回復期リハ病棟への成果主義導入でリハビリ難民のおそれ

 東京新聞退院率低いと診療報酬減額 リハビリ難民もより。

退院率低いと診療報酬減額 リハビリ難民
2008年10月30日 朝刊


 脳卒中などで体が不自由になった患者が入院する「回復期リハビリテーション病棟」で今月から、患者の退院率が低いと病院が減収になる診療報酬制度がスタートした。長期の入院患者を減らすことで、国は医療費削減を狙う。医療への初の成果主義の導入ともいわれるが、患者や医師からは「重症患者の入院を嫌う病院が増え、リハビリ難民が生じる危険がある」という不安の声が上がっている。 (砂本紅年)


 車いすに乗った妻(50)の手を握り、会社員の夫(51)は声をかけた。「調子いいな、ずいぶん元気になったよ」。妻の硬い表情の中に、かすかにほほ笑みが浮かんだ。
 高校教師だった妻は昨年七月、くも膜下出血で倒れた。救急搬送された病院で手術をした後、今年二月から首都圏にある回復期リハ病棟に入院している。全身まひの状態が続くが、一日三時間のリハビリで、少しずつ体に「力」が戻ってきた。介助すれば寝返りができ、車いすやベッドへの移動も楽になった。
 栄養はチューブで胃に入れ、気管も切開してチューブが入っている。リハビリの効果で必要な栄養の半分を口から取ることができるようになったが、家庭で介護するのは困難だ。
 診療報酬制度の改定で、リハビリ病棟では二年前から、一定の日数(最長百八十日)を超えると、報酬が半額以下になり、リハビリが制限されるようになった。妻の入院は既に二百数十日。「今は病院の好意でおいてもらっている」と夫は言う。
 さらに今月から患者の自宅などへの退院率が低いリハビリ病棟は、一日の入院料が5%減額されることになった。他の医療機関に移るのは退院とみなされない。夫は「病院でのリハビリを続けたい。制度の改変は理解できない」と訴える。
 介護やリハビリで知られる「鶴巻温泉病院」(神奈川県秦野市)の澤田石順医師は「退院率を上げるには、重症患者や後期高齢者の入院を断るしかない。当病院では、四月以前は重症患者が六割だったのに、十月以降は七割以上に増えた。他の病院から流れてきたとしか思えない」と指摘。「成果主義は医療になじまない。長期リハビリが必要な患者さんが医療費削減の狙い撃ちにされた」と憤る。


 <回復期リハビリ病棟の診療報酬改定> 新規入院患者のうち1割5分以上が重症患者で、退院患者のうち自宅などへ戻る患者の割合(退院率)が6割以上でないと、1日の入院料が5%減額される。退院率6割は全国平均の数字とされるが、「もともと一部の熱心なリハビリ病院だけが重症患者を受け入れており、不熱心な病院のレベルに合わせた不当な改定」との批判もある。


 回復期リハビリテーション病棟への成果主義導入に対する憤りが、本ブログ開設の原点である。東京新聞の記事は、簡潔ではあるが核心をついている。澤田石順先生の活動が少しずつではあるが、マスコミでとりあげられ始めている。

短時間通所リハビリテーションの創設、ほぼ確定

 読売新聞、介護保険で提供するリハビリを強化より。

介護保険で提供するリハビリを強化


厚労省方針 短時間通所など創設


 厚生労働省は29日、来年度の介護報酬改定で、介護保険で提供するリハビリテーションの内容を強化する方針を決めた。


 短時間・集中型の通所サービスを創設し、個別リハビリも増やすことなどで、医療機関での機能回復訓練を終えた人の受け皿を充実させる。30日の社会保障審議会介護給付費分科会で基本的な方針を示す予定。


 高齢者のリハビリは原則、発症直後の急性期と治療後の回復期は医療保険、状態が安定した維持期は介護保険で提供されている。しかし、医療機関に比べ、介護保険の通所リハビリは事業所数が少ないうえ、内容も、長時間滞在し、食事やレクリエーションも行いながら、集団で実施されることが多い。このため、介護保険でのリハビリを敬遠する高齢者もいることから、維持期リハビリの一部は現在、医療機関医療保険を使って行われている。


 来年度の報酬改定では、リハビリだけを1、2時間集中して行うサービスを創設するほか、退院直後に介護保険のリハビリを使い始めた人などに対し、現在も行われている個別の機能回復訓練を手厚くする。また、医療保険を使って病院で訓練を受けている高齢者が、同じ病院で継続して訓練を介護保険でも受けられるよう、通所リハビリの指定基準や要件を見直す方針。

(2008年10月30日 読売新聞)


 以前、日本リハビリテーション病院・施設協会の介護報酬改定要望事項(2008年10月6日)や、「高齢者リハの現状、06年改定の要点、その後の課題」(2008年10月8日)というエントリーで、短時間型通所リハビリテーション創設の可能性が高いと指摘した。予想どおりの展開となっている。後者のエントリーで主張したことを再掲する。

 本図で示唆されているように、介護保険における短時間通所リハビリテーションの創設とは、疾患別リハビリテーション標準算定日数上限対策である。06年改定では、疾患別リハビリテーション料標準算定日数超えでも13単位まではリハビリテーションを実施できる仕組みが作られた。しかし、次回、2010年診療改定では標準算定日数超えは認められず、介護保険サービスで対応することになるのではないか。


(中略)


 私は、介護保険における短時間通所リハビリテーションの創設に関しては、基本的には賛成である。確かに、長時間の通所リハビリテーションを望まず、短時間サービスを望む方はいる。しかし、その見返りとして、医療保険の維持期リハビリテーションに関する規定を廃止することには断固反対である。
 現在は、介護保険の通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションを利用したとたんに、医療保険リハビリテーションを利用できなくなっている(参照:介護保険リハ開始後医療保険リハ利用禁止規定)。利用者の特質にあわせ、適切な維持期リハビリテーションサービスを選択できず、厚労省通知でがんじがらめにされている。
 医療費・介護費用削減を何よりも優先するという現在の政策の流れが変わらない限り、次回介護報酬改定で維持期リハビリテーションが充実するという幻想は抱くことができない。患者・利用者が選択できないような仕組みが続くのなら、国の重点施策「介護予防(要介護度悪化防止)」の達成は到底不可能ではある。