民法改正に伴う身元保証人等に関する契約書の書式変更

 民法改正に伴い、医療施設・介護施設などで契約書の書式変更が必要となった。日本病院会HP、厚生労働省通知文(厚労省通知文)医政局関係資料を見ると、2019年6月6日付で、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行に関する周知について という文書が載せられている。

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 同様の文書が、全国老人保健施設協会HP、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行に関する周知についてにも掲載されている。

 

 民法改正については、法務省のHPに詳しく掲載されている。

 

 保証に関しての概略は、パンフレット(保証)【PDF】を見ると、分かりやすい。より詳しい内容を知りたい場合には、重要な実質改正事項(1~5) 【PDF】の17〜26ページに保証に関する見直しの説明がある。

 根保証とは、将来発生する不特定の債務の保証のことを言う。根保証契約を結んで保証人となる際、特に連帯保証人の場合には、催告の抗弁(まず主債務者に請求することを主張すること)、検索の抗弁(主債務者に資力があることを理由に主債務者の財産に強制執行を主張をすること)ができず、重い責任が発生する。個人の保証人に生じるリスクを回避し、保護をすることが、今回の民法の重要な改正点となっている。

 

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 医療施設や介護施設における身元保証人等に関する契約書の書式変更に関しては、平成30年度老人保健健康増進等事業 当初募集採択事業内にある、47 介護施設等における身元保証人等に関する調査研究事業(みずほ情報総研 : 平成29年度老人保健健康増進等事業の事業報告書)が参考となる。具体的な内容は事業報告書(PDF:2,434KB)に記載されている。

 本調査は、超高齢社会を迎え、「単身高齢者」が急激に増加する中、身寄りのない高齢者に対する身元保証が問題となっていることをふまえ、高齢者の介護施設入所時に、施設側が入所者へ身元保証人等を求めている理由及びその実態を明らかにし、その上で、介護施設等が身元保証人等に求めている役割を分析・分類し、それぞれの役割の必要性並びにその役割に対応することが可能な既存の制度・サービスを整理することによって、今後の政策に資する示唆を得ることを目的としている。

 先行研究では、医療施設、介護施設とも9割以上が入院・入所(入居)時に身元保証人等を求めている。一方、身元保証人等の呼び方は、以下のグラフに示すように様々である。

 

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 本調査では、介護施設に対し4,900件のアンケートを行い、2,387件48.7%という高い回収率を得ている。

 まとめとして、次のような記載がある。

(1)介護施設等における身元引受人/身元保証人等の実態

<用語について>

・ 介護施設等では「身元引受人」という用語が最も多く使われている。しかしながら、各施設において共通化はされていない状況であり、定義が曖昧で、混乱を招く原因にもなっている。このような用語は今後に向け、適切な用語と法的な裏づけを持って、業界内で統一化されていくべきものと考えられる。

<身元引受人/身元保証人等の状況>

・ ほとんどの施設において、身元引受人/身元保証人等を契約時に求めている。身元引受人/身元保証人等を求めていない例としては、養護老人ホームの措置入所によるものが多かった。

・  身元引受人/身元保証人等の不在によって、入所を断る方針の施設は存在している一方で、多くの施設において条件付きで入所を受け入れている実態がある。

・ 身元引受人/身元保証人等が不在の場合、施設入所の条件として、多く挙げられているのは成年後見人制度の利用である。 

 

(2)身元引受人/身元保証人等に求める機能・役割についての整理

<求める機能・役割の分類>> ※ 次頁(図表 18・図表 19)を参照

・ 身元引受人/身元保証人等に求める機能・役割については入居者の生前と死後に大別される。

・ 死後に、介護施設側で実施することは概ねパターン化されており、身元保証人/身元引受人等に期待する役割の中で、整理が難しくトラブルの原因となり易いのは、生前中の対応に関係するものと考えられる。

・ さらに、生前中における身元引受人/身元保証人等に求める機能・役割は、本人の能力範囲(責任範囲)によって大きく 2 軸に分けられるものと考えられる。

・ このなかで、介護施設側が身元引受人/身元保証人等に求める機能・役割は、本人の能力範囲(責任範囲)を超えた場合における滞納リスクの回避(連帯保証)と、本人の能力が衰えた場合における、身上保護と財産管理(成年後見制度の活用によってカバーできる範囲)に分けられる。

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 本調査の、身元保証人等の問題についてわかりやすくまとめられている。特に、連帯保証とと身上保護と財産管理の2軸に分けた観点は秀逸である。

 医療施設・介護施設における契約書においても、上記2軸に分けて同意を求めた方が適切と思える。個人根保証に相当する役割をするのが身元保証人や連帯保証人であり、身上保護や財産管理をするのが後見人という形になる。なお、現在の成年後見人制度は財産管理までが役割であるが、医療・介護のケアチームと相談のうえ医療同意を行うところまで役割とすることが法改正でできるようになれば、医療施設や介護施設の精神的負荷は軽減される。

 いずれにせよ、民法改正は既に施行されている。自らの施設における契約書書式をあらためて見直すことが急務となっている。