回復期リハビリテーション病棟在宅等復帰率に関係する因子

 回復期リハビリテーション病棟について、原稿依頼があった。在宅等復帰率に関係する因子を中心にまとめた部分を呈示する。


【回復期リハビリテーション病棟とは】
 2000年度診療報酬改定で導入された特定入院料である。リハビリテーション料は出来高で算定されるが、それ以外は包括されている。当初は1日あたり1,700点だったが、2002年度以降2007年度までは、1,680点となった。( → 2008年度以降の点数は次項参照)
 人員基準: 専従医1名(2008年度から専任医1名に緩和)、専従PT2名、専従OT1名(専従療法士は、他病棟や外来業務との兼務不可)。病棟には、看護職入院患者3名あたり1人、看護補助者は同じく6名あたり1人、あわせて入院患者2名あたり1名のスタッフを配置する。
 対象疾患は下記図表のとおりである。脳血管疾患と大腿骨頸部骨折は、回復期リハビリテーション病棟の主要対象疾患である。


 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会のホームページをみると、2008年12月現在で、全国に、1,148病棟、51,296床の回復期病床がある。制度発足以来、着実に増加しており、目標の人口10万人あたり50床に近づいている。ただし、地域差が激しく、西高東低現象を示している。
 集中的なリハビリテーション提供によるADLの改善と自宅退院の促進が回復期リハビリテーション病棟の役割として期待されている。今後、急性期とあわせた総在院日数短縮が迫られる中、より早期の受入れ、回復期病棟自身の在院日数短縮が求められている。


【回復期リハビリテーション病棟への成果主義導入(2008年度改訂)の概要と問題点】
# 概要
 2008年度診療報酬改定において、回復期リハビリテーション病棟入院料は、入院料1(1,690点)と入院料2(1,595点)に分かれた。さらに、入院料1に重症患者回復病棟加算50点がつき、次の3段階に区分された。なお、( )内は従前の点数との比較を示す。

  • 入院料1+重症患者回復病棟加算 1,740点(+60点)
  • 入院料1 1,690点(+10点)
  • 入院料2 1,595点(マイナス85点)
    • 入院料1の条件: 重症患者率15%以上、在宅等復帰率60%以上。
    • 重症患者回復病棟加算の条件: 重症患者の3割以上が退院時に「日常生活機能評価」で3点以上改善。

 重症患者の評価に用いられる「日常生活機能評価」とは、ハイケアユニット用看護必要度「重症度・看護必要度に係る評価票」のB得点である。19点満点中10点以上が重症と評価される。
 在宅等とは医師が往診できる場所(自宅、有料老人ホーム、グループホーム、特養等)を指す。老健施設や療養病床は在宅等には含まれない。


# 問題点
 回復期リハビリテーション病棟の質の評価を名目に、成果主義が導入されたことは大問題である。在宅等復帰率に関係する因子を図表にまとめた。


 在宅等復帰率には、1)患者重症度、2)介護力、3)リハビリテーション効果が関係している。
 当院調査結果を示す。対象は、2006年4月1日以降にリハ依頼を行い2008年1月15日までに退院した回復期病棟入院脳血管疾患患者中、死亡・治療目的での転院等を除外した303名である。全体の自宅退院率68.0%だった。
 患者重症度の目安として、回復期入院時のADLを用いた。入院時FIM運動項目が13-22点と重症だった群では、自宅退院率は31.6%に過ぎなかった。また、独居者では自宅退院率は57.4%だった。リハビリテーション効果として、FIM運動項目改善を用いたが、改善5点以下の群では、自宅退院率は39.7%だった。ロジスティック回帰分析を用い、交絡因子を調整したが、同様の結果だった。自宅退院に関係するオッズ比は、3世代以上に対し独居者0.10となり、約10倍自宅退院が困難であることが示された。
 リハビリテーション効果があった場合、自宅復帰率を引き上げる。このことは、回復期リハビリテーション病棟の質を示しているとも言える。だが、患者重症度や介護力も同様に自宅退院に関係している。在宅等復帰率を上げ、より高い診療報酬を得るために、入院時ADLが低い重症者や、介護力がない独居者が選別される恐れがある。
 今回、重症度判定に用いられた「日常生活機能評価」は、ADL指標であるFIMやBarthel Indexと互換性がなく、リハビリテーション分野とは異質の評価であることが明らかになっている。臨床指標の十分な吟味なく、成果主義が導入されたことに対し批判が出されている。

脳卒中患者が自宅に退院するための条件

 「回復期リハビリテーション病棟在宅等復帰率に関係する因子」というエントリーに関する参考文献を示す。


1)二木立:脳卒中患者が自宅退院するための医学的・社会的諸条件.総合リハ 11:895〜899、1983.

 「脳卒中患者が自宅に退院するための3条件」を示した。

  1. リハビリテーションにより、歩行が自立すること、少なくても、ベッド上生活が自立すること。
  2. もし、全介助にとどまった場合は、最低常時介護者1人プラス補助的介護者1人が確保できること
  3. 全介助にとどまった場合、往診・訪問看護等の在宅医療サービスが受けられること、および病状が悪化した場合、再入院(「間歇入院」)が可能であること。


 その後の研究でも、退院時のADL、及び介護力が自宅退院の重要な因子であると報告されている。

2)中村桂子ら:脳血管疾患患者の自宅復帰に及ぼす社会生活因子の影響.公衆衛生 53:427 - 432、1989.

 「日中介護者1人以上」がオッズ比12.20と最も強い関連をもつ因子。「トイレ動作自立」、「下肢の麻痺が軽度」、「居住地域の低生活保護率」も関連があった。


3)近藤克則ら:脳卒中リハビリテーション患者の退院先決定に影響する因子の研究 多重ロジスティックモデルによる解析.日本公衛誌 46:542 - 550、1999.

 Barthel Index(BI) が高く(オッズ比1.36)、家族数が多く(1.84)、介護力が大きい(1.94)と、自宅退院を促進し、一方、病型が出血(0.39)、生活保護受給(0.04)は自宅退院を阻害した。


4)植松海雲ら:高齢脳卒中患者が自宅退院するための条件 −Classification and regression trees(CART)による解析−.リハ医学 39:396-402、2002.

 CARTによる解析の結果、FIMトイレ移乗、家族構成人数からなる決定木が得られ、トイレ移乗が要介助でかつ家族構成人数が2人以下の場合は自宅退院が困難(自宅退院率21.7%)などのルールが得られた。


 自宅退院率に関し、入院時のADLを用いた研究もある。
5)近藤克則:回復期リハビリテーション病棟.総合リハ 32:305-311、2004.

 入院時BIが85以上/0-10でオッズ比31.69、55-85/0-10で3.27、介護力がなし/0.5人/1人/1.5人以上で2.35などの結果を得た。


6)近藤克則:医療改革とリハビリテーション医学のエビデンス.リハ医学 43:651-657、2006.(考察で用いられている元データは、日本リハビリテーション医学会:リハビリテーション患者の治療効果と診療報酬の実態調査.リハ医学 41:133-136、2004.で収集されたもの。脳卒中以外の疾患を含む。)

 若年層、合併症数が少ない、入院時BIが高い、入院日数が短い、訓練量が多い、介護力が高い、MSWが関与しない場合に、自宅退院が多い。


 どの論文も、ADLで示される患者重症度と、家族人数で代表される介護力が、自宅退院率に深く関係していることを示唆している。