被災地医療の再建に向けた中医協議論

 中医協で診療報酬に関する改定作業が始まっている。2011年8月24日 第195回中央社会保険医療協議会総会議事録をみると、被災地訪問・意見交換会の報告を受けた議論が行われている。資料(総−1)(PDF:910KB)にある、今後の対応(案)(別紙5)に次のような記述がある。

  • 算定要件の緩和については、中医協における議論、関係者との調整を踏まえ、可能なものについて速やかに実施してはどうか。
  • 被災地における特例加算については、補助金や補償との役割分担を踏まえて、財源も含めて改定時までに検討することとしてはどうか。


 具体的には、次のような議論がされている。

○鈴木委員
 約5か月経った被災地を視察させていただいて感じましたことは、岩手、宮城に関しましては、戦後の焼け野原にバラックが建ったような状況というのが率直な感想でございます。
 そして、福島に至っては、南相馬市立病院の副院長先生もおっしゃったように、まさに戦時中そのもので、子どもたちと高齢者を避難させて、働ける人たちが残って地域社会を守っていると、まさに戦争中だとおっしゃっていましたが、放射能という空襲が絶えず続いているまさに戦時中の状況だということを改めて確認いたしました。

○白川委員
 少しコメントを加えさせていただきますと、算定要件の緩和につきましては、既に3月11日の大震災の後、直ちに厚労省の方で緊急の行政措置を取っていただいておりまして、被災地でも非常に歓迎されていると伺っております。今回は、それで漏れているきめ細かな算定要件の緩和、見直しが必要な部分について御提案があるのだろうと思っておりますので、基本的には、現行の緩和措置に若干プラスするという形でよろしいのではないかと考えております。
 ただ、被災地というのをどのように定義するのかという話と、期間について一定のめどを付けておく必要があるのかなと考えます。その後の加算問題とも絡みますけれども、私個人としては、来年の改定時までというのを1つの目安にしたらどうかと考えております。それ以降は全部廃止というつもりはありませんけれども、その時点でもう一度チェックをするということが必要ではないかと考えております。
 それから、特例加算につきましては、今、安達委員がおっしゃった意見と私も同意見でございまして、診療報酬で加算ということになりますと、おっしゃるとおり患者さん自身が負担するか、保険者が負担するかということにならざるを得ませんので、特に被害を受けた地域の国保や海員組合辺りはかなりの財政的影響を受けるということもありますので、これは本来、国の補助金で医療施設、医療体系の再建をやるというのが筋だというふうに考えております。
 とはいうものの、何らか算定要件も含めて特例加算みたいなことをこれから議論するということは否定するつもりもございませんので、今後、診療報酬改定に向けて議論をしていくべきと考えております。

○伊藤委員
 また、皆さん方おっしゃられましたように、被災地においては、大きな人口動向の変化がこれから相当あるのではないかということが予想されます。今、これを特例加算という形で簡単にしてしまうのではなくて、先ほど西澤先生がおっしゃられましたように、こうした地域医療を守っていくためにも、是非これは地域医療を復興の中の大きな柱として見据えていただきまして、計画の中に入れていただく。そうした中で本格的に支援をしていく。できれば、これは、現在の段階では補助金、補償というもので当てていくというのが、今の考えられる中のベストではないかなと私自身も思って帰ってまいりました。
 それぞれが予想できない中で、今、医療中の皆さん方も、医療だけではなくて、介護の方まで相当被害が及んでいると思っております。私どもは、今回、介護施設の視察はしてまいりませんでしたけれども、その受け皿になっていくもの、それから次に行くもの、ずっとシームレスということを私ども言い続けてまいりましたが、なかなかそこまで到達していないのが現状ではないかなと思っております。
 できるものはすぐやる、西澤先生がおっしゃられたように、せめてお金だけでも、今のある程度維持をしていくために必要なものについて財源は、是非速やかに出していただく、そうしたことが必要ではないかなというふうに思っております。
 まだまだこれから続くわけでありますけれども、ずっと注視をしていかなければならない問題だという具合に思っております。

○嘉山委員
 そうしますと、やはり白川先生がおっしゃったように、国保、組合がかなり傷んでいるという情報をつかんでおりますので、やはり診療報酬加算ではちょっと間に合わないし、それから、実際に診療報酬を加算してしまうと、3割負担なので患者さんに負担が行きますので、ですから、やはり今は財政的な補助金を病院等々にどんと出す、それも早急に出さないといけないと。
 ちょっと具体的なことを大塚先生がいらっしゃったので、ちょっとお話ししますと、今、医療人がやっとオールジャパンに1つになりまして、災害対策本部の、前は松本龍大臣からの依頼で、我々が被災地医療支援協議会というのをつくりました。これは、すべての医療界が、日本医師会も大学も、それから全日病と日本看護協議会、栄養士会等々、ほとんどすべての医療関係者が入った医療支援の協議会ができたわけですけれども、そこで9月1日からまず医師の派遣をします。


(中略)


 あと、めどなんですが、医師の派遣は、もともと日本全国で医師が足りないわけですから、それをどこまで医師にしても、看護師にしても派遣をするのかというのは、一応現地の3大学と医師会は医療計画をもう作っていますから、そこを我々は介入してインタベーションしてつぶしてしまっても何にもならないので、向こうからのデマンドを待って、上からの目線ではなくて、向こう側の要求を待って、我々は今、出すようにしているんですけれども、一応、白川先生、めどは3月までにしています。1回3月までで、全国でも医者が余っているわけではないですから、3月までをめどで、そのときにまた実際に実態調査をして足りなければ送ると。
 大学は幾ら人がいるといっても、2週間以上はなかなか難しいのです。空けてしまうと、外来も大学でかなり力を持っている連中が行きますから、何とか工夫して、あとは全日病と、西澤先生のところから日本病院協会あるいは日本看護協会等々を組み合わせて、今、出そうとしているんですけれども、一応、3月をめどにして、その後、また考え直すというめどに今、しているところです。

○中島委員
 私も2日間同行させていただきまして、現場の医療者の方々の献身的な努力に改めて大変感服をいたしました。
 地域を見させていただいて、人材が本当に足りていない地域の医療のインフラが壊れていて、特に、ネットワークが壊れているというところがありますので、これが非常に大きな問題だと感じました。先ほど伊藤委員がおっしゃいましたように、地域の人口動態なり患者動態、まちづくりの見通しなどと合わせ、やはりまずはインフラの再建をちゃんとしないといけないのではないと。その上で、やはり人材が被災地域にとどまっていただけるような何かインセンティブを付けないといけないのではないかと。
 それらについては、率直に申し上げまして、やはり診療報酬でできることとできないことがあると思います。インフラなどの再建については、公費を入れていただいて、きちんとまちづくり込みで支援をしていかないと、診療報酬だけではとてもできることではないなと思います。
 もう一つ、地域保険への配慮が必要ではないかと思います。地域保険に負荷がかかっているので、そこは少し丁寧に配慮していく必要があります。特例加算でということでは簡単には解決しないと思っています。

○大塚副大臣
 まず、第一に、鈴木委員や白川委員からは、例えば鈴木委員は、診療報酬改定は平時のシステムだという御発言がありました。また、白川委員からは、要件緩和の問題も、とりあえずは、来年の改定までかなというお話がございましたけれども、被災地の対応は半年程度で終わるとはとても思えません。少なくとも2年ごとの診療報酬の改定の次のサイクルの期間は、まだ被災地は復興対応期でございます。
 そういうふうに考えますと、平時のシステムであっても、今が戦時だという御認識であれば、戦時の改定作業をやっていただきたいというふうに思っております。次の2年間が被災地にとってどういう時期であるかということを御理解あるいは十分御議論をいただいて、例えば特例加算等について行うべきか、行わざるべきか、ということを是非御議論いただきたいと思います。これが1点目でございます。
 2点目は、安達委員あるいは白川委員、また嘉山委員からも御発言がありましたが、確かに今、申し上げました1点目の特例加算をいたしますと、これは、患者さんに御負担がかかるシステムになっております。しかし、戦時の発想である、非常時の発想であるというふうに考えますと、そこはいろんな工夫をしなくてはならないわけでありますので、例えば特例加算をした上で、患者さんの自己負担分については、別途保険者機能を担っている皆さんに、その分を公費で補填をするという仕組みを考えるということもあり得ると思。
 例えば、なぜそういう特例加算をしなければならないかといえば、これは災害が起きたからでございまして、例えば災害救助法の中には、災害時の医療費負担を災害救助法に基づく財源の中で負担できるようになっております。また、あるいは今回は先ほど放射能が降っているという話がございましたが、そのことが原因であるとすれば、原子力事故の賠償の枠組みの中で財源が出るわけでございますので、診療報酬改定としては、非常時に対応して特例加算をしつつ、患者さんの負担を増やさないために、その部分は別途の形で補填をするというやり方もあるわけでありますので、是非、特例加算をすると、患者さんの負担が増えるからという、そのロジックだけでこの議論にふたをしないでいただきたいと思います。
 勿論、そのときには、嘉山先生がきちんと整理をしておられましたけれども、中医協の担っておられるミッションでできることには限りがございますので、その中医協のミッションでできない部分については、当然政府側も一緒に努力をするということになりますので、いずれにしても議論にふたをしないでいただきたいというふうに思っております。
 それから、今の話の更に3点目、延長線上の議論になりますが、嘉山委員から相馬国立病院が医師の派遣、用意できているのに、財源的な問題で断ってきたということであるとすれば、恐らく地域加算という話をすると、これは平時においてはいろんな難しい論点があろうかと思いますけれども、しかし、地域加算ということをしなければ、せっかくのお医者さんたちの需要と供給のミスマッチ部分をこの非常時に調整しようというふうに医療界が御努力をいただいている、その御努力が実らないことになりますので、平時においては受け入れられない議論であっても、次の2年間においては受け入れられる余地があるとすれば、それは十分に御議論をいただきたいと思っております。
 そのことは、中島委員のおっしゃった地域医療への配慮ということにも関係をしてくるわけでございます。いずれにしても、まだまだ、今、委員の皆様方から御発言いただいた内容で、大変私自身も気づかされた部分が多々ございますけれども、とりあえずは、以上申し上げたような点も含めて更に御議論いただき、また、厚生労働省としては厚生労働省の判断を最終的にするかもしれませんが、そのときには御理解を賜れば幸いでございます。よろしくお願い申し上げます。


 当面の補填としての算定要件の緩和をしながら、次の診療報酬改定で特例加算を設けることを検討するという流れである。ただし、人口流出に伴う患者減を考えると、診療報酬改定だけでは不十分であり、即効性のある補助金と組み合わせることが必要となっている。患者や保険者の負担増についても配慮が必要であるし、マンパワー確保も問題となっている。介護保険においても同様の対応が必要であることも論議されている。
 被災地の現状は、平時ではなく戦時であるということが前提条件として共通認識になっている。大塚副大臣のまとめにもあるが、災害救助法や原子力事故の賠償などを用いて、徹底的な取組みをすることが求められている。今後、中医協だけでなく、関係する諸会議での真摯な議論が行われることを期待したい。