維持期・生活期の疾患別リハビリテーション料に係る経過措置終了に当たっての対応

 2019年3月8日、平成30年度診療報酬改定について |厚生労働省内に、「要介護被保険者等である患者に対する入院外の維持期・生活期の疾患別リハビリテーションに係る経過措置の終了に当たっての必要な対応について PDF」という通知が載った。

 

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 区分番号「H001」は脳血管疾患等リハビリテーション料、同「H001-2」は廃用症候群リハビリテーション料、そして、「H002」は運動器リハビリテーション料のことである。「診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示) 平成30年 厚生労働省告示第43号 リハビリテーション PDF 」を見ると、脳血管疾患等リハビリテーション料の注4と注5は次のとおりである。なお、廃用症候群リハビリテーション料も運動器リハビリテーション料も算定日数上限の日数以外は同じである。

4 注1本文の規定にかかわらず、注1本文に規定する別に厚生労働大臣が定める患者に対して、必要があってそれぞれ発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日から180日を超えてリハビリテーションを行った場合は、1月13単位に限り、算定できるものとする。この場合において、当該患者が要介護被保険者等である場合には、注1に規定する施設基準に係る区分に従い、次に掲げる点数を算定する。

イ 脳血管疾患等リハビリテーション料(I)(1単位)  147点

ロ 脳血管疾患等リハビリテーション料(II)(1単位)  120点

ハ 脳血管疾患等リハビリテーション料(III)(1単位)  60点

5 注4の場合において、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関以外の保険医療機関が、入院中の患者以外の患者(要介護被保険者等に限る。)に対して注4に規定するリハビリテーションを行った場合には、所定点数の100分の80に相当する点数により算定する。

 

 注4の後段及び注5を算定できる期間が平成30年3月31日までとなっている。逆に言うと、注4の前段「1月13単位に限り、算定できるものとする。」までの部分は、心大血管疾患リハビリテーション料、呼吸器リハビリテーション料と同様に規定は残る。したがって、要介護・要支援認定を受けた要介護被保険者等以外の患者に関しては、今までどおり「1月13単位」を上限とした運用は可能である。

 一方、要介護被保険者の場合は、算定日数上限を超えた場合には、全く医療保険リハビリテーションを受けることができないかというとそうではない。「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知) (平成30年3月5日 保医発0305第1号)別添1 (医科点数表) PDF 」の脳血管疾患等リハビリテーション料のところに次のような記載がされている。

 

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 実は、上記規定は、それぞれの疾患別リハビリテーション料の注1の規定を再確認しただけである。「特掲診療料の施設基準等の一部を改正する件(告示) 平成30年 厚生労働省告示第45号 PDF」を見ると、「別表第九の八」、「別表第九の九」は次のとおりである。下線は平成30年診療報酬改定で追加されたものである。

# 別表第九の八

第一号

第二号

  • 先天性又は進行性の神経・筋疾患の患者
  • 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病の者を除く。)

# 別表第九の九

  • 別表第九の八第一号に規定する患者については、治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合
  • 別表第九の八第二号に規定する患者については、患者の疾患、状態等を総合的に勘案し、治療上有効であると医学的に判断される場合

 

 「難病患者リハビリテーション料に規定する患者」、「障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者」はそれぞれ次のとおりである。

# 難病患者リハビリテーション料に規定する患者

 

# 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(別表第十の二)

  

 以上をふまえると、要介護被保険者は、「1月13単位に限り」という注4の規定は利用できないが、「リハビリテーションを継続することにより状態の改善が期待できる」場合は、注1の規定を利用して、算定日数上限を超えて医療保険リハビリテーションを実施できることになる。

 しかし、上記の場合、大きなハードルが2つある。「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知) (平成30年3月5日 保医発0305第1号)別添1 (医科点数表) PDF 」に次のような記載がある。

<通則>

4 (前略)(疾患別リハビリテーション)の実施に当たっては、医師は定期的な機能検査等をもとに、その効果判定を行い、別紙様式 21 から別紙様式 21 の5までを参考にしたリハビリテーション実施計画を作成する必要がある。また、リハビリテーションの開始時及びその後(疾患別リハビリテーション料の各規定の「注4」にそれぞれ規定する場合を含む。)3か月に1回以上(特段の定めのある場合を除く。)患者に対して当該リハビリテーション実施計画の内容を説明し、診療録にその要点を記載すること。

 また、疾患別リハビリテーションを実施している患者であって、急性期又は回復期におけるリハビリテーション料を算定する日数として、疾患別リハビリテーション料の各規定の「注1」本文に規定する日数(以下「標準的算定日数」という。)を超えて継続して疾患別リハビリテーションを行う患者(疾患別リハビリテーション料の各規定の「注4」にそれぞれ規定する場合を除く。)のうち、治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合(特掲診療料の施設基準等別表第九の八第一号に掲げる患者であって、別表第九の九第一号に掲げる場合)は、継続することとなった日を診療録に記載することと併せ、継続することとなった日及びその後1か月に1回以上リハビリテーション実施計画書を作成し、患者又は家族に説明の上交付するとともにその写しを診療録に添付すること。(後略)

 

9  疾患別リハビリテーションを実施する場合は、診療報酬明細書の摘要欄に、(中略)を記載すること。また、標準的算定日数を超えて継続して疾患別リハビリテーションを行う患者(疾患別リハビリテーション料の各規定の「注4」にそれぞれ規定する場合を除く。)のうち、治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合(特掲診療料の施設基準等別表第九の八第一号に掲げる患者であって、別表第九の九第一号に掲げる場合)は、1)これまでのリハビリテーションの実施状況(期間及び内容)、2)前月の状態との比較をした当月の患者の状態、3)将来的な状態の到達目標を示した今後のリハビリテーション計画と改善に要する見込み期間、4)FIM、BI、関節の可動域、歩行速度及び運動耐用能などの指標を用いた具体的な改善の状態等を示した継続の理由を摘要欄に記載すること。ただし、リハビリテーション実施計画書を作成した月にあっては、改善に要する見込み期間とリハビリテーション継続の理由を摘要欄に記載した上で、当該計画書の写しを添付することでも差し支えない。なお、継続の理由については、具体的には次の例を参考にして記載すること。

 

 まず、リハビリテーション実施計画書の記載義務が「3か月に1回以上」から「1か月に1回以上」と増える。さらに、改善の見込み等細かな内容を含む診療報酬明細書(レセプト)コメントを記載する必要が生じる。改善の可能性が低く、維持目的である場合には、減点・返戻の対象となる。したがって、要介護被保険者に関していうと、実質的に維持的リハビリテーション介護保険を選ばざるをえないことになる。別表第九の八で除外対象となっているかに思える失語症患者、難病等リハビリテーション料に規定されているパーキンソン病や関節リウマチ患者でも、要支援・要介護認定を受けている場合には同様である。医療保険リハビリテーションを続けようと思うならば、最初から介護保険認定を受けないように指導せざるをえない。

 

 疾患別リハビリテーション料算定日数上限を超えてリハビリテーションを提供する場合には、次のような対応が必要となる。

 上記のような面倒な対応をしたくない医療機関は、疾患別リハビリテーション料の算定日数上限を超えた段階で、機械的リハビリテーションを打ち切りを行う。患者にとって、不幸な状況が蔓延しないことを祈るしかない。

承久の乱 日本史のターニングポイント

 日本史に関する国民の関心は昔から高く、テレビ、映画、小説などで繰り返し取り上げられている。ただし、戦国や幕末物に人気が集中することへの反省からか、新しい素材や新鮮な切り口を求める傾向が強まってきているように思える。例えば、応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)がベストセラーになったことが象徴的だが、これまであまり注目を浴びることのなかった中世日本史を題材とし、最近の研究成果をふまえわかりやすく解説した新書が脚光を浴びるようになってきている。今回紹介する承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書)もそのひとつであり、先月に発売されたばかりである。

 

  

 眼光鋭い怪しげな著者近影と、「陰謀、暗殺、裏切り 第一級の歴史ドラマが始まる!」という扇情的なフレーズを前面に押し出している帯を見るだけで、出版社が売り気満々であることがわかる。読みやすい軽妙な語り口もあり、難解な時代背景と複雑な人間関係があるにも関わらず、内容がスムーズに頭の中に入ってくる。

 

 本書は九章立てとなっている。内容的には、第一、二、四、六章が鎌倉幕府という武士政権の実態を明らかにしたものであり、第三、五章が対抗する後鳥羽上皇の資質とその政策に触れたものである。そして、残りの三章で、承久の乱そのものの経過、後鳥羽上皇の敗因、そして、戦後処理と日本史における歴史的位置づけが述べられている。

 

 特筆すべきは鎌倉幕府の実態を明らかにした部分であり、概略は次のとおりとなる。

  •  幕府の本質は「頼朝とその仲間たち」だった。鎌倉幕府は、江戸幕府のようなピラミッド型組織ではない。頼朝による土地の安堵という「御恩」に報いるために頼朝の命令のもと戦う「奉公」をする主従契約に結んだ仲間たちが、駿河、伊豆、相模、武蔵の4カ国を中心とした東国に築き上げた安全保障体制であり、東国限定の在地領主の政権だった。
  •  中世武士は、弱肉強食の世界で自分の土地を守るためにすすんで殺生に手を染める荒々しい感覚を持っていた。このため鎌倉幕府では血なまぐさい権力抗争が起きた。そのなかで、最終的な勝者になったのは、父時政を失脚させ、敵対する御家人を滅ぼした北条義時だった。最終勝者となった義時を頼朝の真の後継者と鎌倉武士は認めた。この時、鎌倉幕府は、「頼朝とその仲間たち」による政権から「義時とその仲間たち」による政権となった。
  •  一方、三代将軍実朝の時代には、御家人統制の綻びが出ていた。有力御家人が平然と後鳥羽上皇に仕えるようになっていた。さらに、後鳥羽上皇は、実朝の官位を右大臣まで上げ、天皇を中心とした権門体制に組み込もうとしていた。義時らにとって実朝は、「在地領主による、在地領主のための幕府」を否定しかねない危険な将軍だった。実朝暗殺事件後に源氏直系が根絶やしにされたことも考えると、実朝暗殺事件の黒幕は義時以外には考えられない。

 

 「頼朝とその仲間たち」というとどこかの政党のようであるが、別のところで『ヤクザ映画の名作「仁義なき戦い」に勝るとも劣らない凄まじさ』とか、『頼朝の直属の子分(仲間たち)』という表現を用いていることから類推すると、目的のためには手段を選ばない集団との類似を耳ざわりの良い表現に置き換えただけのようである。権力をめぐって繰り広げられる激しい武力抗争は、確かに似ている。

 承久の乱自体の経過は、あっさりと描かれている。後鳥羽上皇の義時追討命令から敗北までわずか1ヶ月で決着しており、見せ場となる戦闘も瀬田・宇治川の戦いくらいしかない。北条政子の大演説も実は代読であり、最初から東国武士は生き残りをかけた戦いという気持ちで参戦したことが示されている。

 後鳥羽上皇の敗因としては、西国の守護を味方にはつけたが末端の武士までは浸透せず、東国の動員力と比べて大きな差があったことが示されている。さらに、「権威のピラミッド」という身分制に基づく朝廷型リーダーシップが、「御恩」と「奉公」による一対一の関係に基づいた幕府型リーダーシップに劣ったということも示唆されている。

  後鳥羽上皇隠岐配流など三上皇を配流し、官軍に加わった御家人や貴族たちを斬罪に処するなど戦後処理は過酷だったことが示された後、承久の乱の影響がまとめられている。何よりも、朝廷を中心に展開してきた日本の政治が、この乱以後明治維新に至るまでの間、武士が支配する政治へと移り変わったターニングポイントになったことが重要である。さらに、幕府も、自力救済オンリーの「万人の万人に対する闘争」状態を脱し、法による統治と民を慈しむ「撫民」を志向するようになり、「トップとその仲間たち」という体制から成熟していったことも示されている。

 以前は頼朝が征夷大将軍となった1192年をもって鎌倉時代の始まりとしていたが、最近は守護・地頭設置権を認められた1185年が適切という説が有力となっている。しかし、本書が示すように、発足当初は東国政権に過ぎず、全国に支配権が及ぶようになったのが承久の乱以降ということを考慮すると、1221年を時代区分の節目としてもっと重要視して良いのではないかと思う。

バリアフリー・ユニバーサルデザインに配慮したホテル又は旅館の事例

 この間開催されてきたバリアフリー法に基づく建築設計標準の改正に関する検討会で、バリアフリーユニバーサルデザインに配慮したホテル又は旅館の事例が紹介されている。メモ代わりに、紹介されたホテル・旅館のHPを貼っていく。

 

<第1回>

 資料5 事例紹介には、以下の3事例が紹介されている。

事例1 日本青年館ホテル(新築)

・ワンフロア全てを車椅子使用者の利用にも配慮した客室とした都心型シティホテル

・車椅子使用者のニーズ対応に配慮した、複数タイプ(広さ、水廻り)の客室の提供

・ブラウンを基調とした、シンプルで洗練されたデザインのユニバーサルルーム

10階はユニバーサルフロア(車椅子使用者の利 用にも配慮した客室階、客室数:29室)として計画されている。

 

事例2 ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町(新築)

・総客室数 250 室のうち、ユニバーサルルーム(車椅子使用者用客室)5 室、高齢者、障害者等の利用にも配慮した一般客室 223 室を備えたラグジュアリーホテル

・インテリアの一部となるガラス張りの水廻り、白を基調とし洗練された室内デザインのユニバーサルルーム

・すっきりとした印象の片持ち天板のデスク、洗練された手すりや金物等、デザイン性と利用者への配慮の両立

 

 事例3 ホテル はつはな(改修)

・複数回にわたる改修により、客室および共用部のバリアフリー化を図った和風ホテル

・「ビューバス付き」と「ひのき風呂付き」、あたたかみのあるデザインのユ ニバーサルスタイルの客室(車椅子使用者用客室)の提供

 

<第2回>

 資料3 事例紹介には、以下の4事例が紹介されている。

事例4 レム 秋葉原(新築)

・快適な眠りをテーマとした駅直結型の都心型ホテル

・コンパクトな客室空間の中にロールインシャワー室を配置した車椅子使用者用客室を提供 ・ガラス張り

ワイドビューのシャワー室を設けることにより、開放的な水まわり空間を実現

 

事例5 ホテルグランヴィア京都(新築+改修)

・京都駅に直結した観光・ビジネスの拠点となるシティホテル

・竣工時より車椅子使用者の利用に配慮した、ゆとりある共用部空間、車椅使用者用客室(6 室)を提供 ・ハード面とソフト面(貸し出し、有資格者の配置等)を兼ね備えた「ユニバーサルサービス」の充実

 

事例6 RAKURO 京都 -THE SHARE HOTELS-(用途変更+全面改修)

・既存事務所ビルからの用途変更に伴い、全面改修が行われたホテル

・車椅子使用者用客室前の廊下に傾斜路を設けることにより、客室内の床をフラット化

・車椅子使用者用客室の水廻りは、洗い場と浴槽のある浴室タイプ(浴室と、トイレ・洗面が分離)

 

事例7 LYURO 東京清澄 -THE SHARE HOTELS-(用途変更+全面改修)

・既存事務所ビルからの用途変更に伴い、全面改修が行われた、ドミトリータイプの客室があるホテル

・客室フロアの共用部に、車椅子使用者対応の共用シャワールーム(1 室)を 設置

 

<第3回>

 資料2 事例紹介には、以下の4事例が紹介されている。

事例8 ダイワロイネットホテル銀座(新築)

・都心でのビジネス・観光の拠点として、間口 13m×奥行 100m の敷地を 活かしたビジネスホテル

・洗練され、落ち着きのあるデザインのアクセシブルルーム(車椅子使用者用客室)を提供

点字や英語によるサイン表示等の情報提供の充実

 

事例9 後楽ガーデンホテル(後楽賓館)(改修)

小石川後楽園庭園に隣接した、日中友好会館の本館にあるホテル

・公益財団法人東京観光財団の補助金を活用した改修により、複数年度

に施設全体のバリアフリー化を行うとともに、5 室の車椅子使用者客室を提供

・車椅子使用者用客室内に傾斜路を設けることにより、客室内の床をフラット化

 

事例 10 京王プラザホテル(改修)

・1988 年にユニバーサルルーム 15 室(現在は一般客室として使用)を改修により設置、その後、2002 年に設置したユニバーサルルーム 10 室を 2018 年に全面リニューアルするとともに新たに 3 室提供

・ユニバーサルルームは洗練された内装と、機能的な家具・システム環境、利用者のニーズに応じて取り付け可能な手すりやアラートシステム等により、高齢者・障害者・健常者も快適に過ごすことのできる仕様

・屋外の補助犬専用トイレの設置等、共用部分の充実したバリアフリー化、動画を含むホームページでの事前の情報提供も実施

 

事例11さぎの湯荘(用途変更+移築改修) 2月上旬

  訪問調査は2月上旬とのことで、具体的内容は紹介されていない。HPのよくあるご質問には、次のような記載がされている。

Q.バリアフリーですか?

A.当館は玄関や部屋又は大浴場入り口などには段差があるので全面バリアフリーではございません。貸切の内風呂には段差なく入れるようになっております。部屋は1階と2階しかありませんが、エレベーターがございません。足などが不自由の方は1階の部屋をご用意しますので、ご予約頂く時にその旨をお伝え下さい。館内用車イスと簡易ベットもご用意は可能ですので希望されるお客様は事前にお知らせください。 

 

 ひととおり、それぞれのHPをざっと見た印象だが、バリアフリーないしユニバーサルデザインに対応していることはあまり強調されていない。車椅子対応客室を探している立場で見ると、「見える化」は不十分と言える。全国バリアフリー旅行情報/日本バリアフリー観光推進機構のようなサイトもあるが、情報収集はなかなか大変である。

 ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)が実際に運用され数年経ったあかつきには、新築を中心にバリアフリー対応の宿泊施設は増えると予想するが、それまでの間は口コミに頼るしかない。その意味で、今回検討委員会で紹介された事例は優良事例として保障付きのところと言えそうである。

 

ユニバーサルデザインを推進するホテルチェーン東横イン

 ユニバーサルデザインを推進するビジネスホテルチェーンとして、東横インの評判が高い。

 

 上記記事にも紹介されているが、東横インのホームページをみると、ハートフルルームという車椅子利用者にも対応する部屋の紹介がされ、バリアフリールームの「見える化」が進んでいる。

www.toyoko-inn.com

 

 10年以上前、東横インが起こしたハートビル法違反問題を受け、エントリーを書いたことがある。

 失態を糧に東横イン経営陣の意識改革が行われ、車椅子利用者から高く評価されてきているということを知り、他のホテルチェーンと比べてどの程度ユニバーサルデザインの意識が高くなっているのか実際に見学してみたいという思いが強くなっている。さすがにハートフルルームを利用する必然性はまだないので宿泊するとしたら一般客室になるが、その機会にもし空いていればユニバーサルデザインの概念で設計された部屋を覗かせてもらえないかと密かに企んでいるところである。

 

日本におけるバリアフリー政策の推移

 バリアフリーに関する法律等の歴史をまとめる。

 

 2016年年9月9日に行われた建築:高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計のあり方に関する検討委員会 - 国土交通省の第1回配布資料内にある参考資料2「建築設計標準の改訂経緯の整理」に、これまでの建築設計標準の改定経緯が整理されている。 

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  まず、1994年のハートビル法(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)施行が、建築設計におけるバリアフリー普及の契機となったことは間違いない。

 上記表には記載されていないが、2000年に交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)(参照:http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrier/mokuji_.html)が制定されたことも画期的なことである。

  2003年にハートビル法が改正され、さらに、2006年に交通バリアフリー法と統合し発展させる形で、バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)が定められた。このバリアフリー法施行以後、様々な分野でバリアフリーユニバーサルデザインが推進されていった。以後、2007年度、2012年度と5年ごとに建築設計標準改定が行われてきた。

 今回、2020年東京オリンピックパラリンピックの開催を踏まえ、1年前倒しをして、2018年に建築設計標準改定が行われた。

 さらに、2019年9月には、ホテル・旅館などの宿泊施設にしぼった建築設計標準(追補版)の改定が実施される。

  ゆっくりだが着実にバリアフリーユニバーサルデザインが日本に定着してきている。国土交通省の取組みに敬意を表したい。

「ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)」(案)に関するパブリックコメント募集中

 「ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)」(案)に関する意見募集について(開始日2019年2月8日、締切日3月10日) が公示されている。ホテル・旅館のバリアフリー推進へ向けた内容であり、評価する方向で意見を提出しようと思っている。


# バリアフリー設計のガイドライン

 今回提案されたホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)案に、次のような記述がある。

 (1)「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」とは

「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(平成 29 年(2017 年)3 月版)」(以下「建築設計標準」という。)は、すべての建築物が利用者にとって使いやすいものとして整備されることを目的に、利用者をはじめ、建築主、審査者、設計者、施設管理者に対して、適切な設計情報を提供するバリアフリー設計のガイドラインとして定めたものである。

 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律においては、不特定多数の者が利用し、又は主として高齢者、障害者等が利用する建築物(特別特定建築物)で一定の規模以上のものに対して建築物移動等円滑化基準への適合を義務付けるとともに、多数の者が利用する建築物(特定建築物)に対しては同基準への適合に努めなければならないこととしている。また、高齢者、障害者等がより円滑に建築物を利用できるようにするため、誘導すべき基準として、建築物移動等円滑化誘導基準を定めている。

 建築設計標準では、高齢者、障害者等からのニーズを踏まえた設計の基本思想や、設計を進める上での実務上の主要なポイント、建築物移動等円滑化基準を実際の設計に反映する際に考慮すべき内容、建築物のバリアフリーの標準的な内容を、図表や設計例を交えて解説することとしている。加えて、高齢者、障害者等をはじめとする多様な利用者のニーズに応えるため、施設の実情に応じて設計時に考慮することが望ましい留意点を掲載している。

 

 バリアフリー法には赤字で強調した下記3つの基準があるが、今回検討されたのは建築設計標準であり、バリアフリー設計のガイドラインとして定められているものである。

  •  建築物移動等円滑化基準: 特別特定建築物では義務、特定建築物では努力基準
  •  建築物移動等円滑化誘導基準: 努力目標として誘導すべき基準
  •  建築設計標準: バリアフリー設計のガイドラインであり、建築物移動等円滑化誘導基準を実際の設計に反映する際などに使用するもの

 

 さらに、建築設計標準(追補版)案には次の記述が続く。

(2)今回の改正の背景と位置づけ

○ 2020 年東京オリンピックパラリンピック競技大会の開催や、国際パラリンピック委員会(IPC)及び障害者団体等の要望等を契機に、高齢者、障害者等がより円滑にホテル又は旅館を利用できる環境整備を推進するため、国土交通省は、2017 年 12 月から学識経験者、障害者団体等、施設管理者団体等から構成される「ホテル又は旅館のバリアフリー客室基準の見直しに関する検討会(以下「前回の検討会」という。)」を行った。前回の検討会においては、ホテル・旅館の施設管理者や障害者団体等へのアンケート調査等を踏まえ、2018 年 6 月、ホテル・旅館のバリアフリー化を総合的に推進するため、

バリアフリー客室の客室設置数に係る基準の見直し(政令改正)

バリアフリー客室に係る建築設計標準の充実・普及(※バリアフリー客室=車椅子使用者用客室)

といった内容を含む対応方針がとりまとめられた。

 

  また、「はじめに」の部分にも次の記述がある。

  2020 年東京オリンピックパラリンピック競技大会の開催、我が国における急速な高齢化の進行、障害者差別解消法の施行、観光立国推進による訪日外国人旅行者の増加等を受け、ホテル又は旅館を含む建築物には、より一層のバリアフリー対応が求められている。

 

 今回の建築設計標準(追補版)案は、2020年東京オリンピックパラリンピックへの対応のために急遽まとめられたものだが、急速に進む高齢化や訪日外国人旅行者増加などの側面も見落としてはいけないことが示されている。

 

# 建築設計標準(追補版)案の概要

  建築設計標準(追補版)案の議論をした建築:ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準の改正に関する検討会 - 国土交通省で紹介されている建築:ホテル又は旅館のバリアフリー客室基準の見直しに関する検討会 - 国土交通省第4回会議の資料1 ホテル又は旅館のバリアフリー客室基準等に関する対応方針(案)に、ホテル又は旅館のバリアフリー客室(以下:BF客室)基準等に関する対応方針(案)が示されている。

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 要望及び課題の抽出という部分では、以下の6項目があげられている。

  • 複数のBF客室へのニーズ
  • BF客室の稼働率が低い
  • BF客室の快適性・デザイン性等、設計上の配慮が必要
  • 多様なニーズ(広さ、設備、価格等)に対応した客室が不足
  • バリアフリーに配慮した一般客室が少ない
  • BF客室等に関する情報提供が不足

 

 上記要望及び課題を受け、以下の3つの方向性が示されている。

 

 さらに、対応方針(案)に関しては、建築:ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準の改正に関する検討会 - 国土交通省第2回会議資料1 ホテル又は旅館のバリアフリー客室基準等に関する対応方針に対する取組状況をみると、次のような状況となっている。

 

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(1)BF客室設置数に係る基準の見直し

(2)条例整備促進のための基本方針改正

→ 政令改正済み。

(3)事業者等へのバリアフリー対応の要請

→ 施設管理者団体、設計関係団体等、設備・建材関係団体に対して、ホテル・旅館のバリアフリー化に向けた取組みについて要請済み。

(4)BF客室に係る建築設計標準の充実・普及

→ 本検討会設置。

(5)BF客室等に係る情報提供の充実

→ 観光庁で対応済み(参照:「宿泊施設におけるバリアフリー情報発信のためのマニュアル」を作成しました! | 2018年 | トピックス | 報道・会見 | 観光庁 )

 

 バリアフリー客室に係る建築設計標準の充実・普及に関しては、第3回会議の資料1-1 建築設計標準(追補版)概要修正(案にまとめられており、ホテル又は旅館における高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(追補版)案として提案されている。

 上記(1)BF客室設置数に係る基準の見直しに関しては、下図がわかりやすい。

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 本政令が交付される2019年9月1日以降に建築(新築、増築、改築又は用途変更される)着工が行われる、客室2,000m2以上かつ客室総数50室以上のホテル又は旅館は、特別特定建築物に該当するため、車椅子使用者用客室を現在の1室以上から建築する客室総数の1%以上にするというより高い基準が設けられることになった。なお、この基準は、建築物移動等円滑化誘導基準(望ましい基準)に近づけられているが、やや低い水準にとどめられている。

 

  上記(4)の概要は、下図にまとめられている。

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 建築計画の手順・要点は資料に詳細に記載されているが、最も重要なことは、ホテル又は旅館の事業計画にバリアフリーの観点を盛り込むように求めていることである。

 建築設計標準(追補版)案には、次のような記述がある。

高齢者、障害者、聴覚障害者、視覚障害者等が利用できるよう配慮した客室を整備することや、施設全体のバリアフリー対応のための様々な配慮を行うことは、施設管理者にとって、今後の利用者拡大につながる重要な取り組みでもある。

 

  バリアフリーの視点で、ホテル・旅館を整備することは利用者拡大につながるという視点は重要である。公共交通機関、公共施設、ショッピングモール、劇場、競技場、道路、駐車場など様々な分野で誰もが利用しやすい施設づくりが進んでいるのに比べ、宿泊施設、特に客室のバリアフリー化の遅れは顕著と感じる。2006年度以降に建築されたホテル・旅館でも客室内のユニットバス前に大きな段差があるところは少なくはない。旅行の途中は快適でも、くつろぐために泊まったホテルや旅館の客室で大きな障壁の存在を見せつけられることは、決しておもてなしとは言えない。

 今回の建築設計標準が浸透した後に建設されるホテル・宿泊施設は、バリアフリー化が進んだ快適なものになるのではないかと期待する。既存施設でも、バリアフリーの視点で改修が進むことを期待する。様々な問題が指摘されている2020年東京オリンピックパラリンピックだが、宿泊施設のバリアフリー化を進めるきっかけとなったことは評価すべきではないかと思っている。

旧ブログインポートに伴うブログ名変更について

 はてなより、2019年春で「はてなダイアリー」のサービスを終了するというお知らせが届いていました。

 

d.hatena.ne.jp

 

 どうしようか迷っていたのですが、期限が迫ってくるなか、さすがに旧ブログの方をこのまま放置しておくわけにいかなくなったため、本日、思い切って新ブログの方にインポートしてみました。トラブルもなく、予想以上に簡単に作業は終了しました。

 

 実は、新ブログを立ち上げた2017年7月3日時点では、旧ブログをそのまま残すつもりだったので、新しい方を「続リハ医の独白」という名前にしますと宣言していました。

 

zundam09.hatenablog.jp

 

 しかし、以前の記事の方が圧倒的に多い状況のなかで、「続」という冠をつけたままでいることはいささか不自然と判断し、本日付けでブログ名を慣れ親しんだ元の名称に戻しました。

 この間、だいぶサボっていたのですが、書きたいことも少しずつ溜まってきたので、ブログ執筆を再開するつもりです。日常業務に差し支えない範囲で書いていきますので、よろしくお願いいたします。