保団連、中医協委員と国会議員に外来管理加算の「意見書」を送付

 7月3日のエントリー、外来管理加算問題、保団連の攻勢続くで、次のような指摘をした。

 どうやら、厚労省医療局保険課は、抗議文を出したにも関わらず、不正流用疑惑については、知らぬ存ぜぬという構えを貫こうとしている。人に噂も75日と考えているらしい。


 しかし、相手が悪い。しつこさで定評のある保険医団体連合会である。これでもかというように次から次へと手を打ってくるだろう。現在のところ、静観を決め込んでいる医師会も、外来管理加算5分ルールで打撃をこうむっている会員の惨状は無視できない。中医協の医師会委員がこの問題を正面きって取り上げた場合には、厚労省はいったいどういう態度をとるのだろう。


 中医協への申し入れをするとにらんでいたが、予想より早く、中医協委員と国会議員に外来管理加算の「意見書」を送付しました(08.7.8)という文書が全国保険医団体連合会のホームページにアップされた。概要を紹介する。

2008年7月7日
全国保険医団体連合会


外来管理加算5分ルールで厚労省試算を大幅に超える減収が発生  

 貴殿の日頃のご活躍に敬意を表します。


 私ども全国保険医団体連合会(保団連 会長:住江憲勇)は全国の医師・歯科医師10万人の団体です。


  2008年4月の診療報酬改定で、外来管理加算の算定要件に「概ね5分を超える診察」を対象とすること(以下、5分ルール)が加わりました。外来管理加算(52点)は、診療所と200床未満の病院で外来再診の際に、処置や検査、リハビリ、精神科療法などがなく診察、指導、投薬のみであった場合に、再診料(診療所71点、病院60点)に加えて算定できる診療報酬です。


(1)診療報酬改定前後の比較による外来管理加算の影響調査結果(別紙1
―小児科や地域医療を担っている200床未満の病院にも深刻な打撃―


  当会は2008年5月、全国35都道府県において外来管理加算に関するアンケート調査を行い、診療所3,402件、200床未満の病院441件から有効回答を得ました。診療所については、2008年3月と4月の再診料及び外来管理加算(3月は老人外来管理加算を含む)の算定回数を比較し、診療科別に集計しました。病院については、前年4月との比較で行いました。  その結果、診療所では3月の外来管理加算算定率58.7%が、4月は45.3%に低下しました(マイナス22.8%)。最も影響の大きかった診療科は皮膚科と小児科で、内科や耳鼻科など、ほとんどの診療科で算定率が低下しました。


  また、200床未満の病院でも算定率は58.5%から45.8%に低下しました(マイナス21.7%)。 診療所の減収額は全科平均で月額75,411円、年間換算904,928円となりました。 これに全国の診療所数88,679(2008年1月)を乗ずると年間約800億円に達します。


「平成18年社会医療診療行為別調査」から概算すると、外来管理加算は年間約2,000億円、老人外来管理加算が約1,000億円、あわせて約3,000億円と推計されます。 減少率から計算すると、3,000億円x0.228=684億円のマイナスになります。


  いずれの数値をとっても、2008年1月30日中央社会保険医療協議会(以下、中医協)第122回総会で厚生労働省(以下、厚労省)が示した「外来管理加算とデジタル加算合わせまして約200億円強」という試算を大きく上回る減収が発生しています。


(中略)


  厚労省は、小児科医師不足などに配慮し小児科対策を診療報酬改定でも重視するとしてきましたが、今回の改定はそれに反するものといわざるを得ません。 また、200床未満の病院についても診療所全体と同程度の減少率ですが、医師不足により一人の医師が多数の患者を診察せざるを得ない地方の中核的中小病院が大幅な打撃を受けていることが予想されます。


(中略)


  現場の声としては、「医師の診察・指導時間のみで看護師などの指導時間は評価されず、チーム医療を無視している」、「診察時間の長さをめぐって、患者とトラブルになった」、「時計を気にしていると診療に集中できない」「医療の質は時間では測れない」など、設定そのものの不合理、患者との信頼関係の悪化、患者自身も不利益を受けていること、の指摘がありました。 診療所、病院を合わせて今回の時間要件については、88%が「反対」と答え、「賛成」はわずか3%でした。


 以上が、外来管理加算5分ルールの影響について述べた部分である。厚労省の目論見以上に外来管理加算算定が困難になっている。しかも、医師が少なく必然的に多数の患者を診察せざるをえない小児科や中核的中小病院に打撃を与えていることがデータとして示されている。
 続けて、厚労省中医協論議の時に用いられた資料の不正流用疑惑が取り上げられている。

(2)外来管理加算の算定要件変更に関する中医協資料について


  厚労省は、2007年12月7日の中医協基本問題小委員会に「内科診療所における医師一人あたりの、患者一人あたり平均診療時間の分布」(以下、平均診療時間の分布のグラフ、別紙2)を示し、「内科を主たる標榜科とする診療所において、平均診療時間が5分以上である医療機関が9割(10分以上では6割)という結果であった」と分析し、「大体5分以上の医療機関が9割ぐらいでありますので、そういうあたりを目安に、やはり時間の目安を今回設けてはどうか」(原医療課長)という提案をしました。そして、2008年1月の中医協における議論を経て、外来管理加算に「概ね5分」という算定要件が決定されました。


* 別紙2のグラフ


  しかし、当会が平均診療時間の分布のグラフに対する情報開示請求を行い、厚労省へ照会した結果、以下のことが明らかになりました。


1)平均診療時間の分布のグラフは「時間外診療に関する実態調査」から作られた


「時間外診療に関する実態調査」は2007年7月に厚労省が、みずほ情報総研株式会社に委託して実施されたものです。本調査の「協力のお願い」(厚労省保険局医療課、別紙3)には、「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に」とありますが、題名が「時間外診療に関する実態調査」でありますから、調査に協力する医師は、時間外診療に関する診療報酬改定の検討資料とする、と理解します。さらに、同封されている「みずほ情報総研株式会社」の「協力のお願い」文書(別紙4)には「このたび厚生労働省では、今後の時間外の診療のあり方を検討するため」と記載されており、文末には「上記目的以外に使用することは一切ございません」と明記されています。


  調査に応じた医療機関はこのことを前提に回答したものであり、これを外来管理加算の算定要件変更のための資料に使用したことは不正流用といわざるを得ません。 また、本調査に際して日本医師会より調査府県医師会に宛てた連絡文書の別添資料には、実際の調査で配布されたものと異なる保険局医療課の協力のお願いがあり(別紙5)、この文書の調査目的は「今後の時間外の診療のあり方を検討するため」となっていました。


  これに対して厚労省は、実際に配布した保険局医療課の協力のお願いには「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に」とあるので、みずほ情報総研株式会社の文書に何と書いてあろうが不正流用には当たらないとの見解を示しております。 本件が不正流用に当たるか否かは各位のご判断に委ねたいと思います。


 証拠をもとに、陪審員中医協委員)の判断を迫る自信たっぷりの弁護士のようである。さらに、保団連の文書は次のように続ける。

2)平均診療時間の分布のグラフは外来管理加算の時間要件の目安にはならない


 外来管理加算の大部分は時間内に算定されます。いうまでもなく「時間外診療に関する実態調査」は時間外の診療に関する調査です。しかも、全県調査ではなく、時間外診療の最も多い、愛知、京都、大阪と最も少ない山形、山口、熊本の6府県を対象として行われたものです。


  さらに重大なことは、2007年12月7日の中医協基本問題小委員会で、原医療課長は「この時間は、1カ月間の表示をしてあります診療時間と、それからその1月間の患者さん、これの割合をとる。それから診療する医師が1人以上の場合もありますので、医師の人数で割る。そういう形でもって1人当たりの診療時間の分布を見た。」と説明していますが、「時間外診療に関する実態調査」の結果をもとに、平均診療時間を計算したとすれば、上記の表示診療時間には、患者が途切れている時間、入院患者の診療時間(有床診療所)、検査の時間、訪問診療の時間等、さらに外来管理加算の対象ではない初診患者の時間も含まれます。このような表示診療時間を単純に患者数で割ったのでは、外来管理加算の時間要件の目安となる再診患者の平均診療時間とは、およそかけ離れた数値となる。これは、臨床医ならずとも容易にご理解頂けると思います。


3)診療時間から診察時間へのすり替え


  中医協において外来管理加算の時間要件に関しては一貫して「診療時間」で議論されています。2007年11月2日に始まった外来管理加算の時間要件に関する中医協議事録の中で、「診療時間」の文字列が22回でてきます。これに対して、「診察時間」は2008年1月16日の小委員会議事録の鈴木委員の発言の中に1回出てくるだけです。しかし、2008年3月5日の厚労省課長通知では外来管理加算の算定要件は「概ね5分を超える診察時間」と定められました。診療時間と診察時間は大きく異なります。中医協の議論を経ることなく診療時間が診察時間に変わった理由について厚労省に質問しましたが、未だ回答はありません。


 「時間外診療に関する実態調査」としたら妥当かもしれないが、外来管理加算に関しては調査対象に偏りがあるのではないかという指摘をまずしている。その上で、平均「診療時間」と外来管理加算対象の個々の再診患者「診察時間」に違いがあることを論理的に主張している。

4)起こるべくして起こった大幅な減収


  平均診療時間のグラフが外来管理加算の時間要件の目安にならないことは既に述べました。中医協の議事録を見直しても、平均診療時間のグラフ以外に5分の根拠は見当たりません。 「外来管理加算とデジタル加算合わせまして約200億円強」の試算根拠を厚労省に質問しましたが、未だ回答はありません。


 2006年6月4日の中医協診療報酬基本問題小委員会資料には「内科系外来技術の難易度及び時間係る調査」(平成17)の病院のデータのみが引用してありますが、本調査にはパイロットスタディながら診療所の診察時間の調査結果があります(別紙6)。 これによれば、診療所の再診患者の「診察時間」の5分未満は約5割です。「5分」未満が算定できないと仮定して試算すれば、外来管理加算のマイナス額は年間約1,500億円に達します。実際には5分に「概ね」がついているため、この額には至らないものの、今回のアンケート調査結果で示された、厚労省試算を大幅に超える減収は起こるべくして起こったものと言えます。


 今、医療現場は大変な混乱の中にあり、怨嗟の声に満ちています。 当会は外来管理加算5分ルールの即時撤廃を強く求めるものであります。


以上


 別紙6のような資料をいったいどこから探し出してくるのか、保団連の調査能力には驚嘆させられる。
 平成20年度診療報酬改定最大の汚点、外来管理加算5分ルールの妥当性について、中医協内部で議論されるのかどうか。医師会代表の発言だけではなく、公益委員がどのように判断するかにかかっている。国会議員にも送付したとのこと。国会論戦に取り上げられる可能性も高い。厚労省官僚はどのように対応するのだろうか、興味が尽きない。