「がれき受け入れについての医師の立場からの意見書」の数値は正しいのか?

<お詫び>
 先程あげたエントリーですが、気になって再検討したところ、大きなミスに気がつきました。申し訳ございません。訂正しましたので、よろしくお願いいたします。


 大阪府知事大阪市長宛に提出されたがれき受け入れについての医師の立場からの意見書(平成23年12月21日)を批判的に吟味したところ、放射線汚染量計算結果に疑問を抱いた。

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 まず、内部被爆を可能な限り避けること求められること、そのためには、積極的な情報公開が必要なことについては、私も同意見であることをあらかじめ表明する。
 批判的吟味を行ったのは、以下の2点である。

1.内部被爆 10Bq/kg 以下を目指すという共通意識が必要である(8ページ)
2.焼却後の汚染濃度 2000Bq/Kg を20万トン受入れると総量は 1000GBq、8000Bq/Kg で 8000GBq(5ページ)


 「内部被爆 10Bq/kg 以下を目指す」という表現は、繰り返し使用されており、本意見書の中心テーマとなっている。根拠は、9〜10ページに示されている。

 食料、水、牛乳をどの程度摂取すると内部被爆 10Bq/kg を越えてしまうのか検討してみます。(図5)は ICRP による放射性セシウムの一回摂取と長期摂取による体内残存量の経時推移 (ICRP PUBLICATION 111. Application of the Commission’s Recommendations to the Protection of People Living in Long-term Contaminated Areas after a Nuclear Accident or a Radiation Emergency) の表です。縦軸は全身のベクレルです。成人70kg体重と仮定した場合、700ベクレル÷70kgで 10Bq/kg となります。ご覧のように 10Bq/日であっても毎日摂取すると半年ほどで 10Bq/kg を超えてしまうことになります。体重30kgの小児であれば2ヶ月前後です。

 毎日、体重あたり10Bqの食品を摂取すると、体重70kgの方では1日700Bqを摂取することになり、蓄積すると身体全体で1400Bqの状態が維持されるということが示されている。しかし、これは、あくまでも食品摂取における基準であることに留意する必要がある。がれき処理後の焼却灰にこの基準を用いることには疑問を抱く。


 一方、がれき処理後の放射線物質汚染については、5〜6ページに次のように記述されている。

 焼却後の汚染濃度 2000Bq/Kg を20万トン受入れると総量は 1000GBq、8000Bq/Kg で 8000GBq。例えばその内の30%が何らかの形で環境内へ流出するとすれば300GBq以上(前者の場合)が周囲住民の内部被曝につながる可能性があります。実に30億人に影響を与えることができる量です。このように濃度にだけ目を向けるのではなく、総量に目を向けて環境流出について考えねばなりません。

 焼却後の汚染濃度 2000Bq/Kg を20万トン受入れた場合は、人口886万人以上、面積1896km2の大阪に推定 1000GBq以上の放射性セシウムの負担、すなわち1人(成人男子、体重65kgとして)あたり10万 Bq/kg 前後となり、4500MBq/km2 以上の土壌汚染の危険性があります。環境流出を0.01%にできたとしても住民への体内被曝10Bq/kg を下回らせることは困難です。小児は成人よりも10倍以上と感受性が高く、影響も30年40年以上と長期に及ぶと考えると、被害は甚大です。


(以下、修正した部分)
 総量1000GBqとなるためには、焼却灰量に関する計算式は次のとおりとなる。なお、1GBq = 1000MBq = 100万kBq = 10億Bqという関係にある。

  • 1000GBq ÷ 2000 Bq/kg= 1000 × 10億 ÷ 2000 = 5億kg = 50万トン

 がれき量が20万トンなのに、焼却灰の方が2.5倍と逆転してしまった。



 仮に、20万トンすべてが2000Bq/kgの焼却灰だとしたら、次のような計算式となる。

  • 2000Bq/kg × 20万トン = 2000 × (20万 × 1000) = 4000億Bq = 400 GBq


 どうしても計算が合わない。
 環境省は、東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理の促進について(PDF:1,097KB)(平成23年11月2日)の別添資料10ページにて、濃縮率33.3倍とか16.6倍という数値を示しており、根拠がある数値と言える。仮に、40倍だとする。次のような計算式が成り立つ。

  • 焼却後 2000Bq/kgとすると、焼却前は50Bq/kg
  • 放射線物質総量は、50Bq/kg × 20万トン = 50 × (20万 × 1000)= 100億 Bq = 10GBq


 ちょうど100分の1となる。何度も検算をしてみたが、どこからも1000GBqという数値は出てこない。

(修正終わり)


 なお、焼却前の放射線廃棄物濃度については、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第六十一条の二第四項に規定する製錬事業者等における工場等において用いた資材その他の物に含まれる放射性物質の放射能濃度についての確認等に関する規則(平成十七年十一月二十二日経済産業省令第百十二号)の38ページ別表2に基準が示されている。Cs134、137とも0.1Bq/gであり、100Bq/kgとなる。濃縮率40倍とすると、焼却前の基準としては、2000Bq/kgの時は50Bq/kgとなるので下回っている。一方、環境省の規定する上限8000Bq/kgを想定するなら、震災前の基準の倍程度となる。


 岩手、宮城の焼却灰濃度については、東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理の促進について(PDF:1,097KB)(平成23年11月2日)に資料がある。ちなみに、東京に運ばれた宮古市の焼却灰濃度は、9月14日現在で、飛灰133Bq/kg、主灰10Bq/kgとなっている。関東地方よりずっと少ない。福島第一原発宮古市との距離は、ほぼ東京までの距離に匹敵する。放射線物質汚染に関する各種資料をみる限り、岩手県沿岸部の汚染はきわめて軽度である。本資料には、「意見書」に言及されていた焼却後のセシウムが回収可能かどうかについても記載されており、参考になる。


(以下、修正した部分)
 批判的吟味を行おうと意気込んで「意見書」を読んでみたものの、途中で数値に大きな隔たりがあることに気づいた。医師は理系というが、実際に仕事をしてみると、あまり数学の知識は必要としない。特に度量衡を間違いやすい。私も、計算を間違えてしまった。やや自身喪失気味である。他にも間違っているところがあるかもしれない。本エントリーに関する批判的吟味をしていただければ幸いである。