高齢者は働くことしか才能がない?

 衆議院が解散され、総選挙も間近いというにも関わらず、麻生首相の発言が物議をかもしている。http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2009072500172に紹介されている発言内容について分析する。なお、平成21年版 高齢社会白書(概要版<PDF形式>)を資料として用いた。

 どう考えても日本は高齢者、いわゆる65歳以上の人たちが元気だ。全人口の約20%が65歳以上、その65歳以上の人たちは元気に働ける。いわゆる介護を必要としない人たちは実に8割を超えている。8割は元気なんだ。

  • 平成20(2008)年10月現在、65歳以上の高齢者人口は、過去最高の2,822万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も22.1%となった。

→ 麻生首相の知識は正しい。

  • 健康についての高齢者の意識をアメリカ、ドイツ、フランス及び韓国の4ヶ国と比較してみると、日本が64.4%と最も高い結果となっている。
  • 介護保険制度における要介護車又は要支援者と認定された者のうち、65歳以上の者の数は平成18(2006)年度末で425.1万人となっており、高齢者人口の16.1%を占める。65〜74歳人口では要支援1.2%、要介護3.3%であるのに対して、75歳以上人口では要支援6.6%、要介護21.4%となっている。

→ 麻生首相の認識は基本的には間違っていない。ただし、健康についての意識をみると、8割が元気という発言は誤解を招く。

 その元気な高齢者をいかに使うか。この人たちは皆さんと違って、働くことしか才能がないと思ってください。働くということに絶対の能力はある。80(歳)過ぎて遊びを覚えても遅い。遊びを覚えるなら「青年会議所の間」くらいだ。そのころから訓練しておかないと、60過ぎて80過ぎて手習いなんて遅い。

  • 60歳以上の高齢者のグループ活動への参加状況についてみると、59.2%が何らかのグループ活動に参加しており、10年前と比べて15.5%増加している。具体的活動についてみると、「健康・スポーツ」30.5%、「地域事業」24.4%、「趣味」20.2%、「生活環境改善」10.6%の順となっており、いずれの活動も10年前と比べて増加している。


→ 赤字部分は、高齢者を見下していると批判を浴びた部分。本当にこのような表現を用いたとしたら不用意としか言い様がない。ただし、表現だけでなく、中身も間違っている。人生を謳歌している高齢者は少なくない。働くことしか才能がないという表現は、事実と異なり、侮辱ととられても仕方がない。

 だから、働ける才能をもっと使って、その人たちが働けるようになれば納税者になる。税金を受け取る方ではない、納税者になる。日本の社会保障はまったく変わったものになる。どうしてそういう発想にならないのか。暗く貧しい高齢化社会は違う。明るい高齢化社会、活力ある高齢化社会、これが日本の目指す方向だ。もし、高齢化社会の創造に日本が成功したら、世界中、日本を見習う。(2009/07/25-12:31)

  • 60歳を過ぎても働く高齢者、働きたい高齢者は多い。男性の場合、65〜69歳の不就業者のうち2割以上の者が、就業を希望している。

→ 確かに、働くことを希望している高齢者は少なくない。ただし、70歳以上高齢者については、高齢社会白書(概要)内にデータはない。


 最後に麻生首相が触れていないデータを紹介する。

  • 高齢者の暮らし向きについてみると、「苦しい」(「大変苦しい」と「やや苦しい」の計)と感じている者の割合は26.4%と、「ゆとりがある」(「大変ゆとりがある」と「ややゆとりがある」の計)と感じている者の割合(8.5%)と比べて多くなっている。また、家計の状況をみると「赤字になる」(「ほぼ毎月赤字になる」と「ときどき赤字になる」の計)と回答した者の割合も約4割(40.4%)であった。
  • 高齢者の所得格差の状況をジニ係数でみると、平成17(2005)年の調査において一般世帯では当初所得ジニ係数が0.4252であるのに対し、高齢者世帯では0.8223となっており、高齢者間の所得格差が大きいことがわかる。再分配所得ジニ係数でみると、一般世帯が0.3618であるのに対して高齢者世帯は0.4129となっており、社会保障給付などの所得再分配の影響で格差は小さくなるものの、一般世帯と比べて格差が大きくなっている。

→ 高齢になっても働くことを希望する理由のひとつに、切実な生活状況がある。豊かな高齢者と経済面で困難を抱える高齢者の格差が明らかにある。


 高齢者の生き甲斐対策として、就労対策を進めることについては賛成する。ただし、低所得者対策、社会保障充実もあわせて行わないと片手落ちである。
 生まれてこのかたお金に不自由ない生活を麻生首相はおくってきた。任期最後の段階になっても庶民の生活感覚との落差は埋めきれなかった。今回の件で、自民党候補者は麻生首相の応援演説を拒絶する。総選挙までの期間、麻生首相はどのように時間を費やすのだろう。他人事ながら気になる。