東日本大震災で心血管疾患の救急搬送が増加

 東北大学病院 - 循環器内科のグループが、European Heart Journalに、Great East Japan Earthquake Disaster and cardiovascular diseases | European Heart Journal | Oxford Academicという論文を発表した。

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 本研究に関する新聞報道については、東北大学病院循環器内科のホームページ内にある記事はこちらからご覧いただけます。の中にある。本日、週刊ポストに『東北大の調査で判明− 「地震が怖くて仕方ない」というあなたのリスク度とは 急増!「地震脳卒中」の恐怖』という記事も掲載された。


 論文の流れは次のようになっている。

  • 先行研究で、大地震のあとに心血管疾患(急性冠症候群、脳卒中、肺塞栓、たこつぼ心筋症、急性心臓死、不安定心室性頻脈)が短期間増加することは知られていた。
  • 東日本大震災における心血管疾患と肺炎の現状を、宮城県における救急車搬送時記録をもとに調査した。対象としたのは、2008〜2011年各年の2月11日から6月30日までの記録である。到着時になされた医師の診断記録(12万4152件)を分析した。救急室で確定診断がつかなかったものは除外した。
  • 救急搬送件数は、震災後2日目の2011年3月12日に急増し、以後、減少した。確定診断率は、2008〜2010年で56.2〜56.7%、2011年で55.5%だった。
  • 心不全(HF)、急性冠症候群(ACS)、脳卒中、心肺停止(CPA)、肺炎いずれも地震後に増加した(Figure 2)。脳卒中では、脳梗塞は増えたが脳出血は増加していなかった。心不全と肺炎は、6週間後まで徐々に減少しながらも増加が続いていた。一方、脳卒中と心肺停止に関しては、4月7日にあったmagnitude 7.0の余震時に2番目のピークを認めた。
  • サブグループ解析では、年齢、性、居住地域(沿岸部、内陸部)で心血管疾患発症の差はなかった。一方、肺炎は、沿岸部において発症が増えたが、年齢、性の影響はなかった。
  • 宮城県では、震災後、多くの人が避難所で過ごし、生活必需物質、水道・電気、医薬品の不足を余儀なくされた。さらに、頻回の余震(震度1以上1025回、3月11日〜4月7日)、低温(仙台市の平均気温3.8℃、3月11日)が状況を悪化させた。このような状況のなか、人びとは極度の身体的精神的ストレスを生じ、交感神経系が亢進したことによる心血管疾患を起こしたおそれがある。


 東日本大震災における心血管疾患に関する大規模研究であり、示唆に富む知見が得られている。関連エントリーでも紹介した、Lancet のreview、http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60887-8/abstractや、本論文に言及したEuropean Heart Journalの解説、Earthquakes: another cause of heart failure? | European Heart Journal | Oxford Academicも参考になる。なかでも面白いのは、Cardiovascular Events during World Cup Soccerである。ドイツで行われたサッカーワールドカップにおいて、ドイツチームの試合において緊急性を要する心疾患が2.66倍になったという結果が出ている。


 本論文は、その規模においても、研究デザインにおいても、第一級の資料である。災害対策が進んでいる日本においても、大災害後に心血管疾患が増加するということは、あまり知られていない。被災3県における主な死因の推移(2012年6月24日)をみても、2010年と比し2011年において被災3県で心疾患、脳卒中による死者が増加している。脳卒中と心肺停止が大規模な余震時に増加しているという興味深い研究結果も出されている。大災害とストレスというテーマは、単にうつ病PTSDといった精神疾患だけの問題ではないことが明確に示されている。心血管疾患対策は災害医療の重要なテーマであるという認識を広める必要がある。