地震酔い

 東日本大震災後、常時身体が揺れている感じがしている。どうやら、この症状を地震酔いというらしい。

 米国の大学で平衡機能などの研究に携わり、めまいについて詳しい添田耳鼻咽喉科宇都宮市泉が丘4丁目)の添田一弘副院長は「船を下りて陸に上がっても、まだ揺れているような感じがする『後揺れ症候群』のようなもの」と説明する。

http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20110407/491547


 これだけ余震が続くと、本当の揺れと平衡感覚とのずれを感じてしまう。天井からぶら下がっている照明器具などが実際に揺れていないか観察するのが習慣になっている。

運転不適格者の除外には、欠格条項の厳格化より更新制度の改正が適切

 てんかん発作と交通事故(2011年4月22日)のコメント欄で記載した内容を、加筆してエントリーとしてあげます。


 運転不適格者を除外するためのシステムとしては次のようなものがあります。
(1)教習所:安全に運転できるかどうかは、実際の運転を見れば良くわかります。ただし、厳密なチェックはしにくいのが現実です。あの教習所では免許がとりにくいという評判がたったら、経営的に成り立ちません。また、暴走運転の危険がありそうな人でも、教習所では猫をかぶっているはずです。
(2)資格試験:教習所を卒業していれば、実地試験は免除されます。ペーパー試験だけでは、チェックには限界があります。
(3)更新制度:飲酒運転など交通違反を繰り返す者、重大な事故を起こした者の中には、運転不適格者が含まれています。ただし、実際には、免許取り消しになった者でも、一定の期日後には再交付が受けられます。
(4)高齢ドライバーに対する認知機能検査:高齢ドライバーの事故急増を受け、一昨年から実施されたものです。(参照:高齢者ドライバーに対する認知機能検査、6月1日から開始(2009年5月27日))高齢ドライバーからは非難囂々のようですが、時代の要請と考えるべきものと、私は評価しています。
(5)欠格条項:2002年の道路交通法改正で、相対的欠格事由に該当するかどうかを判断するための申告書記入が義務づけられました。申告書の内容次第では、運転適正相談を受けることになり、医師の診断書提出が義務づけられています。


 上記のうち、(1)から(3)までが従来の制度としてあったものです。(4)は、高齢社会の進行にあわせ規制強化として行われました。一方、(5)は、従来の欠格事項の緩和となっていますが、運用自体は厳格化されたと私は判断しています。特に、脳血管障害などの後天的障害の場合には、一見して身体障害が分かるために、以前に比べ相談に来られる方が増えています。
 今回、欠格条項に相当するてんかん患者が、免許所得要件を守らずにクレーン車を運転し、事故を起こしています。このため、てんかん患者に対する規制強化が主張する方がネット上で増えている印象を受けます。しかし、私としては、本当に問題にすべきなのは、(3)の部分ではないかと思います。

 柴田容疑者は08年4月、車で通勤途中に鹿沼市御成橋町の国道交差点で、歩道を歩いていた当時小学5年の男児(9)をはね、右足骨折の大けがをさせ、執行猶予付きの有罪判決を受けた。当時勤務していた会社の男性社長によると、柴田容疑者は入社時に持病を伝えておらず事故後、退職を申し出に訪れた際、母親が持病があることを告げたという。


 また、柴田容疑者はこの事故以前にも勤務中に2回、休日に3回物損事故を起こしていた。いずれも「夜遊びしすぎで居眠りした」「スピードを出しすぎて曲がりきれなかった」などと説明していたという。

http://mainichi.jp/area/tochigi/news/20110423ddlk09040205000c.html


 「居眠り」を事故の原因として運転手が主張するような場合、睡眠時無呼吸症候群てんかんがないという診断書がない限り、運転を許可すべきではないと私は考えます。睡眠時無呼吸症候群における居眠り運転事故調査といった論文も既に出ています。また、飲酒運転を繰り返す者も、アルコール依存症がないことを確認すべきです。病気が原因であるならば、治療をしっかりとすれば、再び運転が可能になります。仕事を失うことをおそれ、病気を隠すことの方がより問題です。
 軽微だが重大事故につながるおそれがある場合には、原因を明らかにし、予防対策をとることが求められます。初回の事故は防げないにしろ、2回目以降の重大事故を予防するために必要な対応をとることは、リスク管理の基本です。

岩手、宮城、福島3県沿岸部の医療機関被災状況

 現時点における、岩手、宮城、福島3県沿岸部の医療機関被災状況に関する報道があった。

 東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県沿岸部で、震災から1カ月以上たった今も、外来や手術、入院などの診療を制限している病院が43%に上ることが、朝日新聞社の調査で分かった。入院機能(病床ベース)も74%までしか回復していない。医療支援のチームが避難所を中心に軽症患者を診ているが、入院が必要な治療は綱渡りの状態が続いている。

アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタル


 これまで断片的なものとして伝えられていた医療機関の情報が簡潔に図にまとめられている。重要な部分は次の部分である。

  • 相双医療圏は、福島第一原発事故の影響のため、利用可能ベッド復旧率14%と診療制限病院16ヶ所中15ヶ所と悲惨な状況となっている。休診中の診療所にいたって把握されていない。
  • 釜石医療圏と石巻医療圏も状況は深刻である。それぞれ、利用可能ベッド復旧率56%、65%、診療制限病院6ヶ所中3ヶ所、13ヶ所中7ヶ所、休診中診療所21ヶ所中9ヶ所、117ヶ所中40ヶ所となっている。県立釜石病院石巻市立病院などの中核となる病院の稼働制限、被災診療所の多さが際立つ。
  • 気仙沼医療圏は休診中診療所が45ヶ所中29ヶ所と診療所の被災が目立つ。
  • 仙台医療圏(宮城野区若林区と沿岸市町に限定)では、利用可能ベッド復旧率88%、診療制限病院33ヶ所中5ヶ所、休診中診療所442ヶ所中25前後となっている。
  • 医療支援チーム数は、石巻医療圏45チーム、気仙沼医療圏40チーム、宮古医療圏22チームの順になっている。


 相双医療圏は別として、釜石から石巻にかけてが医療提供体制に支障が著しいのがわかる。特に、石巻医療圏は病院も診療所も被災状況がひどいことがわかる。それに比べると、松島から山元町に至る仙台医療圏は自力再生が可能なレベルと思えてくる。

 東日本大震災の被災地の医療を支えるため、長期的に医師を派遣していくシステムを医療界の主要団体が22日午後に立ち上げる。今後2〜3年にわたり、被災地からの求めに応じて全国の病院などから医療チームを派遣していく。


 この日発足するのは「被災者健康支援連絡協議会」(仮称)。全国80の大学病院でつくる全国医学部長病院長会議、国立病院機構赤十字病院など計約2500病院が加盟する日本病院会日本医師会歯科医師会などが参加する。

asahi.com(朝日新聞社):被災地へ長期的に医師派遣 主要医療団体、新組織設立へ - 東日本大震災


 石巻など医療再建に多大な援助を必要とする医療圏があることをふまえ、「被災者健康支援連絡協議会」(仮称)が設立されたと推測する。対応する地域は広く、息の長い取組みとなる。


 ネットにはアップされていないが、「救命から感染症へ 変わるニーズ」という記事も朝日新聞に載っており、参考になる。主な内容は以下のとおりである。

  • 震災直後は、救助した人の蘇生、低体温症、海水吸引による肺炎、打撲、骨折が主な診療内容だった。
  • 避難所生活を始めた数日後は、高血圧や糖尿病などの慢性疾患の薬を大勢が求めた。心のケアもした。
  • 1週間たつと、気管支炎や肺炎、インフルエンザが増え始めた。衛生状態悪化も問題だった。不眠や便秘の訴えも増えた。
  • 震災前は歩いていたのに寝たきりになるお年寄りが、数週間後から目立って来た。感染性腸炎ノロウィルスの流行も心配されている。肺結核と診断された80代女性もいた。

 宮城県災害保健医療アドバイザーの上原鳴夫・東北大学教授(国際保健学)は「避難所にいる人には、病気を治すだけではなく、栄養の偏りなどの危険因子を除く予防も必要。地域保健医療システムを再構築し住民を日常生活に戻す支援が必要」と話す。


 今回の朝日新聞の特集は秀逸である。報道機関の取材力、発進力を発揮したものといえる。宮城県宮城県医師会のホームページを見ても十分な情報は得ることはできなかった。惜しむらくは、医療機関の被災状況に限っていることである。老健・特養などの福祉施設や、居宅介護事業所まで調査対象を広げれば、地域の保健医療福祉システムの全体像が明らかになった。おそらく、医療と同様の状況が福祉施設や居宅介護事業にもあると予測する。長期的な支援が必要なのは、介護分野も同様である。医療と福祉・介護を橋渡しする位置にあるリハビリテーション分野は、両者をにらんだ長期的な支援体制を組むことが求められている。