自賠責、接骨院の請求が5年間で50%増
自賠責、接骨院の請求急増 ずさん審査で不正横行という記事が、朝日新聞の一面に載った。
車を持つすべての人が加入する自動車損害賠償責任(自賠責)保険に対し、接骨院からの保険金請求が急増していることが分かった。治療費の基準がなく、請求内容の審査もずさんなため、不正請求が横行。「生後半年の赤ちゃんが腰痛を訴えた」など、現実にはありえない診断がまかり通っている。国土交通省、金融庁など関係省庁は、改善策の検討に乗り出した。
調べてみると、記事の基礎となった資料が、第133回 自動車損害賠償責任保険審議会議事次第:金融庁の参考資料自賠責保険における医療費請求の現況(PDF:187KB)にあった。わずか3ページだが、医療機関と接骨院の自賠責請求の違いが鮮明に出ている興味深い資料である。
上図は施設別の支払い状況である。平成24年度において、柔道整復は自賠責の約20%を占めるに至っている。
医療機関と柔道整復に関しては、平成20年度から24年度総診療費データが2〜3ページにある。表にしてみると次のようになる。なお、指数は平成20年度を100.0とした値である。
年度 | 医療機関(指数) | 同件数(指数) | 柔道整復(指数) | 同件数(指数) |
---|---|---|---|---|
平成20年度 | 2,639億(100.0) | 113.7万件(100.0) | 453億(100.0) | 14.7万件(100.0) |
平成21年度 | 2,593億(98.3) | 112.6万件(99.1) | 478億(105.6) | 15.6万件(105.8) |
平成22年度 | 2,609億(98.9) | 114.6万件(100.8) | 534億(117.9) | 17.4万件(117.8) |
平成23年度 | 2,661億(100.8) | 116.4万件(102.4) | 613億(135.3) | 19.6万件(133.3) |
平成24年度 | 2,669億(101.1) | 116.3万件(102.3) | 673億(148.7) | 21.7万件(147.4) |
医療機関は、総診療費・件数ともほぼ横ばいである。一方、柔道整復は総施術費・件数ともわずか5年間で約50%増となっている。
平成24年度の一件平均請求額、診療期間別件数構成比は下記のとおりである。
# 医療機関
柔道整復の一件平均請求額は医療機関の1.35倍となっている。診療期間は、医療機関の半数が30日以内に終わるのに対し、柔道整復の平均施術期間が106.1日と長期になっていることが要因である。
平成25年1月9日に行なわれた第131回自動車損害賠償責任保険審議会議事録:金融庁を読むと、次の記述がある。
なお、この治療費につきましては、医科診療以外にも柔道整復関連の施術料の動向にも影響されるところでございます。
柔道整復関連施術料の23年度の状況といたしましては、1件あたりの平均施術料、期間、実日数といった指標はいずれも微増、もしくは横ばいにとどまっておりますが、柔道整復資格者や施術院の増加に伴う受診ネットワークの拡大によりまして、請求全体に占める構成比が請求件数で前年の7.6%から約8.4%に増加し、結果として請求金額も、現在18.0%と増加が見られております。
一方で本件に関する社会情勢についてでございますが、平成21年度の行政刷新会議や会計検査院の指摘を踏まえ、既に健康保険における療養費の見直し等が行われておりますが、さらに本年度、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会におきまして、柔道整復療養費検討専門委員会が設置され、第1回目が開催されるなど、検討が開始されております。
この委員会におきましては、健康保険における療養費の現状の確認や、平成24年度の健康保険における療養費改定について検討が行われており、引き続き、中・長期課題として療養費のあり方についても議論が行われる予定となっております。
したがいまして、今後、その影響も見られてくるものと思いますので、個別案件における療養内容の確認を引き続き徹底しつつ、委員会での検討内容等、全体の動向を注視してまいりたいと考えております。
上記資料では、自賠責の収支状況について、次のように述べている。
また、今回の検証の対象であります24年度、25年度でご覧いただきますと、収入純保険料は、24年度が7,064億円、25年度が6,952億円、また、支払保険金につきましては、24年度が8,507億円、25年度が8,365億円と見込んでおります。
以上の収入純保険料と支払保険金との差額が次の収支残の欄でございますが、24年度が1,443億円の赤字、25年度が1,413億円の赤字となっております。
交通事故死傷者数が減少しているにも関わらず、自賠責支払いは高止まりとなっており、結果として、自賠責は赤字となっている。このまま対策をとらなければ、自賠責保険料引き上げという形でドライバーに転嫁されることになる。
柔道整復に関しては、健康保険だけでなく、自賠責でも請求状況に疑問が出されている。平成26年1月29日に、日本医師会より公表された労災・自賠責委員会答申【プレスリリース資料】でもこの問題をとりあげている。柔道整復に対する規制強化だけでなく、施術利用者に対する注意喚起など様々な対策がとられることになると予想する。