高齢者雇用安定法改正と賃金体系の変化

 高年齢者雇用安定法の改正〜「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止〜|厚生労働省に伴い、賃金体系が大きく変わろうとしている。
 概要をみると、本法律改正は、次のような内容であることがわかる。

  • 公的年金(厚生年金)の支給開始年齢の引上げにより、現在の高年齢者雇用制度のままでは、平成25 年度には、60歳定年以降、継続雇用を希望したとしても、雇用が継続されず、また年金も支給されな いことにより無収入となる者が生じる可能性がある。
  • 定年の引き上げ、継続雇用制度の導入(労使協定により基準を定めた場合は、希望者全員を対象としない制度も可)、定年の定めの廃止の3つのいずれかの措置の実施がこれまで義務づけられていたが、このうち、「労使協定により基準を定めた場合は、希望者全員を対象としない制度も可」の部分を平成25年4月から廃止する。この結果、実質的に希望する者は65歳までの雇用が確保されることになる。
  • 継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みを設ける。
  • 高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する規定を設ける。


 高齢者雇用安定法改正を受けて、企業は次のような対策を迫られている。

 NTTグループは15日、定年に達した社員を65歳まで継続雇用する給与原資の確保に向け、現役世代の人件費上昇を抑える新賃金制度を2013年秋に導入することで、労働組合側と大筋合意したことを明らかにした。主に40〜50歳代の社員の平均賃金カーブの上昇を抑制するのが柱。

http://jp.wsj.com/article/JJ10793874609088613966018380328323904122978.html


 労働政策、労使関係、人事賃金 | Policy(提言・報告書) | 一般社団法人 日本経済団体連合会 / Keidanrenを見てみると、「2012年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」の概要という資料が見つかった。ここでは、高齢者雇用安定法改正に関し、次のような調査結果をまとめている。

  • 定期昇給制度があると回答した企業(全体の 76.9%)のうち、個々人が創出する付加価値と賃金水準との整合性を図るための対応として、「年功的な昇給割合を減らし、貢献や能力を評価する査定昇給の割合を増やす必要がある」とした企業は 58.0%。
  • 高齢法の改正にともない必要となる対応について、「高齢従業員の貢献度を定期的に評価し、処遇へ反映する」と回答した企業は 44.2%。


 現在の年功序列型賃金体系は、ピラミッド型の人口構造を想定したものである。給料の安い若年層が多い前提でバランスがとられていた。若いうちは低賃金で我慢するが、マイホーム取得や子育てにお金がかかる時期になると給料が上がるという仕組みのなかで将来設計を立てていた。しかし、少子高齢化の進行の中で定期昇給を原則とする賃金体系を続けることは、仕事内容が変わらないにも関わらず、毎年総賃金が上昇するという矛盾を抱えこむことになってしまった。定年も、以前は55歳が普通だったが、次第に延長し、来年度からは実質的に65歳となる。企業にとって、年功序列型賃金体系を続けることは困難となっている。
 このような状況のなかで、企業はワークライフバランスの名の下に賃金体系を大きく変えようとしている。今後は若年層と中高年層の差が少なくなり、能力主義や会社への貢献を重点的に評価していくものに漸次移行していく。既得権益に対する批判という形で公務員に対しても同じような変化を求める圧力が強くなる。賃金体系の変化が進むと、教育費がかかる世代にとっては大きな痛手となる。学費等への公的支援拡充なしでは少子高齢化を進行させることになる。
 一方、高齢者の雇用確保という仕組みは若年層の仕事を奪うことになるという指摘がある。世代間の軋轢が強まることが危惧される。少子高齢化の進行は社会の仕組みを変えていく大きな圧力となっている。