天平時代のパンデミック

 黄金週間だが、どこにも行かず"Stay Home"中である。折角なので自宅にある本、特に感染症と歴史に関する書物を読み返している。

 

病が語る日本史 (講談社学術文庫)

病が語る日本史 (講談社学術文庫)

  • 作者:酒井 シヅ
  • 発売日: 2008/08/07
  • メディア: 文庫
 

 

 「病が語る日本史」(酒井シヅ著)は、病気という視点で日本史を見つめ直したものである。様々な疾患が取り上げられているが、特に感染症に関する記述が充実している。

 代表的な疫病である天然痘に関しては、天平時代における大流行にページを割いている。なお、以前、奈良時代政権交代というエントリーを上げた時に年表をまとめたので、そちらも参照にして欲しい。

 

 第2章古代人の病を読むと、欽明天皇7年(546年)から天然痘の大流行が繰り返されていたことがわかる。藤原京から平城京への遷都(710年)の理由のひとつとして、文武天皇2年(698年)から15年ほど続いた疫病の流行があげられている。

 第1部第3章疫病と天皇では、律令体制を作り上げた藤原不比等の死も天然痘の疑いが強いと指摘している。養老4年(720年)、「疹疾漸く留まりて、寝膳安からず」(発疹がようやく治ったが、食欲がなく、不穏な状態であった)と続日本紀に記載された日のわずか2日後に不比等は亡くなっている。

 天平7年(735年)には、新羅からの使節入国、遣唐使の帰国など海外との往来が盛んだったが、太宰府管内から疫病が流行し始めた。続日本紀では、「全国的に豌豆瘡(裳瘡)を患って、若死にする者が多かった」とある。

 さらに、天平9年(737年)、畿内にも豌豆瘡が広がり、朝廷の役人にも流行し始めた。藤原四兄弟も、4月17日に房前(北家、57歳)、7月13日に麻呂(京家、43歳)、7月25日に武智麻呂(南家、58歳)、そして、8月5日に宇合(式家、44歳)が亡くなった。9月28日、公卿の中でわずかに生き残った鈴鹿王、橘諸兄、多治比広成を核に新政権が発足した。現代に置き換えると、閣僚のほとんどが疫病に斃れ内閣総辞職をせざるをえなくなったほどの衝撃である。この状況を悲観した聖武天皇は、短期間の遷都を繰り返し、大仏建立に推し進めることになる。天平時代のパンデミックが、古代の日本において大きな転換点になったことは間違いない。

 

 本書では、マラリア寄生虫病、インフルエンザ、ハンセン病コレラ、梅毒、赤痢、麻疹、結核、ペストなど様々な感染症が日本史に与えた影響が紹介されている。歴史を振り返る時、政治を動かした人物だけを見るのではなく、疾病、飢餓、自然災害など庶民の生活に関わる事象が通奏低音のように響きながら歴史の転換期に多大な影響を与えていたことを忘れないことが大事である。

 なお、第2部第7章天然痘と種痘でも、天然痘が再度取り上げられている。幸いにも、天然痘(痘そう)とはで記載されているように、「天然痘ワクチンの接種、すなわち種痘の普及によりその発生数は減少し、WHO は1980年5月天然痘の世界根絶宣言を行った。以降これまでに世界中で天然痘患者の発生はない」という状態になっている。麻疹やペストを含め、かつて多数の死者を出した疫病がコントロールされつつある時代に生きていることに感謝しなければならないと、歴史を振り返るたびに思う。

厚労省報告書から介護事故報告件数が削除された経緯

 昨年3月に、次のような記事が報道された。

 

 本記事の元データは、第17回社会保障審議会介護給付分科会介護報酬改定検証・研究委員会(平成31年3月14日)資料資料1-6 (6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案) [PDF:741KB]の10ページと資料1-7 (7)介護老人保健施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案) [PDF:1,123KB]の9ページにある。

 

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 両報告の欄外に記載されている数値、介護老人福祉施設からの「死亡」事故報告件数772施設1,117件と介護老人保健施設からの「死亡」報告件数275施設430件を合計した1,547件が新聞報道されている。なお、有効回収率は、市区町村調査で1,173ヶ所67.4%となっている。調査の限界はあるが、相当数介護サービスに伴う死亡事故が起こっていることが推測できる。

 最終報告書は、第170回社会保障審議会介護給付分科会(平成31年4月10日)資料(6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(報告書)(案)  [PDF: 16,790 KB]と(7)介護老人保健施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(報告書)(案)  [PDF: 8,344 KB]にまとめられている。介護老人福祉施設の方の報告書(案)の末尾に元になった調査票が記載されている。

 

 介護事故に関する市区町村票の質問事項は下記のとおりである。

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 介護老人福祉施設に関する報告書案187ページに上記内容に関する報告書(案)の記述がある。

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 詳細にまとめられた報告書(案)のなかで、介護事故報告件数に関する記述が見事に抜け落ちている。もっとも興味あるデータがない理由を探したところ、第17回社会保障審議会介護給付分科会介護報酬改定検証・研究委員会(平成31年3月14日)議事録に介護事故報告件数を報告書に入れなかった経緯について、次のようなやりとりが記載されていることを確認した。

○今村委員 1-7にもあるのですけれども、1-6の10ページ目に、小さな字で書いてあるコメントなのですが、ここで死亡者数が報告数として書いてあって、この死亡者数というのは非常に曖昧な数字なので、ひとり歩きする危険性のほうが高いので、私は今回出すことには余り賛成できません。
そもそもどんなことを安全体制として報告させていますかという調査をしていて、それぞれのところがばらばらな基準で安全報告をしている中で、その中でお亡くなりになった数なので、違う基準で報告されているものだと思うのです。ですから、その違う基準で報告されているものを、今、それぞれが違う基準だということの報告を求めているのが違うということを証明している調査の中での実数というのは非常に曖昧だと思うのです。
それに、介護施設で亡くなるという事故の概念も非常に難しいと思うのですけれども、家でもこけますし、転落もしますし、誤嚥も起こしますから、普通に起きていることを事故として報告しているかどうかもそれぞれの施設によって違うと思うのです。ですから、そういう基準が違うもので報告されてきた数字で、これはもしかしてひとり歩きすると、ものすごくセンセーショナルな数字になっていく可能性があるので、私は今回、こういう注のような形でも出すことは賛成できません。
ただ、放っておいてくださいということではなくて、もっと基準をはっきりとして、報告基準なりはっきりとしたものを調べていくということは今後必要だと思うので、今、既に調査項目は決まっているかもしれませんけれども、今後、こういうことが実際の数字として出てきている以上は、踏み込んだ調査を別途、考えてもらうというのが筋なのかなと。それを約束してもらえるのであれば、ここでこの数字を出していくことは、その危険性のほうが高いと思いますので、御検討いただければと思います。
○藤野委員 小坂先生、お願いします。
○小坂委員 7番のほうの委員長をしています小坂です。
これは本当に研究班の中でも議論されたことなのですけれども、ヒヤリ・ハットも事故も、非常に定義が曖昧なのです。イギリスなんかの調査だと、65歳以上の3分の1が転倒します。それから、80歳以上だと5割の人が家でも転倒するわけです。そうすると、家でどのぐらいの人が転倒したり事故が起きているかということとの比較なしに、介護施設だけの死亡者を取り出して、多いとか少ないと言うこと自体はナンセンスだと思っているのです。
ですから、誤解されるようであれば、本当にこれがひとり歩きしないような対応をとるべきだろうと私も思います。
○藤野委員 ありがとうございます。
こちらは、事務局のほうから何か御意見がございましたらお願いします。
○眞鍋老人保健課長 老人保健課長でございます。
介護老人福祉施設と介護老人保健施設の両方について、同じような調査票がございまして、私どもとしては、社会的注目が高かろうと思うということで、このように用意をさせていただいた次第でございます。
経緯を御説明させていただきたいと思いますけれども、そもそもこの調査の目的というのが、資料1-6の冒頭にございます。1ページに➀、➁、➂とございまして、目的は、分科会で宿題としていただいたものを我々がかみ砕いたものでございますけれども、まずは特養、老健における安全管理体制の実態を明らかにし、そして、➁は老健から市区町村への報告件数や報告方法がどのぐらいばらついているのかという、方法について検証すること。そして、その報告された内容を、市区町村においてそれらの施設で発生した情報収集活用状況の実態を把握することでございます。
ですので、調査票もそのようなつくりになっていまして、市町村で報告された件数を、そのまま集計したものでございます。例えば分析ですとか、これをさらにブレークダウンして、例えば何によるものであるということを分析できるような仕立てにはなってございません。それはもともとこの調査の目的が、ばらつきを調べる、実態を調べるということであったからでございますので、今、今村委員からの御指摘はそのとおりだと思っておりますし、私どもとしては、調査自体の目的は達成していると認識をしております。その中で出てきた数であって、確かに今村委員がおっしゃるとおりで、これがひとり歩きすることについて私どもも危惧をいたしますので、もしよろしければ、今、御指摘があったようなことも含めて、きょうは御不在ですが松田委員長とも御相談させていただいて、分科会への報告内容に関する取り扱いについては、そこで御相談をさせていただければと思っている次第でございます。
○藤野委員 今の御議論につきまして、委員の先生方、いかがでしょうか。
福井先生、お願いします。
○福井委員 資料1-6の調査の委員長をさせていただいておりますが、今、課長がおっしゃったような内容、また今村先生から御指摘いただいた内容を委員会の場でも相当、各いろいろな専門的なお立場の委員が懸念されているという状況の中で、この事業の目的は、事業者を引き締めるという方向ではなくて、まだ十分にはできていない、国と都道府県と市町村の仕組み、できればフィードバックをして、現場の方たちの意欲向上につながったり、質の向上につながったりするための初めての実態調査という位置づけになることを願うということが頻回に発言されましたので、そのような位置づけでの数字が出てきたと考えていただければと思います。今村委員がおっしゃったことも、プラスに行くようなメッセージの数字として、この資料が活用されればと考えております。
○藤野委員 ありがとうございます。
今の件は、1-6、1-7の御指摘とお取り扱いについても同様にということでよろしいですね。 

 

 日本医療安全調査機構が行う医療事故調査制度概要https://www.medsafe.or.jp/modules/about/index.php?content_id=2を見ると、医療の安全を確保し医療事故の再発防止を行うことを目的に、医療事故の収集・分析が積極的に行われている。それに対し、介護事故に関しては大幅に周回遅れの状況にあると言わざるえをえない。家でも転ぶから介護施設での転倒死亡事故報告をすることはナンセンスという主張は理解に苦しむ。転倒リスクが高い利用者に対し、予防策をとらずに介護事故が起こった場合には責任は免れないという意識が決定的に欠けている。なお、引用した図にも記載されているが、介護老人保健施設では、転倒に伴う死亡事故でも施設の49.2%しか市町村に報告されていない。

 介護事故に関する貴重な調査結果を厚労省は出すつもりがないことがわかった。残念ながら、教訓を得ることができず、各施設がそれぞれ手探りで対策をとるしかないのが現状である。

 

<追記>

  福岡市では、介護事故報告を公開しており、非常に参考になる。

老衰が死因の第3位に

 ついに老衰が死因の第3位になった。

 人口動態調査 結果の概要|厚生労働省の人口動態統計月報年計(概数)の概況、平成30年結果の概要 [532KB]に、主な死因別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移のグラフがある。

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 詳細な数字は、人口動態統計(確定数)の概況、平成30年概況 [1,587KB]にある。死因順位表の総数部分のみを示す。

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 僅差ではあるが、老衰が脳血管疾患をかわし死因順位第3位に滑りこんでいる。しかも、2017年度と比べ、脳血管疾患と肺炎の死亡数がそれぞれ減少している一方、老衰は大きく伸ばしている。

 なお、肺炎による死亡数は、2017年度以降減少している。この要因は最初のグラフの欄外に記載されているように、ICD-10(2013 年版)(2017 年1月適用)による原死因選択ルールの明確化によるものと考えられる。詳細は、人口動態調査|厚生労働省にあるICD-10(2013年版)適用による死因統計への影響 [250KB]に下記のように記載されている。

 

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  人口動態調査 結果の概要|厚生労働省平成30年我が国の人口動態(平成28年までの動向)[1,522KB] に、主な死因別にみた性別年齢調整死亡率のグラフがある。基準となる人口集団は昭和60年(1985年)モデルである。

 

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 がん、心臓病、脳卒中、肺炎いずれにおいても長期低落傾向となっており、粗死亡率の上昇は人口の高齢化の影響を強く受けていることが示唆される。

 老衰に関する年齢調整死亡率は、人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡 年次 2018年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口の、5-14 死因(死因年次推移分類)別にみた性・年次別年齢調整死亡率(人口10万対)にある。グラフ化すると以下のようになる。

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 1950年から数値が始まっているが、いったん急落し、2005年で最低(男 5.6、女 6.6)となった後、少しずつ上昇している。2018年には男11.7、15.2となっている。年齢調整死亡率であり、人口構成の変化による影響はない。

 以前は、原因不明の死亡に関し老衰とつけることがあったが、医学の進歩とともに別の要因が明らかになり、老衰という診断が避けられるようになった。しかし、日本学術会議終末期医療のあり方について-亜急性型の終末期について-で慢性型終末期と定義された事例が増加するなかで、あえて老衰という診断名をつけるような医師の意識の変化が生じてきた結果ではないかと推測する。

 いずれにしろ、高齢化の進行とともに、老衰という死因がつけられた死亡例が増加することは間違いない。死因のなかで老衰が占める位置にはしばらく変更はなさそうである。

 

地域包括ケア病棟入院料(管理料)に係る見直し

 2020年度診療報酬改定における地域包括ケア病棟入院料(管理料)に係る見直し中、リハビリテーションに関する部分の概要を確認する。

 

 第2.改定の概要2,令和2年度診療報酬改定説明資料等について内にある、01 令和2年度診療報酬改定の概要(全体版)【7331KB】をクリックすると、PDF資料がある。

 地域包括ケア病棟入院料(管理料)に関する資料は、165〜168ページにある。 

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  1枚目の図のなかに、「疾患別リハビリテーションの提供について、患者の入棟時に測定したADLスコア等の結果を参考にリハビリテーションの必要性を判断することを要件とする。」という文章がある。

 一方、2枚目の図では、「患者の入棟時に測定したADLスコア等の結果を参考にリハビリテーションの必要性を判断・説明・記録すること」となっている。どちらが正確なのかが、これだけではわからない。

 令和2年度診療報酬改定資料、01(医科)診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について【3,081KB】 の98〜100ページと、04基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて【1,205KB】の164〜171ページに地域包括ケア病棟入院料(管理料)に関する資料がある。後者の方にリハビリテーション提供に関する記述がある。

 

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 この記載で明らかなように、単にリハビリテーションの必要性を判断するだけではなく、患者又は家族に説明し、記録に残すことが求められる。リハビリテーションを行う場合には、実施計画書のサインをいただく際にご説明等をすれば良いが、行わない場合にも説明が求められる。

 リハビリテーションを実施しないと判断した場合の説明内容は下記のようなものが考えられる。

 

 地域包括ケア病棟の運用をするうえで、リハビリテーション医療の視点は不可欠である。逆に言うと、リハビリテーション料が包括であることや療法士数が少ないといった医療機関側の都合で、適応がある患者にリハビリテーションを実施しないことは、今後問題視されるということを肝に銘じる必要がある。

 

2020年度回復期リハビリテーション病棟入院料見直しの詳細

 2020年度診療報酬改定の詳細が明らかになった。

 

 第2.改定の概要2,令和2年度診療報酬改定説明資料等について内にある、01 令和2年度診療報酬改定の概要(全体版)【7331KB】をクリックすると、PDF資料がある。

 回復期リハビリテーション病棟入院料に関する資料は、169〜172ページにある。

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 中身はともかく、かわいいフリー素材集 いらすとやの資料が多数使用されているのが気になる。基本的には無料ということでよく見かけるイラストだが、「素材を21点以上使った商用デザイン」の場合は有償となる。厚労省のような公的機関だと無料で使えるのかもしれないが、あまり多用するのはいらすとやの宣伝を政府がしているようで望ましくないと感じる。

 本題に戻る。前エントリーでも、回復期リハビリテーション病棟入院料改定についてまとめている。

 

 その時、主な改定内容は以下のとおりと紹介した。

  1. 回復期リハビリテーション病棟入院料1及び回復期リハビリテーション病棟入院料3におけるリハビリテーション実績指数の要件について、それぞれ水準を引き上げる。
  2. 回復期リハビリテーション病棟に入院した患者に対して、入院時FIM及び目標とするFIMについて、リハビリテーション実施計画書を用いて説明し、計画書を交付することとする。また、退院時FIMについても同様の取扱いとする。
  3. 入院患者に係る要件から、発症からの期間に係る事項を削除する。
  4. 回復期リハビリテーション病棟入院料における重症者の定義に、日常生活機能評価に代えてFIM総得点を用いてもよいものとする。
  5. 回復期リハビリテーション病棟入院料1の施設基準である、「当該病棟に専任の常勤管理栄養士が1名以上配置されていることが望ましい」とされているものを専任配置に変更する。
  6. 回復期リハビリテーション病棟入院料2~6について、現状、管理栄養士の配置規定はないが、施設基準に「当該病棟に専任の常勤管理栄養士が1名以上配置されていることが望ましい」旨を追加するとともに、栄養管理に係る要件を設ける。

 

 最大の焦点だった実績指数に関しては、回復期リハビリテーション病棟入院料1で37→40に、同入院料3で30→35となった。当初予想していたよりは低めの水準となった。その他に関しても予想どおりの改定内容だが、重症定義にFIM総得点を使用可能という部分に関しては詳細は不明と指摘していた。そのうえで、重症定義としてFIM総得点30点台前半が設定され、重症改善基準は25点程度ではないかと予測した。

 結論から言うと、3枚目の図の欄外に小さく記載されているように、実際に設定された重症基準は、FIM総得点55点以下となった。また、重症改善基準は、入院料1、2でFIM総得点16点以上、入院料3、4で12点以上となっている。予測よりかなり緩い基準となった。日常生活機能評価よりFIMの方が細かな変化を反映できることを考えると、重症定義にFIM総得点の方を用いる医療機関が増えるのではないかと予想する。

 なお、令和2年度診療報酬改定資料、01(医科)診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について【3,081KB】 の94〜98ページと、04基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて【1,205KB】の157〜164ページに回復期病棟に関する資料がある。改定内容が赤字で記載されており、わかりやすい。

 地域連携診療計画加算を算定する患者の場合に関しては、最初の資料の方に下記記載がある。

 

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 この文章で注目すべきは、「原則として」という文言がわざわざ付け加えられたことである。急性期病院で日常生活機能評価を用いているが、回復期リハビリテーション病棟で重症者定義としてFIMを用いる場合、両者の評価が異なることになる。この場合の対応として、「原則として」という文言が入ったのではないかと推測する。いずれにせよ、疑義解釈待ちとなる。

 

 回復期リハビリテーション病棟入院料の施設基準に係る届出に用いられる、別添7の様式9、 様式 20、様式 49 から様式 49 の7(様式 49 の4を除く。)および日常生活機能評価届出に用いられる様式 49 の4ほかの届出書類に関しては、令和2年度診療報酬改定についての【省令、告示】(それらに関連する通知、事務連絡を含む。)(3)2 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)  PDF にある。

 

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 届出書類のうち、様式49の4に関しては、重症者定義が「入院時に日常生活機能評価が10点以上又はFIM総得点が55点以下の重症患者の数」と変更されている。しかし、他の様式、例えば、様式49の2に関しては、「入院時の日常生活機能評価が10点以上であった患者数」のままとなっている。おそらく、厚労省の単純ミスであり、すぐに修正されると予想する。

 

2020年度診療報酬改定答申における回復期リハビリテーション病棟入院料の見直し

 2020年度診療報酬改定答申が出た。

 回復期リハ病棟入院料の見直しは、総-1(PDF:1,619KB)の332〜337ページにまとめられている。

 主な改定内容は以下のとおりである。

  1. 回復期リハビリテーション病棟入院料1及び回復期リハビリテーション病棟入院料3におけるリハビリテーション実績指数の要件について、それぞれ水準を引き上げる。
  2. 回復期リハビリテーション病棟に入院した患者に対して、入院時FIM及び目標とするFIMについて、リハビリテーション実施計画書を用いて説明し、計画書を交付することとする。また、退院時FIMについても同様の取扱いとする。
  3. 入院患者に係る要件から、発症からの期間に係る事項を削除する。
  4. 回復期リハビリテーション病棟入院料における重症者の定義に、日常生活機能評価に代えてFIM総得点を用いてもよいものとする。
  5. 回復期リハビリテーション病棟入院料1の施設基準である、「当該病棟に専任の常勤管理栄養士が1名以上配置されていることが望ましい」とされているものを専任配置に変更する。
  6. 回復期リハビリテーション病棟入院料2~6について、現状、管理栄養士の配置規定はないが、施設基準に「当該病棟に専任の常勤管理栄養士が1名以上配置されていることが望ましい」旨を追加するとともに、栄養管理に係る要件を設ける。

 

 1.実績指数、3.発症からの期間に係る要件に関する中医協議論については、本ブログで昨年12月時点にまとめた。

 今回の答申では、回復期リハビリテーション病棟入院料1で37→40に、同入院料3で30→35となっている。当初予想していたよりは低めの水準となった。

 発症からの要件廃止に関しては、期限切れのため回復期リハビリテーション病棟に入棟できなかった患者にとっては朗報となる。

  5.および6.の栄養士配置基準の変更は、リハビリテーション栄養の普及を目指したものであり、歓迎すべき内容である。

  ここまでは、中医協の論点より予想できたものばかりである。

 

 一方、2.リハビリテーション実施計画書を用いたFIM説明の強化と4.重症者定義にFIM総得点を使用可能という改定内容は予想外だった。あらためて、中医協資料を調べてみると、中央社会保険医療協議会 (中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会))|厚生労働省 第11回(同年10月30日)の入-1(PDF:322KB)に次のようにまとめられていた。

  • 入棟時と退棟時のFIMの推移をみると、入棟時の値は平成28年度以降やや低下傾向にあり、退棟時の値はほぼ横ばいから微増傾向であった。また、FIM 得点の変化の推移をみると、平成 28 年度以降増加傾向となっていた。この関係性は、入院料ごとにみても、同様の傾向であった。
  • 入棟時FIMと発症から入棟までの日数の関係を経年的にみると、発症から入棟までの日数によらず、入棟時 FIM が低下傾向であり、他方、入棟時 FIM と FIM 得点の変化の関係を経年的にみると、入棟時 FIM の値によらず、FIM 得点の変化が増加傾向であった。これらの関係性は、疾患区分ごと又は入院料ごとにみても、同様の傾向であった。
  • 入棟時・退棟時FIM及びFIM得点の変化と、入棟時・退棟時日常生活機能評価及び日常生活機能評価の変化との関係については、平均値及び中央値に着目した場合、一定程度、相関関係が見られた。
  • これらの結果を踏まえ、FIM得点の経年的な変化については、FIM測定の精度の担保等を含め、適切な運用を促す仕組みが必要ではないかという意見があった。

 

 入-1参考(PDF:14973KB)の157〜187ページに回復期リハビリテーション病棟に関する資料がまとまっている。

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 本図は、回復期リハビリテーション病棟協会の調査に基づいている。実績指数導入に伴って入棟時FIMが明らかに低下しているが、発症から入棟までの日数の低下が原因の一つと判断されている。ただし、「適切な運用を促す仕組みが必要」となり、退院時にもリハビリテーション実施計画書を用い、FIMの説明をすることになったのだろうと推測する。

 

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 FIMと日常生活機能評価との関係に関しても、回復期リハビリテーション病棟協会の調査が使用されている。確かに、入棟時・退棟時FIM及びFIM得点の変化と、入棟時・退棟時日常生活機能評価及び日常生活機能評価の変化との関係については、平均値及び中央値に着目すると、一定程度の相関関係があるように見える。ただし、FIM運動項目を用いた散布図の方を見るとバラつきが多いこともわかる。さすがに入棟時日常生活機能評価19点にも関わらず、FIM運動項目90点というのはありえないだろうとツッコミを入れたくなる。入棟時日常生活機能評価の度数分布を見ても、重症と判断される10点が突出して多く、9点が極端に少ない。何らかの操作がされていると疑われても仕方がない。

 中医協答申資料を見ても、FIM総得点を用いた場合、何点が重症の基準となるかはわからない。重症者改善の基準も不明である。グラフから読みとる限りでは、日常生活機能評価での重症基準10点に相当するのは、FIMでは30点台前半となる。また、日常生活機能評価10点のFIM利得はおおよそ25点となっている。おそらく、このあたりで基準が設定されるのではないかと予想する。


<追記> 2020年3月7日

 FIM総得点を用いた重症定義の予測がはずれた。紹介した資料をよく見ると縦軸にFIMと記載されているが、目盛の上限が90点となっており、FIM総得点ではなく運動項目だったことに気づいた。FIM運動項目で30点台前半なら、認知項目とあわせて総得点55点以下を基準としても矛盾しない。

認知症が脳血管障害を抜いて要介護原因の第1位に

 厚労省が行っている主要統計調査のひとつに、国民生活基礎調査|厚生労働省がある。国民生活基礎調査では3年に1回大規模調査が行なわれるが、その中で介護の状況についての調査が必ず実施されている。

 グラフでみる世帯の状況の平成25年調査結果平成28年調査結果 を比べてみると、要介護別にみた介護が必要となった主な原因の構成割合順位に変動があったことがわかる。

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 平成25年(2013年)調査では、第1位脳血管疾患18.5%、第2位認知症15.8%となっている。

 

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 一方、平成28年(2016年)調査では、第1位認知症18.0%、第2位脳血管疾患16.6%と逆転している。

 平成13年(2001年)以降の大規模調査をもとに、介護が必要となった主な原因の構成割合推移をグラフにまとめた。

 

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 脳血管疾患割合が一貫して低下している一方、認知症は調査ごとに比率を増していることがわかる。高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患は調査ごとに順位の変動はあるもののほぼ同じような比率となっている。

 

 平成13年(2001年)以降、国民生活基礎調査における介護が必要となった者とは、要介護認定を受けている者という定義となっている。

 平成29年度 介護保険事業状況報告(年報) | 厚生労働省をみると、要介護(要支援)認定者数は年度を経ることに増加している。

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 要介護(要支援)認定者数に、要介護別にみた介護が必要となった主な原因の構成割合を乗じ、以下のようなグラフを作成した。

 

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 脳血管疾患がほぼ横ばいとなっているのに対し、認知症は 3.6倍と右肩上がりになっていることがわかる。高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患も認知症ほどではないが確実に増加している。

 

 2019年度に行われた国民生活基礎調査大規模調査の結果は、2020年6月頃に公表される予定である。脳血管疾患治療の進歩、および、高齢化社会の進行をふまえると、介護が必要となった主な原因の構成割合の順位には大きな変化がないと予想する。

 私が行っているリハビリテーション専門職の講義では、毎年、要介護の原因に関する試験問題を出している。日本では、要介護の原因の第1位は認知症であり、その次が脳血管疾患である、という事実は理解してもらっているものと思っている。