無届け居住施設で置き去り事件発生

 読売新聞、無届け老人ホーム、入居者6人置き去りで事業放棄…福島より。

無届け老人ホーム、入居者6人置き去りで事業放棄…福島


 無届けで運営する有料老人ホームで入居者6人を11日間置き去りにしたとして、福島県は13日、同県いわき市のデイサービス業「ワールドアシスタンス」に対し、老人福祉法に基づき業務改善措置命令を出したと発表した。


 6人は県などに保護されたが、県は「発覚が遅れたら生命に危険が及ぶ可能性があった」としている。


 県によると、同社は2006年7月から同市平のビル1階でデイサービスを運営する一方、県に無届けで2、3階の居室25室を使って有料老人ホームを経営


 昨年9月、デイサービスを休止すると同時に、ホームで介護していた男女6人やその家族に連絡しないまま、事業を放棄した。6人は66〜91歳で、要介護3〜5。全員が、ほとんど歩行ができないお年寄りだった。


 電力会社から県に「料金が滞納されているが、高齢者がいて電気を止められない」と連絡があって発覚した。ホームでは発覚するまでの11日間、男性従業員1人が自己判断で食事の世話などをしていた。


 県に対し、同社社長は「名前を貸しただけ」などと説明しており、県は経営実態などを調査している。ホームの利用料は月額5万〜6万円。入居者は「行き場のない自分たちを世話してくれた。ありがたかった」と話しているという。


(2008年5月13日22時51分 読売新聞)


 読売新聞の続報、老人ホーム調査強化へより。

老人ホーム調査強化へ
県、置き去り問題受け


 無届けで有料老人ホームを運営していた、いわき市平のデイサービス業「ワールドアシスタンス」が施設にお年寄りを置き去りにした問題を受け、県は、ほかの老人ホームでも発生する可能性があるとして、積極的に立ち入り調査を行う方針を決めた。無届けの老人ホームについては、介護業者との連係を進めることで洗い出しを強化する。


 県に届け出が出ている有料老人ホームは現在、71か所ある。老人福祉法の改正で、「入居者が常時10人以上で食事を提供している」としていた従来の届け出対象を、「人数に関係なく、食事、介護、家事などのサービスを提供している施設」と広げたことなどから、05年の6か所から大幅に増えた。


 全国でも増加傾向は同じで、厚生労働省によると、昨年7月時点の施設数は2846。高齢者人口の増加でニーズが高まっていることや、届け出制のため設置しやすいことなどが理由という。


 施設の増加により、県でも「積極的にかかわらないと数が多くて実態がつかめない」との意見があがっていたが、これまで一度も立ち入り調査は行われていない。


 しかし、今回の問題について「入居者の生命に危険が及ぶ可能性があった重大事案」と受け止めており、同様のケースを防ぐため、調査強化を決めた。


 一方、無届けだったワ社は、食費込みで月額5〜6万円の低額料金でお年寄りを受け入れ、昨年9月に事業を放棄し、入居者6人を置き去りにした。


 県は、運営自体を知らなかったため、休止も把握できなかった。このため、施設の存在を把握することを最優先にすることにした。入居者には介護保険が使われている可能性があるため、介護業者や市町村からの情報を受け、無届け老人ホームの洗い出しを進める。


 また、県によると、県内の有料老人ホームの月額料金の相場は12〜15万円ほど。同市の有料老人ホーム関係者は、ワ社の5〜6万円という額に「採算がとれる額ではない」としている。この関係者は、ワ社の存在についても「今回、初めて知った」と話した。


(2008年5月15日 読売新聞)


 最近、「ワールドアシスタンス」社のような事業形態が増えている。有料で高齢者を預かり、併設するデイサービス業で介護保険からの収入を得るというスタイルである。居住施設本体は安価でも、居宅サービスを限度額ギリギリまで使えば、要介護3〜5なら25〜35万円の収入が得られる。おそらく、この会社が事業を放置した理由は、予想外に入居者が少なく、その結果、通所の収入が上がらなかったためだろう。


 本ブログでも、有料老人ホームについては、有料老人ホームの価格破壊や、回復期リハビリテーション病棟と有料老人ホームで紹介してきた。
 今後、厚労省は、介護療養病棟を全廃し、老健や特養などを重度者専用とする方針を出している。いきおい、自宅で生活することが困難な高齢者が有料老人ホームを利用せざるをえなくなる。
 有料老人ホームは届け出制であり、その気になれば、質の確保のために行政が指導することは可能である。しかし、本件のように、無届けで居住施設を運営し居宅サービス事業で収入を確保するといった施設に対しては規制がかからない。通所や訪問事業所と一体となり運営をしている居住施設の調査が必要である。


 本事件の唯一の救いは元従業員がただ一人残り介護を続けたということである。社長の無責任さにはあきれて物が言えない。介護現場でモラルハザードが生じている。姥捨て政策に対応するかのような置き去り事件に心が暗くなる。

刑務所への退院は在宅復帰にカウントされるのか?

 本日の昼食での雑談の中で、刑務所への退院は在宅復帰にカウントされるのか、という疑問が職員から出された。
 回復期リハビリテーション病棟運営上、在宅復帰率6割以上という足枷は大きな負担になっている。数年前、退院したら刑務行きになるかもしれないという患者がいた。今後、受刑者が脳卒中や大腿骨頸部骨折になった場合、やはり、回復期リハビリテーション病棟に入院してリハビリテーションを行うことになるだろう。
 そんなことを考えていたら、気になって仕方がなくなり、どうでも良いことながら思わず調べてしまった。


 法務省矯正医療の現状より。

矯正医療の現状


 行刑施設には、その規模や業務に応じて医務部又は医務課等の組織が設けられ、医師その他の医療関係専門職員が配置されて、施設における医療及び保健衛生関係業務に従事している。
 行刑施設における医療体制は、社会の医療の高度化・専門化に対応して充実を図る必要があるため、全国に四つの専門的に医療を行う施設として、八王子医療刑務所、大阪医療刑務所、岡崎医療刑務所及び北九州医療刑務所が設置されているほか、札幌刑務所、宮城刑務所、府中刑務所、名古屋刑務所、広島刑務所及び福岡刑務所を医療重点施設に指定している。
※ <行刑施設における病院及び診療所>
 札幌刑務所、八王子医療刑務所、東京拘置所、大阪医療刑務所及び北九州医療刑務所の5施設は、病院として指定を受けており、その他の施設は、診療所として指定を受けている。


(中略)


3 常勤医師の勤務状況
 全国の行刑施設における常勤医師が1週間当たりの施設における勤務日数は,以下のとおりである。
  1週間当たり5日勤務している者が 35人
       4日勤務している者が 12人
       3日勤務している者が 151人
       2日勤務している者が 16人
       1日勤務している者が 5人
※ 平成15年3月17日現在(常勤医師219人)


 回復期リハビリテーション病棟入院料Iの施設基準でも述べたが、在宅復帰率等に含まれる「在宅」とは、「診療報酬算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」中の区分番号「C001」在宅患者訪問診療料(2)ア及びイに掲げる施設等と同様である。「医師が常駐していない施設」のことを指し示している。
 したがって、病院として指定を受けている5施設は当然だが、診療所とみなされる他の刑務所も全て「医師が常駐していない施設」とはみなされないだろう。ただし、週のうち1日だけしか勤務していない場合でも常勤扱いをしているのはいかがなものか、と疑問を述べたくなる。


* 結論: 回復期リハビリテーション病棟から刑務所に退院した場合には、「在宅等」には含まれない。

後期高齢者診療料届け出数に関する原資料

 後期高齢者診療料問題について、届け出割合底上げ、『長寿医療制度』実施本部」の企みで取りあげた。CBニュース、高齢者診療料の届け出にばらつきで、厚労省保険局医療課から提出された原資料が紹介されている。同じ資料が、m3com、橋本佳子編集長、『号外 速報!「後期高齢者診療料」の最新届け出状況 - 2008/05/14』にPDFファイルとして添付されている。


 CBニュースの表に記載されている全国の内科診療所総数63,286ヶ所という値は、厚生労働省:平成17年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況、統計表8 診療科目別にみた一般診療所数・歯科診療所数の年次推移(重複計上)に記載されている内科標榜診療所数と全く同じである。
 全国の届け出数8,876件は、一般診療所総数97,442ヶ所の9.1%、内科診療所数63,286ヶ所の14.0%、内科を主な診療科とする診療所37,356ヶ所の23.8%となる。分母を変更することにより印象が全く異なってくる。
 後期高齢者診療料を算定できるのは、内科診療所だけではない。ましてや、「内科を主な診療科とする」といった限定条件をつけるのは問題である。低調な届け出状況という実態を覆い隠すために、厚労省が情報操作を行っている。