医師の平均寿命は短いという主張に対する検討

 医師の平均寿命が短いというtweetがあり、気になり調べてみたところ、下記記事が根拠とされていることに気づいた。

 

 本記事中に次のような言及がある。

 2008~2017年の10年間に、岐阜県保険医協会を死亡退会した85人について、死亡時年齢を調査した。内訳は、医科会員が60人、歯科会員が25人、男性が76人、女性が9人だった。

 集計の結果、死亡時平均年齢は70.8歳だった。「この結果には本当に驚いた。あくまでも参考値だが、厚生労働省の統計にある死亡時平均年齢(2015年)は、男性が77.7歳、女性が84.3歳であり、明らかな差があった」(浅井氏)。 

 

 浅井岐阜県保険医協会会長が言及した厚生労働省調査とは、平成27年度 人口動態職業・産業別統計の概況|厚生労働省である。概況版 [4,031KB]の5〜6ページの表4、5に死亡時平均年齢が男性77.7歳、女性84.3歳となっており、値が一致している。しかし、死亡時平均年齢が高い職種の方が長生きとは言えず、結果の解釈が明らかに間違っている。職業別の死亡率の違いを調べるのなら、年齢構成を考慮した年齢調整死亡率の方を使う必要がある。

 

 平成27年度 人口動態職業・産業別統計の概況|厚生労働省の表4 性、就業状態・職業別にみた死亡数・死亡率・年齢調整死亡率(平成27年度)を、男女別に分けて表示した。医師が含まれるのは、B.専門・技術職である。なお、総務省|統計基準・統計分類|日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定) 分類項目名をみると、この中には看護師ほかの医療従事者も含まれている。

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 年齢調整死亡率が最も高いのは、男性では無職であり人口千対13.2となっている。この群は死亡時平均年齢は79.6歳と高く、総数77.7歳と比し長生きしているように見える。しかし、年齢調整をしてみると、最も死亡率が高くなるという逆転現象が生じる。このことだけでも死亡時平均年齢が高いことを根拠とし寿命が短いと主張してはならないことがわかる。一方、女性では建設・採掘職において年齢調整死亡率が22.9と抜きん出て高く、死亡時平均年齢も72.6歳となっている。高齢女性が慣れない肉体労働をして亡くなっているのではないかと危惧される。

 医師、その他医療職が含まれる専門・技術職の年齢調整死亡率は男性3.5、女性2.8と就業者のなかでは高くなっている。しかし、本群には弁護士や教員など数多くの職種が含まれており、医療従事者の死亡率が高いという根拠とはなりにくい。

 

 表5 性、就業状態・産業別にみた死亡数・死亡率・年齢調整死亡率(平成27年度)を、男女別に分けて表示した。こちらは、総務省|統計基準・統計分類|日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)−目次に準拠しており、医療従事者は第3次産業 P 医療、福祉に含まれている。本分類には病院、診療所、歯科診療所、助産・看護業、療術業、歯科技工所など医療に附帯するサービス業、医療の管理・補助的経済活動を行う事業所しか含まれておらず、より正確な実態を示している。

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 年齢調整死亡率をみると、男性では鉱業、採石業、砂利採取業が抜きんでて高いが、サンプル数は少ない。ついで、情報通信業、漁業が高値となっている。一方、女性では複合サービス業、運輸業、郵便業が高いが、こちらもサンプル数は多くない。一方、医療、福祉は男性0.9、女性2.2といずれも就業者全体の値を下回っている。

 

 職業別、産業別の年齢調整死亡率をみる限り、医師を含む医療従事者の死亡率が他の職業や産業と比して明らかに高いと主張する根拠はなく、むしろ低い方ではないかと推測する。様々なストレスを抱えている職業であることは間違いないが、自分たちが早死にするような仕事を選んだわけではなさそうだとわかったので、本日は安眠できそうである。