Medical complications associated with earthquakes

 Lancet 最新号に載ったreview、http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60887-8/abstractを読んだ。

 Summary
 Major earthquakes are some of the most devastating natural disasters. The epidemiology of earthquake-related injuries and mortality is unique for these disasters. Because earthquakes frequently affect populous urban areas with poor structural standards, they often result in high death rates and mass casualties with many traumatic injuries. These injuries are highly mechanical and often multisystem, requiring intensive curative medical and surgical care at a time when the local and regional medical response capacities have been at least partly disrupted. Many patients surviving blunt and penetrating trauma and crush injuries have subsequent complications that lead to additional morbidity and mortality. Here, we review and summarise earthquake-induced injuries and medical complications affecting major organ systems.


 地震に関する1990年から2010年までの文献中、50人以上の多数例を扱った123論文を検討している。英語だけでなく、中国語論文が含まれている。Table 1をみると、過去10年間に1000人以上の死者を出した13地震中、四川省地震(死者87,587名、2008年5月12日)と青海省地震(死者2,698名、2010年4月13日)が含まれていることが影響しているようである。
 地震に関係する合併症として以下のものがあげられている。

  • Renal system(腎臓系)
    • crush syndrome(挫滅症候群)
  • Musculoskeletal injuryes(筋骨格系損傷)
    • lacerations(裂傷)、fractures(骨折) and soft-tissue contusions or sprains(軟部組織打撲、捻挫)
    • amputation(切断)
  • Cardiovascular system(心血管系)
    • acute myocardial infarctions(急性心筋梗塞
    • sudden cardiac death(突然心臓死)
    • cardiac arrhythmias(不整脈
    • cerebrovascular accidents(脳血管障害)
    • adversely affect blood pressure in patients with hypertension(高血圧患者の血圧への悪影響)
  • Chest injuries(胸部損傷)
    • rib fracture(肋骨骨折)、flail chest(動揺胸郭)、sternal fractures(胸骨骨折)、scapular or clavicular fractures(肩甲骨、鎖骨骨折)、pulmonary parenchymal injuries(肺実質損傷)、 pleural injuries(胸膜損傷)、 haemothorax、haemopneumothorax、pneumothorax(血胸、血気胸気胸)。
  • Infectious disease(感染症
    • respiratory and water-borne illnesses(呼吸器疾患、水系疾患):cholera(コレラ
    • tetanus(破傷風
    • sepsis(敗血症)
  • Mental health(メンタルヘルス
    • acute stress disorder(急性ストレス障害
    • depression(うつ)
    • suicide(自殺)
    • post-traumatic stress disorder (PTSD)
  • Neurological problems(神経系の問題)
    • spinal trauma(脊髄外傷)
    • traumatic head injury(外傷性頭部外傷)
  • Haematology(血液学)
    • blood transfusion(輸血)
  • Special considerations(特に留意すべき事項)
    • children(小児)
    • elderly individuals(高齢者)


 地震時に救命医療の対象となる疾患のかなりの部分が、リハビリテーションを必要とする。外傷性疾患ばかりに注目が集まるが、ストレスを契機として発症する心血管系イベントやメンタルヘルスにも言及されている。阪神淡路大震災の経験をふまえた日本発の論文も多い。小児や高齢者などの災害弱者に対する論文も紹介されている。
 本Reviewは、災害時リハビリテーションの全体像を考えるうえできわめて重要であると感じた。

石巻日赤院長講演「東日本大震災の教訓:被災地の拠点病院として」

 本日行われた宮城県リハビリテーション医会第1回研究会で、石巻赤十字病院飯沼一宇院長の講演「東日本大震災の教訓:被災地の拠点病院として」を聴いた。災害医療のポイントを次の3点にまとめていた。
 1)危機管理の事前準備と整備
 2)通信と物流の整備
 3)統率と協力


 石巻赤十字病院は、災害拠点病院として様々な準備をしてきていた。2006年に現在地に移転した際、石巻市で初めて免震構造を採用した。北上川に近いこともあり、洪水対策として3mの盛土をした。待合室ホールを災害時の受け入れスペースとして位置づけ、酸素や吸引の配管を整え、床暖房とした。非常用電源、水道の対策もとっていた。以上のハード面に加え、災害時マニュアルの整備、大規模災害を想定した定期的訓練、地域関係機関との協議など着々と準備をした。そして、2011年2月に、石井正医師が宮城県災害コーディネーターとして任命された1ヵ月後に、東日本大震災が起こった。地域の医療機関が壊滅状態となるなかで、唯一残った医療機関として獅子奮迅の働きをした。数年以内に必ず起こると言われていた宮城県沖地震の準備として進めてきた危機管理対策が役立った。唯一不十分だったのは、職員の食糧備蓄だった。患者用の食事は缶詰にしたものが3日分あったとのことだが、全職員が自宅に帰れずに働かなければいけない事態は想定していなかったとのことだった。
 通信手段もいくつか整備していたが、実際には役立たなかった。自分たちのところの通信機器が使用できても、連携相手に問題がある場合には、つながらない。結局のところ、人海戦術で足で情報を集めるしかなかった。物流も途絶えた。何よりもガソリン不足が問題となった。今後の大震災の教訓として、大災害に強い通信網の整備が必要とまとめられた。なお、震災前にはセキスイハウスと災害時協定を結び、大人数の人間が入ることができるテント準備を要請し、実際に実施された。震災後さらにイオン石巻と協定を結び、食料その他の物流確保に努めている。
 全国各地からの支援には助けられた。しかし、統率がとれなければ、現場の力にはならない。災害コーディネーター石井正医師が責任者となり、応援部隊は避難所等の外部支援に回った。エリアとその責任者を明確にした。継続して支援に来れる団体の場合には、一つの仕事をラインとして任せた。散発的な支援は人手が必要な部署にスポットとして回した。刻々と変わる状況をふまえ、指揮系統を明確にし、対応した。統率と協力が成果をあげた。


 以下、質疑応答より。


 公衆電話などのアナログ式固定電話は、電話線を通じて電気が供給されるので災害時には強いが、どう思うか。
⇒ 実際、自分も使用してみたが、相手が出なかった。通話相手も含めた通信網の整備が必要と思う。


 災害弱者への対策はどうだったのか。自分たちの地域は、訪問看護ステーションなどの居宅サービス事業者が自分の危険を省みず、一軒一軒安否を確認していた。物資も不十分だった。医療側は病院にたてこもって患者対応に精一杯だったので、後になって在宅要介護者の状況が分かった。
⇒ 外部からの応援部隊が避難所めぐりをする中で、問題となる者を探し出した。重度要介護者を遊学館に、やや軽い者を桃生トレセンに集めた。


 講演のなかで、次の2つの書籍を紹介された。

石巻赤十字病院の100日間

石巻赤十字病院の100日間

 後者は2012年2月に発売されたばかりである。今回の講演の復習の意味を含め、購入して読んでみることにしたい。