民法改正に伴う身元保証人等に関する契約書の書式変更

 民法改正に伴い、医療施設・介護施設などで契約書の書式変更が必要となった。日本病院会HP、厚生労働省通知文(厚労省通知文)医政局関係資料を見ると、2019年6月6日付で、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行に関する周知について という文書が載せられている。

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 同様の文書が、全国老人保健施設協会HP、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行に関する周知についてにも掲載されている。

 

 民法改正については、法務省のHPに詳しく掲載されている。

 

 保証に関しての概略は、パンフレット(保証)【PDF】を見ると、分かりやすい。より詳しい内容を知りたい場合には、重要な実質改正事項(1~5) 【PDF】の17〜26ページに保証に関する見直しの説明がある。

 根保証とは、将来発生する不特定の債務の保証のことを言う。根保証契約を結んで保証人となる際、特に連帯保証人の場合には、催告の抗弁(まず主債務者に請求することを主張すること)、検索の抗弁(主債務者に資力があることを理由に主債務者の財産に強制執行を主張をすること)ができず、重い責任が発生する。個人の保証人に生じるリスクを回避し、保護をすることが、今回の民法の重要な改正点となっている。

 

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 医療施設や介護施設における身元保証人等に関する契約書の書式変更に関しては、平成30年度老人保健健康増進等事業 当初募集採択事業内にある、47 介護施設等における身元保証人等に関する調査研究事業(みずほ情報総研 : 平成29年度老人保健健康増進等事業の事業報告書)が参考となる。具体的な内容は事業報告書(PDF:2,434KB)に記載されている。

 本調査は、超高齢社会を迎え、「単身高齢者」が急激に増加する中、身寄りのない高齢者に対する身元保証が問題となっていることをふまえ、高齢者の介護施設入所時に、施設側が入所者へ身元保証人等を求めている理由及びその実態を明らかにし、その上で、介護施設等が身元保証人等に求めている役割を分析・分類し、それぞれの役割の必要性並びにその役割に対応することが可能な既存の制度・サービスを整理することによって、今後の政策に資する示唆を得ることを目的としている。

 先行研究では、医療施設、介護施設とも9割以上が入院・入所(入居)時に身元保証人等を求めている。一方、身元保証人等の呼び方は、以下のグラフに示すように様々である。

 

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 本調査では、介護施設に対し4,900件のアンケートを行い、2,387件48.7%という高い回収率を得ている。

 まとめとして、次のような記載がある。

(1)介護施設等における身元引受人/身元保証人等の実態

<用語について>

・ 介護施設等では「身元引受人」という用語が最も多く使われている。しかしながら、各施設において共通化はされていない状況であり、定義が曖昧で、混乱を招く原因にもなっている。このような用語は今後に向け、適切な用語と法的な裏づけを持って、業界内で統一化されていくべきものと考えられる。

<身元引受人/身元保証人等の状況>

・ ほとんどの施設において、身元引受人/身元保証人等を契約時に求めている。身元引受人/身元保証人等を求めていない例としては、養護老人ホームの措置入所によるものが多かった。

・  身元引受人/身元保証人等の不在によって、入所を断る方針の施設は存在している一方で、多くの施設において条件付きで入所を受け入れている実態がある。

・ 身元引受人/身元保証人等が不在の場合、施設入所の条件として、多く挙げられているのは成年後見人制度の利用である。 

 

(2)身元引受人/身元保証人等に求める機能・役割についての整理

<求める機能・役割の分類>> ※ 次頁(図表 18・図表 19)を参照

・ 身元引受人/身元保証人等に求める機能・役割については入居者の生前と死後に大別される。

・ 死後に、介護施設側で実施することは概ねパターン化されており、身元保証人/身元引受人等に期待する役割の中で、整理が難しくトラブルの原因となり易いのは、生前中の対応に関係するものと考えられる。

・ さらに、生前中における身元引受人/身元保証人等に求める機能・役割は、本人の能力範囲(責任範囲)によって大きく 2 軸に分けられるものと考えられる。

・ このなかで、介護施設側が身元引受人/身元保証人等に求める機能・役割は、本人の能力範囲(責任範囲)を超えた場合における滞納リスクの回避(連帯保証)と、本人の能力が衰えた場合における、身上保護と財産管理(成年後見制度の活用によってカバーできる範囲)に分けられる。

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 本調査の、身元保証人等の問題についてわかりやすくまとめられている。特に、連帯保証とと身上保護と財産管理の2軸に分けた観点は秀逸である。

 医療施設・介護施設における契約書においても、上記2軸に分けて同意を求めた方が適切と思える。個人根保証に相当する役割をするのが身元保証人や連帯保証人であり、身上保護や財産管理をするのが後見人という形になる。なお、現在の成年後見人制度は財産管理までが役割であるが、医療・介護のケアチームと相談のうえ医療同意を行うところまで役割とすることが法改正でできるようになれば、医療施設や介護施設の精神的負荷は軽減される。

 いずれにせよ、民法改正は既に施行されている。自らの施設における契約書書式をあらためて見直すことが急務となっている。

 

なみはやリハビリテーション病院における新型コロナウイルス感染症拡大要因

 昨日、なみはやリハビリテーション病院における新型コロナウイルス感染症拡大に関する報道がされた。

 

 元になった資料は、大阪市:新型コロナウイルス感染症について(電話相談含む) (…>健康・医療>感染症・病気に関すること)にある、なみはやリハビリテーション病院における新型コロナウイルス感染症院内発生に関する現地調査支援報告についてhttps://www.city.osaka.lg.jp/kenko/cmsfiles/contents/0000490/490878/namihaya.pdfについてである。

https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/cmsfiles/contents/0000490/490878/namihaya.pdf

 

 COVID-19患者発生状況は次のように報告されている。

 感染者は、病院スタッフ71名、出入り業者3名、入院患者59名の計133名で、うち、有症状者は99名74%となっている。PCR検査対象者全体の陽性率は41%である。最も陽性率が高かったのは、3階病棟入退院患者で90%だった。スタッフでは3階病棟看護師71%と最も高く、次いでリハビリスタッフの陽性率64%だった。

 回復期リハビリテーション病棟である3階病棟全てと2階病棟の一部にCOVID-19患者が入室している一方、4階障害者病棟はCOVID-19患者は2名発生したのみだった。

 

 感染が持ち込まれたルートは断定困難としたうえで、院内感染が拡大した要因が次のようにまとめられている。私が重要と判断した部分を赤字かつ下線で示した。

  •  原疾患の影響で、本疾患の発症の把握が困難であり、探知の遅れがあった可能性がある。
  •  サージカルマスクや消毒用アルコールなどの医療資材の不足もあり、スタッフにおける患者に接する前後での基本的な感染予防策が不十分となっていた箇所が存在した可能性、特に、ケアやリハビリ等、同じ病棟内で患者間を横断する手技や施術があった際に感染予防策が徹底されておらず、スタッフが患者間の感染を媒介した可能性がある。
  •  病棟でのリハビリテーション施術の際の接触に伴うものや、診療や清掃、社会福祉資源等の調整のために病棟横断的に対応を行うスタッフが患者間やスタッフ間の感染を媒介した可能性がある。
  •  リハビリテーション室等の中央での施術やケアが感染を媒介した可能性もある。
  •  スタッフ間での感染拡大の要因としては、密に過ごす空間(食堂、休憩室、ロッカー、スタッフステーション)において、食事や飲水の際にマスクを着用せずに会話をする等の濃厚接触があった可能性がある。

 さらに、回復期リハビリテーション病棟である2、3階と比較すると、リハビリテーション介入のない4階障害者病棟は明らかに感染のリスクが少なかったと思われることより、今回の感染伝播にはリハビリテーションの施術が寄与していた可能性は否定できない、と再度言及されている。

 リハビリテーション医療関係者にとっては、衝撃的な調査報告書であると言わざるをえない。

 

 

 リハビリテーション医学会がまとめた「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン第2版」においても、次のような指摘がされている。

 リハビリテーション医療の対象者は感染症に罹患しやすく、重篤化しやすい可能性が高いと考えて対応する必要がある。

 そして、療法士は訓練室のみではなく、医療機関内の様々な場所において治療を提供することがある。このため、病原微生物を医療機関内の広範囲に伝播させる危険性をもっている。

 これらのことから、リハビリテーション医療は医療関連感染に深く関連していると考えるべきであり、十分な感染対策を実施することが推奨される。 

 

 今回の調査報告書をみる限り、基本的な感染予防策がなされていなかった状況で、リハビリテーションを通常どおり実施したことが院内感染を蔓延させてしまったという可能性が高い。反面教師とすべき事例である。

 一般社団法人 回復期リハビリテーション病棟協会のHPには、新型コロナウイルス感染対応事例(更新版)6.4 役員病院その1や、新型コロナウイルス感染対応事例(更新版)6.4 役員病院その2などの具体的な対応策が例示されている。緊急事態宣言は解除されたが、再び新型コロナウイルスの感染が拡大する可能性があると考え、警戒を怠らず準備をしておくことが必要である。

医師の平均寿命は短いという主張に対する検討

 医師の平均寿命が短いというtweetがあり、気になり調べてみたところ、下記記事が根拠とされていることに気づいた。

 

 本記事中に次のような言及がある。

 2008~2017年の10年間に、岐阜県保険医協会を死亡退会した85人について、死亡時年齢を調査した。内訳は、医科会員が60人、歯科会員が25人、男性が76人、女性が9人だった。

 集計の結果、死亡時平均年齢は70.8歳だった。「この結果には本当に驚いた。あくまでも参考値だが、厚生労働省の統計にある死亡時平均年齢(2015年)は、男性が77.7歳、女性が84.3歳であり、明らかな差があった」(浅井氏)。 

 

 浅井岐阜県保険医協会会長が言及した厚生労働省調査とは、平成27年度 人口動態職業・産業別統計の概況|厚生労働省である。概況版 [4,031KB]の5〜6ページの表4、5に死亡時平均年齢が男性77.7歳、女性84.3歳となっており、値が一致している。しかし、死亡時平均年齢が高い職種の方が長生きとは言えず、結果の解釈が明らかに間違っている。職業別の死亡率の違いを調べるのなら、年齢構成を考慮した年齢調整死亡率の方を使う必要がある。

 

 平成27年度 人口動態職業・産業別統計の概況|厚生労働省の表4 性、就業状態・職業別にみた死亡数・死亡率・年齢調整死亡率(平成27年度)を、男女別に分けて表示した。医師が含まれるのは、B.専門・技術職である。なお、総務省|統計基準・統計分類|日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定) 分類項目名をみると、この中には看護師ほかの医療従事者も含まれている。

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 年齢調整死亡率が最も高いのは、男性では無職であり人口千対13.2となっている。この群は死亡時平均年齢は79.6歳と高く、総数77.7歳と比し長生きしているように見える。しかし、年齢調整をしてみると、最も死亡率が高くなるという逆転現象が生じる。このことだけでも死亡時平均年齢が高いことを根拠とし寿命が短いと主張してはならないことがわかる。一方、女性では建設・採掘職において年齢調整死亡率が22.9と抜きん出て高く、死亡時平均年齢も72.6歳となっている。高齢女性が慣れない肉体労働をして亡くなっているのではないかと危惧される。

 医師、その他医療職が含まれる専門・技術職の年齢調整死亡率は男性3.5、女性2.8と就業者のなかでは高くなっている。しかし、本群には弁護士や教員など数多くの職種が含まれており、医療従事者の死亡率が高いという根拠とはなりにくい。

 

 表5 性、就業状態・産業別にみた死亡数・死亡率・年齢調整死亡率(平成27年度)を、男女別に分けて表示した。こちらは、総務省|統計基準・統計分類|日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)−目次に準拠しており、医療従事者は第3次産業 P 医療、福祉に含まれている。本分類には病院、診療所、歯科診療所、助産・看護業、療術業、歯科技工所など医療に附帯するサービス業、医療の管理・補助的経済活動を行う事業所しか含まれておらず、より正確な実態を示している。

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 年齢調整死亡率をみると、男性では鉱業、採石業、砂利採取業が抜きんでて高いが、サンプル数は少ない。ついで、情報通信業、漁業が高値となっている。一方、女性では複合サービス業、運輸業、郵便業が高いが、こちらもサンプル数は多くない。一方、医療、福祉は男性0.9、女性2.2といずれも就業者全体の値を下回っている。

 

 職業別、産業別の年齢調整死亡率をみる限り、医師を含む医療従事者の死亡率が他の職業や産業と比して明らかに高いと主張する根拠はなく、むしろ低い方ではないかと推測する。様々なストレスを抱えている職業であることは間違いないが、自分たちが早死にするような仕事を選んだわけではなさそうだとわかったので、本日は安眠できそうである。

インフルエンザ超過死亡推測システムを用いて他疾患の超過死亡を判断すべきではない理由

 インフルエンザ超過死亡推測システムを用いてCOVID-19の超過死亡を推定しようとする試みが散見される。最近では、下記エントリーが話題となった。日本における超過死亡に関しては、インフルエンザ関連死亡迅速把握システムを用いて推測している。 


 これに対し、数値が何度も見直されていることを理由として、使用を控えた方が良いと提案する記事もホットエントリーになっている。

 

 私も後者のエントリーと同意見である。ただし、理由はいささか異なる。

 2018/19シーズンにおける超過死亡の評価において、国立感染症研究所で用いている2種類のインフルエンザ超過死亡推測システムが説明されている。ひとつは、大都市を対象としたインフルエンザ関連死亡迅速把握システムであり、もう一つは全国を対象としたシステムである。前者には次のような特徴がある。

死亡届の数段階ある死因のいずれかにインフルエンザあるいは肺炎の記載がある死亡者数が, おおむね週に一度保健所の協力を得て感染症サーベイランスシステム(NESID)に登録され, その情報から全国と同様に確率的フロンティア推定法を用いて超過死亡が推定され, 公開されている。おおむね死亡日から2週間でwebsite上に公開されている。本迅速把握システムは毎シーズン12月~3月までの事業であり, 4月~11月のデータは欠損している。また, 実際には報告遅れが生じるために, 実施期間中の実際の死亡者数や超過死亡者数も変動することに留意が必要である。 

  インフルエンザ超過死亡が疑われる際に迅速な対応をすることが主目的であり、正確性に欠けることを最初から明示している。さらに言うと、4月以降(今年で言うと第15週以降)のデータはいくら待っても出てこない仕組みとなっている。

 一方、全国における超過死亡の推定は、 総死亡(死亡理由を問わない)を用いており、死亡から50日後に厚生労働省統計情報部から公表される速報値に基づいて推定され公表されている。インフルエンザ関連死亡迅速把握システム内のシーズン毎の超過死亡数にあるのが全国データである。

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 前回エントリー1998/99シーズンにおけるインフルエンザ超過死亡 - リハ医の独白にも記載したが、2011年に起こった東日本大震災でも超過死亡が生じているが、本図では反映されていない。詳細は記載されていないが、インフルエンザ超過死亡推測をすることがあくまでも目的であるため、大量に発生した不慮の事故死を補正したうえで算出された数値と思われる。

 いずれにせよ、インフルエンザ超過死亡予測を目的としたシステムであり、他疾患に基づく超過死亡があったとしても補正されてしまう仕組みとなっている。このことを考慮すると、本システムの目的外使用は控えることが妥当である。では、他疾患の超過死亡を推定するためにどうしたら良いのか。

 

 最初に紹介した国際比較に使える唯一の指標「超過死亡」で明らかになる実態では、ファイナンシャル・タイムズが、3月と4月の総死亡数(あらゆる死因)を2015~2019年の同時期の平均と比べたと紹介している。本来なら統計学的な処理をした手法が望ましいが、同様の手法が超過死亡を推定するうえで簡便である。

 死亡数報告は、人口動態調査 結果の概要|厚生労働省にある人口動態統計速報が最も速い。最新データは、人口動態統計速報(令和2年2月分)|厚生労働省である。約50日後の公表となるため、3月分が5月下旬、4月分が6月下旬に明らかになる。ちなみに、令和2年2月分の死亡数は前年度を下回っており、超過死亡は生じていない。

 なお、死亡率(人口千対)は毎年0.2ずつ上がっていることに留意する必要がある。東日本大震災時には、死亡率(人口千対)は男性で10.3→10.7、女性で8.7→9.2とさらに上昇している。このことを考慮すると、毎月の死亡数が概ね11万人だとすると、前年度と比し月あたり500〜600人以上増えていれば、東日本大震災時なみの超過死亡が生じている可能性がある。ただし、少なくない変動が月ごとにあり、単月のみでの断定は避けることが適当である。

 

 ちなみに、余談になるが、人口動態統計速報(令和2年2月分)|厚生労働省をみると、2月の婚姻件数が45 499件から74 147件への63.0%も増えている。同様の異常な増加は令和元年5月にあったが、こちらは改元婚として説明可能である。今年2月の婚姻数増加は、不安な世情を反映したコロナ婚と呼べる現象なのかもしれない。

 

<追記> 2020年5月24日

 感染症疫学センターより、5月24日付けで下記Q&Aが出されており、「本事業で新型コロナウイルス感染症による超過死亡への影響を評価することはできません。」と明確に表明されている。

 

Q.  2019-2020年シーズンは東京で超過死亡が発生しているように見えます。

A. このシステムでは、東京では過去3シーズンにわたって超過死亡を認めています。2019-2020年シーズンも東京で超過死亡が観察されていますが、「実際の死亡数」は過去3シーズン並みか、やや低い傾向にあります(図)。

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Q.このシステムで新型コロナウイルス感染症の影響を評価することはできますか?

A.新型コロナウイルス感染症の流行により、超過死亡が発生する可能性はあります。しかし本事業は毎年冬に流行するインフルエンザを想定して長年にわたって運用されているシステムです。本事業で新型コロナウイルス感染症による超過死亡への影響を評価することはできません。

 

1998/99シーズンにおけるインフルエンザ超過死亡

 出生や死亡など重要な統計情報を調べる際には、人口動態調査 結果の概要|厚生労働省を必ず確認するようにしている。平成30年我が国の人口動態(平成28年までの動向)[1,522KB] には、人口動態の主な内容がグラフ化されており、資料を作る時に役立つ。

 1899年から2016年にかけての死亡数及び死亡率の年次推移は下図のようになっている。

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 左上に、1998年から1920年にかけてのインフルエンザ流行による超過死亡が図示されている。1923年に起こった関東大震災を比べても、疫病による人的損失が大きかったことが一目瞭然である。

 第二次世界大戦後、死亡数・死亡率とも急速に低下したが、最近は人口の高齢化に伴い、両者とも一貫して増大傾向にある。その中でも、時々突出して死亡数が多い年がある。1995年は阪神・淡路大震災、2011年は東日本大震災と注釈がついているが、1999年には何の説明もない。

 本当にこれらの年で死亡率が高かったかどうか、まず年齢調整死亡率で確かめてみた。人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡 年次 2018年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口の、5-2 年次別にみた性別死亡率及び年齢調整死亡率(人口千対)にある資料をもとに、1989年から2018年までの性別年齢調整死亡率をグラフ化すると以下のようになる。

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 男性では明らかに、1995年、1999年、2011年に年齢調整死亡率が増大している。女性では、2011年は明らかだが、1995年と1999年は前年と同値である。ただし、長期低落傾向にある年齢調整死亡率のトレンドを見ると男性と同様の傾向があると判断して良さそうである。

 では、1999年に何が起こったのか。答は、インフルエンザによる超過死亡である。国立感染症研究所2018/19シーズンにおける超過死亡の評価に次の記載がある。

 1987年から2018/19シーズンまでの総死亡者数, ベースライン, 閾値の動きが一般公開されている(http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/a/flu.html)。(中略)シーズン中に一度も総死亡者数が閾値を上回らなければ超過死亡者数は0となる。これによると1998/99シーズンで超過死亡者数は35,000人を超えているが2004/05シーズン以降1万人を超えることはなかった。2018/19シーズンは3,276人であり, 直近5シーズンでは3番目と特別に大きな超過死亡が発生したわけではなかった。 

 

 インフルエンザ関連死亡迅速把握システム内のシーズン毎の超過死亡数にわかりやすい図がある。1994/95シーズンから2004/05シーズにかけて超過死亡が多く、その後に低下していることが示されている。

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 この間の事情については、逢見憲一らが日本公衆衛生誌に出した論文わが国における第二次世界大戦後のインフルエンザによる超過死亡の推定 パンデミックおよび予防接種制度との関連に詳しく記載されている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/58/10/58_867/_pdf

 学童へのインフルエンザ集団予防接種への批判を受け、任意接種になった時期(1994-95年〜2000-01年)に年齢調整死亡率は増加した。特に65歳以上の高齢者に死亡率上昇が顕著だった。その後、予防接種法改正により高齢者へ予防接種が行われるようになった時期に65歳以上の高齢者の超過死亡率は低下している。

 1998/99シーズンには、高齢者施設でのインフルエンザ集団感染が問題となったことをおぼろげながら覚えている。しかし、この時の超過死亡数が35,000人超にもなったということを知り、あらためて衝撃的を受けている。インフルエンザは、現代社会における最も身近な疫病である。ワクチン接種だけでなく、手洗いなど標準予防策の徹底が必要である。このことを医療関係者だけでなく、社会全体で推進していくことの重要性を確認していかなければならない。

 

<追記>

 医学史という視点からまとめられた下記サイトも参考になる。


天平時代のパンデミック

 黄金週間だが、どこにも行かず"Stay Home"中である。折角なので自宅にある本、特に感染症と歴史に関する書物を読み返している。

 

病が語る日本史 (講談社学術文庫)

病が語る日本史 (講談社学術文庫)

  • 作者:酒井 シヅ
  • 発売日: 2008/08/07
  • メディア: 文庫
 

 

 「病が語る日本史」(酒井シヅ著)は、病気という視点で日本史を見つめ直したものである。様々な疾患が取り上げられているが、特に感染症に関する記述が充実している。

 代表的な疫病である天然痘に関しては、天平時代における大流行にページを割いている。なお、以前、奈良時代政権交代というエントリーを上げた時に年表をまとめたので、そちらも参照にして欲しい。

 

 第2章古代人の病を読むと、欽明天皇7年(546年)から天然痘の大流行が繰り返されていたことがわかる。藤原京から平城京への遷都(710年)の理由のひとつとして、文武天皇2年(698年)から15年ほど続いた疫病の流行があげられている。

 第1部第3章疫病と天皇では、律令体制を作り上げた藤原不比等の死も天然痘の疑いが強いと指摘している。養老4年(720年)、「疹疾漸く留まりて、寝膳安からず」(発疹がようやく治ったが、食欲がなく、不穏な状態であった)と続日本紀に記載された日のわずか2日後に不比等は亡くなっている。

 天平7年(735年)には、新羅からの使節入国、遣唐使の帰国など海外との往来が盛んだったが、太宰府管内から疫病が流行し始めた。続日本紀では、「全国的に豌豆瘡(裳瘡)を患って、若死にする者が多かった」とある。

 さらに、天平9年(737年)、畿内にも豌豆瘡が広がり、朝廷の役人にも流行し始めた。藤原四兄弟も、4月17日に房前(北家、57歳)、7月13日に麻呂(京家、43歳)、7月25日に武智麻呂(南家、58歳)、そして、8月5日に宇合(式家、44歳)が亡くなった。9月28日、公卿の中でわずかに生き残った鈴鹿王、橘諸兄、多治比広成を核に新政権が発足した。現代に置き換えると、閣僚のほとんどが疫病に斃れ内閣総辞職をせざるをえなくなったほどの衝撃である。この状況を悲観した聖武天皇は、短期間の遷都を繰り返し、大仏建立に推し進めることになる。天平時代のパンデミックが、古代の日本において大きな転換点になったことは間違いない。

 

 本書では、マラリア寄生虫病、インフルエンザ、ハンセン病コレラ、梅毒、赤痢、麻疹、結核、ペストなど様々な感染症が日本史に与えた影響が紹介されている。歴史を振り返る時、政治を動かした人物だけを見るのではなく、疾病、飢餓、自然災害など庶民の生活に関わる事象が通奏低音のように響きながら歴史の転換期に多大な影響を与えていたことを忘れないことが大事である。

 なお、第2部第7章天然痘と種痘でも、天然痘が再度取り上げられている。幸いにも、天然痘(痘そう)とはで記載されているように、「天然痘ワクチンの接種、すなわち種痘の普及によりその発生数は減少し、WHO は1980年5月天然痘の世界根絶宣言を行った。以降これまでに世界中で天然痘患者の発生はない」という状態になっている。麻疹やペストを含め、かつて多数の死者を出した疫病がコントロールされつつある時代に生きていることに感謝しなければならないと、歴史を振り返るたびに思う。

厚労省報告書から介護事故報告件数が削除された経緯

 昨年3月に、次のような記事が報道された。

 

 本記事の元データは、第17回社会保障審議会介護給付分科会介護報酬改定検証・研究委員会(平成31年3月14日)資料資料1-6 (6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案) [PDF:741KB]の10ページと資料1-7 (7)介護老人保健施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案) [PDF:1,123KB]の9ページにある。

 

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 両報告の欄外に記載されている数値、介護老人福祉施設からの「死亡」事故報告件数772施設1,117件と介護老人保健施設からの「死亡」報告件数275施設430件を合計した1,547件が新聞報道されている。なお、有効回収率は、市区町村調査で1,173ヶ所67.4%となっている。調査の限界はあるが、相当数介護サービスに伴う死亡事故が起こっていることが推測できる。

 最終報告書は、第170回社会保障審議会介護給付分科会(平成31年4月10日)資料(6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(報告書)(案)  [PDF: 16,790 KB]と(7)介護老人保健施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(報告書)(案)  [PDF: 8,344 KB]にまとめられている。介護老人福祉施設の方の報告書(案)の末尾に元になった調査票が記載されている。

 

 介護事故に関する市区町村票の質問事項は下記のとおりである。

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 介護老人福祉施設に関する報告書案187ページに上記内容に関する報告書(案)の記述がある。

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 詳細にまとめられた報告書(案)のなかで、介護事故報告件数に関する記述が見事に抜け落ちている。もっとも興味あるデータがない理由を探したところ、第17回社会保障審議会介護給付分科会介護報酬改定検証・研究委員会(平成31年3月14日)議事録に介護事故報告件数を報告書に入れなかった経緯について、次のようなやりとりが記載されていることを確認した。

○今村委員 1-7にもあるのですけれども、1-6の10ページ目に、小さな字で書いてあるコメントなのですが、ここで死亡者数が報告数として書いてあって、この死亡者数というのは非常に曖昧な数字なので、ひとり歩きする危険性のほうが高いので、私は今回出すことには余り賛成できません。
そもそもどんなことを安全体制として報告させていますかという調査をしていて、それぞれのところがばらばらな基準で安全報告をしている中で、その中でお亡くなりになった数なので、違う基準で報告されているものだと思うのです。ですから、その違う基準で報告されているものを、今、それぞれが違う基準だということの報告を求めているのが違うということを証明している調査の中での実数というのは非常に曖昧だと思うのです。
それに、介護施設で亡くなるという事故の概念も非常に難しいと思うのですけれども、家でもこけますし、転落もしますし、誤嚥も起こしますから、普通に起きていることを事故として報告しているかどうかもそれぞれの施設によって違うと思うのです。ですから、そういう基準が違うもので報告されてきた数字で、これはもしかしてひとり歩きすると、ものすごくセンセーショナルな数字になっていく可能性があるので、私は今回、こういう注のような形でも出すことは賛成できません。
ただ、放っておいてくださいということではなくて、もっと基準をはっきりとして、報告基準なりはっきりとしたものを調べていくということは今後必要だと思うので、今、既に調査項目は決まっているかもしれませんけれども、今後、こういうことが実際の数字として出てきている以上は、踏み込んだ調査を別途、考えてもらうというのが筋なのかなと。それを約束してもらえるのであれば、ここでこの数字を出していくことは、その危険性のほうが高いと思いますので、御検討いただければと思います。
○藤野委員 小坂先生、お願いします。
○小坂委員 7番のほうの委員長をしています小坂です。
これは本当に研究班の中でも議論されたことなのですけれども、ヒヤリ・ハットも事故も、非常に定義が曖昧なのです。イギリスなんかの調査だと、65歳以上の3分の1が転倒します。それから、80歳以上だと5割の人が家でも転倒するわけです。そうすると、家でどのぐらいの人が転倒したり事故が起きているかということとの比較なしに、介護施設だけの死亡者を取り出して、多いとか少ないと言うこと自体はナンセンスだと思っているのです。
ですから、誤解されるようであれば、本当にこれがひとり歩きしないような対応をとるべきだろうと私も思います。
○藤野委員 ありがとうございます。
こちらは、事務局のほうから何か御意見がございましたらお願いします。
○眞鍋老人保健課長 老人保健課長でございます。
介護老人福祉施設と介護老人保健施設の両方について、同じような調査票がございまして、私どもとしては、社会的注目が高かろうと思うということで、このように用意をさせていただいた次第でございます。
経緯を御説明させていただきたいと思いますけれども、そもそもこの調査の目的というのが、資料1-6の冒頭にございます。1ページに➀、➁、➂とございまして、目的は、分科会で宿題としていただいたものを我々がかみ砕いたものでございますけれども、まずは特養、老健における安全管理体制の実態を明らかにし、そして、➁は老健から市区町村への報告件数や報告方法がどのぐらいばらついているのかという、方法について検証すること。そして、その報告された内容を、市区町村においてそれらの施設で発生した情報収集活用状況の実態を把握することでございます。
ですので、調査票もそのようなつくりになっていまして、市町村で報告された件数を、そのまま集計したものでございます。例えば分析ですとか、これをさらにブレークダウンして、例えば何によるものであるということを分析できるような仕立てにはなってございません。それはもともとこの調査の目的が、ばらつきを調べる、実態を調べるということであったからでございますので、今、今村委員からの御指摘はそのとおりだと思っておりますし、私どもとしては、調査自体の目的は達成していると認識をしております。その中で出てきた数であって、確かに今村委員がおっしゃるとおりで、これがひとり歩きすることについて私どもも危惧をいたしますので、もしよろしければ、今、御指摘があったようなことも含めて、きょうは御不在ですが松田委員長とも御相談させていただいて、分科会への報告内容に関する取り扱いについては、そこで御相談をさせていただければと思っている次第でございます。
○藤野委員 今の御議論につきまして、委員の先生方、いかがでしょうか。
福井先生、お願いします。
○福井委員 資料1-6の調査の委員長をさせていただいておりますが、今、課長がおっしゃったような内容、また今村先生から御指摘いただいた内容を委員会の場でも相当、各いろいろな専門的なお立場の委員が懸念されているという状況の中で、この事業の目的は、事業者を引き締めるという方向ではなくて、まだ十分にはできていない、国と都道府県と市町村の仕組み、できればフィードバックをして、現場の方たちの意欲向上につながったり、質の向上につながったりするための初めての実態調査という位置づけになることを願うということが頻回に発言されましたので、そのような位置づけでの数字が出てきたと考えていただければと思います。今村委員がおっしゃったことも、プラスに行くようなメッセージの数字として、この資料が活用されればと考えております。
○藤野委員 ありがとうございます。
今の件は、1-6、1-7の御指摘とお取り扱いについても同様にということでよろしいですね。 

 

 日本医療安全調査機構が行う医療事故調査制度概要https://www.medsafe.or.jp/modules/about/index.php?content_id=2を見ると、医療の安全を確保し医療事故の再発防止を行うことを目的に、医療事故の収集・分析が積極的に行われている。それに対し、介護事故に関しては大幅に周回遅れの状況にあると言わざるえをえない。家でも転ぶから介護施設での転倒死亡事故報告をすることはナンセンスという主張は理解に苦しむ。転倒リスクが高い利用者に対し、予防策をとらずに介護事故が起こった場合には責任は免れないという意識が決定的に欠けている。なお、引用した図にも記載されているが、介護老人保健施設では、転倒に伴う死亡事故でも施設の49.2%しか市町村に報告されていない。

 介護事故に関する貴重な調査結果を厚労省は出すつもりがないことがわかった。残念ながら、教訓を得ることができず、各施設がそれぞれ手探りで対策をとるしかないのが現状である。

 

<追記>

  福岡市では、介護事故報告を公開しており、非常に参考になる。