高齢者の人口移動、東京都や大阪府で転出超過

 統計局ホームページ/平成26年/統計トピックスNo.84 統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)−「敬老の日」にちなんで−にある統計局ホームページ/平成26年/統計トピックスNo.84 統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)−「敬老の日」にちなんで−/2.高齢者の人口移動を見ると、東京都や大阪府で転出超過というデータが示されている。人口の大都市圏集中が進んでいるという印象があったので、意外に思い、関連資料を調べてみた。



 平成25年の高齢者の転出超過数を都道府県別にみると、東京都が4,937人と最も多く、次いで大阪府(806人)、福島県(393人)など27都道府県で転出超過となっています。

 都道府県間移動率(日本人の男女年齢階級別人口※に対する移動者数の比率)を65歳以上の5歳階級別にみると、85〜89歳が最も高くなっています。また、男女別にみると、男性は65〜69歳及び90歳以上、女性は80歳以上で高い傾向がみられます。


 統計局ホームページ/住民基本台帳人口移動報告 平成25年(2013年)結果をみると、人口移動の全体像が示されている。


 「東京圏は9万6524人の転入超過。前年に比べ2万9315人の増加。18年連続の転入超過」となっている。詳細集計をみると、東京都は5〜54歳で転入増だが、0〜4歳と55歳以上で転出増である。


 第7回人口移動調査|国立社会保障・人口問題研究所概要(PDF)の6〜8ページに、年齢階層別にみた移動理由が示されている。高齢者の移動理由は以下のように記載されている。

 65 歳以上の過去 5 年間における移動者の割合は、4-5%と低い。移動した高齢者についてどのような理由で移動したのかをみると、「住宅を主とする理由」が 46.2%で最も高いが、 「親や子との同居・近居」(18.2%)、「健康上の理由」(9.1%)で移動する者の割合が高いのが特徴である。

 なお、7ページの表 IV-2 男女別、年齢別、過去 5 年間における現住地への移動理由をみると、男女とも80歳を超えると、「親や子との同居・近居」、「健康上の理由」が急増している。


 ネットで検索してみると、1990 年代後半における高齢者の 都道府県間移動の特性/平井誠という論文が見つかった。http://www.hs.kanagawa-u.ac.jp/introdcution/annual.htmlの第1巻(2007年)に収載されている。2000年国勢調査の人口移動データを資料としており、示唆に富む知見が多数認められる。重要と思われる部分を抜粋した。

  • 高齢人口の空間分布は、居住者が加齢とともに高齢人口に加わること(aging-in-place)と、居住地移動による高齢者の流入(net-migration)という2つの要因に影響を受ける。居住地移動に関しては実態調査を積み重ねてその動向を把握する必要がある。
  • 高齢移動者の総数は約257万であり、1990年調査に比べ1.6倍に増加した。同じ期間に高齢人口全体の規模は1.4倍に増加しており、高齢移動者の増加傾向がより強かった。
  • 高齢人口の移動率は1990年の10.4%から11.7%に増加したが、非高齢人口に比べると低い水準にある。高齢者のなかでは移動率は年齢が高くなるほど上昇する。もっとも顕著なのは県内市区町村間移動であり、最低値を示す70〜74歳に比べ85歳以上の移動率は2.6倍に増加する。
  • 年齢階級に関わらず自区町村内の移動がもっとも多く移動発生数の約60%を占める。非高齢人口の移動では自区町村内の移動が占める割合が43%であるのに比べ、高齢期の移動において、より空間的範囲の狭い移動が卓越する。
  • 高齢人口における都道府県間移動は、移動数や移動率の面で小さな値にとどまっている。しかし、既存の人口移動に与える影響の大きさを示す指標である移動効果指数をみると、高齢期に移動に一定の方向性が存在しており、既存の人口分布に与える影響が青年期に次いで大きいことが明らかである。
  • 都道府県間移動の場合、65〜69歳の移動者の性比は98.1で、男女がほぼバランスのとれた状態である。年齢とともに性比は小さくなり、75歳以上の年齢層になると性比は50を下回る。
  • 移動後に施設に居住している者の割合は、年齢とともに増大している。特に自市区町村内および県内市区町村間の移動では80歳以降の移動者の半数が施設に居住している。
  • 一方、都道府県間移動の場合、移動者に占める施設居住者の割合は85歳以上の場合でも28.6%にとどまっており、県内移動に比べ移動後も一般世帯で生活する者が多い。世帯構成別に見ると、65〜69歳および70〜74歳では核家族世帯と単独世帯が約70%を占めている。一方、年齢層が高くなるとその他の親族世帯の割合がほぼ半数を占める。この世帯区分には子供世帯とその親を中心とする2世代、3世代家族が該当する。
  • 65歳以上移動者の就業率は、移動の空間的範囲にかかわらず、男性で約17%、女性で約5%であり、高齢人口全体の約半分の水準である。
  • 以上のことから、高齢者による都道府県間移動の多くは、一般世帯に居住する退職者による移動と言えよう。高齢前期では男性の移動も見られ、移動後の世帯は彼ら自身を中心とする核家族あるいは単独世帯が多い。高齢後期になると女性の移動が卓越し、移動後に子供夫婦と同居する場合が多い、という傾向が認められる。
  • 総移動率の高い県の中でも東京都と大阪府は、大幅な転出超過を示す。
  • 同一地方内部での発着地ペアは前期高齢者で全体の50%、後期高齢者で46%が該当する。
  • 大都市圏地域と非大都市圏地域の関係をみると、前期高齢者の場合、大都市圏地域から非大都市圏地域へ高齢者を送り出す移動が主要なパターンである。一方、後期高齢者の場合、大都市圏地域が非大都市圏地域からの移動者を受入れるパターンが形成されている。
  • 大都市圏から非大都市圏へ向かう移動パターンが明確になった。具体的には東京から東北地方へ向かう移動や大阪から四国地方や九州地方へ向かう移動であり、これは高度成長期に見られた集団就職の移動を反転させた移動パターンと捉えることができ、彼らの帰還移動を示していると考えられる。
  • 後期高齢者の移動は非大都市圏から大都市圏へ向かう移動であった。移動人口の大部分は女性であり、移動後はその他の親族世帯に該当する世帯に居住する場合が多い。子供との同居を目的としたいわゆる「呼び寄せ移動」が想定される。


 人口移動調査プロジェクトによる研究成果にある千年よしみ(2013)「近年における世代間居住関係の変化」『人口問題研究』69-4,pp.4-24.をみると、「呼び寄せ移動」に関係する次のような記述を確認できる。

 2011年(第7回)と2001年(第5回)の 2時点の人口移動調査を用いて分析した結果、この10年間に成人子が親と別居する傾向は強まり、別居親子間では近居の傾向が強くなっていた.きょうだい数の影響は、同別居、近遠居どちらについても人数が多くなるほど距離が離れる傾向は強くなるが、その効果の度合いは2011年で低下している.きょうだい構成の影響は、同居は長男が、近居は男きょうだいがいない女性が近くに住む可能性が最も高い.成人子の配偶状況の影響については,、未婚子が最も同居の可能性が高く、近居は有配偶、離死別で高い.支援ニーズからみると、同居は親のニーズが、近居は成人子のニーズが優先されている可能性が示唆された.


 住民基本台帳人口移動報告 年報(詳細集計) 年次 2013年 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口にある、9-3 年齢(5歳階級),男女別転入超過数−全国,都道府県,3大都市圏(東京圏,名古屋圏,大阪圏),21大都市(平成25年)をみると、東京特別区部は50歳以上で、大阪市は75歳以上転出超過になっている。上記平井誠論文とは矛盾するが、おそらく、東京も大阪も高齢者施設の不足や住宅費の高さがあり、呼び寄せたくても困難な状況があるからではないかと推測する。
 一方、札幌市、仙台市千葉市相模原市岡山市、福岡市、熊本市では、65歳以上の全年齢層で転入超過となっている。地方の中核的機能を持っている政令指定都市では、都市機能の充実と自然環境の豊かさが適切なバランスで保たれているため、東京や大阪からの前期高齢者移動にも、健康問題を抱えた後期高齢者の呼び寄せ移動にも対応できているから人気が高いのではないかと考える。
 今後、団塊の世代の高齢化に伴い、大都市圏で高齢者人口が増加する。高齢者人口移動の特性を考えると、東京近郊の埼玉・千葉・神奈川県や地方中核都市でより問題が深刻化する可能性があると考え、対策をとる必要がある。