンや寒天は多糖類であり、条件によってゲル-ゾル転移が起こる。ゼラチンゼリーを食べたとき、体温で表面がゾル化(溶けること)してすべりやすくなる。一方、こんにゃくは熱不可逆性ゲルであり、このような現象は起こらない。


 事故を起こしたこんにゃくゼリーは、弾性およびかたさが著しく高い。こんにゃくゼリーは破断されにくく、同じ形態を保ち続ける。こんにゃくゼリーレオロジーの観点からみると、意識的に咀嚼を行わないと食べることができない食品といえる。
 このような食品がミニカップタイプの容器で提供された場合、事故につながる。ミニカップ入りゼリーは、吸引した時に誤って咽頭に入り込みやすい。ゼラチンゼリーでは、咽頭内で形状を変更することができる。しかし、こんにゃくゼリーの場合には、そのままの形で気道を塞ぐ。喀出力の弱い年少児および高齢者の場合、致死的な経過をたどることになる。
 ミニカップ入りのこんにゃくゼリーは、物性の点からも、窒息事故を誘発する危険性が高い。

こんにゃくゼリーの事故、こども向けの記事の方がわかりやすい

 アサヒ・コムきっず、ニュースDEジャンケンポン、こんにゃくゼリーの事故より、一部を引用する。

 ポン:どうしてのどにつまるんだろう。


 吉田記者:問題なのは「かたさ」と「吸いこむこと」だ。人の口の奥には、食べ物の通る食道と、呼吸をする気道の入り口がある。ものを食べるときは、食べ物が気道に入らないよう、体が自然に気道にふたをするしくみになっている。ところが、ゼリーをかまずに吸いこむと、体がものを食べると認識せず、気道が閉じない。そこにこんにゃくゼリーが入り、かたくてくずれないのでふさがってしまう。


 ジャン:なんで小さい子やお年寄りが被害に?


 吉田記者:どちらものみこむ動作が思うようにいかず、食べ物をのどにつまらせやすい。2006年の1年間に、全国の消防本部があつかった食べ物による窒息事故で、年齢が分かっているのは592例。そのうち65歳以上が7割、10歳未満が1割を占めている。原因となった食べ物は、穀類に次いで菓子類、魚介類、果実類などさまざまだ。

●きょうのポイント


 ▽こんにゃくゼリーをのどにつまらせて死亡する事故が、小さい子どもとお年寄りを中心に、1995年からこれまでに少なくとも19件起きている。


 ▽こんにゃくゼリーのかたさと、吸いこむという食べ方が、のどにつまりやすい原因。


 ▽業界団体はこれまでも、小さな子やお年寄りは食べないよう表示をつけるなど対策をとってきたが、事故を防げなかった。こんにゃくゼリーのかたさや形を規制する法律がないので、新しくルールをつくる動きが出てきている。


吉田 由紀記者(朝日小学生新聞


 「こんにゃくゼリーのかたさと、吸いこむという食べ方が、のどにつまりやすい原因」という部分と同様の主張を、本ブログでも展開していた。しかし、この記事ほど簡潔に説明はできなかった。難しい内容をわかりやすく説明することは才能である。吉田記者に対し、思わず「よくできました。」とはなまるをつけてあげたくなる。