震災直後に行った下肢静脈エコー

 長い避難所暮らしや車中泊で肺塞栓の危険性が増すことに対し、注意が喚起されている。

 榛沢助教が19、20の両日、宮城県登米石巻両市、南三陸町の避難所を1か所ずつ訪問。足のむくみやけががある、車中泊を続けている――など、血栓ができやすい人に対し、超音波機器で足の状態を調べた。その結果、39人(平均69歳)のうち11人の足の静脈に血栓ができていた。


 足の静脈血栓は、避難生活で長時間窮屈な姿勢を強いられ、血流が悪くなることでできやすい。2004年の新潟県中越地震では、避難所生活や車中泊をしていた10万〜30万人のうち、少なくとも11人が肺塞栓症を発症し、4人が死亡したことが、榛沢助教らの調査で分かっている。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110322-OYT1T00702.htm


 最近の地震災害における深部静脈血栓症・肺塞栓症(DVT・PE)の現状で、榛沢和彦氏は次のように述べている。

地震直後の被災者は逃げることで精一杯で下肢打撲などの外傷が多く(血管損傷の原因),また避難所に到着すると安心できるが食料・飲料水,トイレなどに困る(脱水の原因).さらに避難所では窮屈な雑魚寝状態で隣り合った被災者とぶつからないように,トイレに行く人に踏まれないように縮こまって寝るしかなく,眠れない日々が続いて疲労が蓄積し将来の生活不安も重なって動こうという気持ちもなくなる(血液停滞).このように避難所では下肢の外傷,脱水,就眠環境,ストレスなどによりDVTの危険性が高い.新潟県中越地震車中泊による肺塞栓症はマスコミで取り上げられ震災後の車中泊避難の危険性は認知されているが,避難所生活におけるDVTの危険性は十分に認知されていない.新潟県中越地震後に発生した能登半島地震中越沖地震岩手・宮城内陸地震では車中泊避難者は少なく,震災後のPEによる死亡は無かったが,震災 1 週間後のDVT頻度は能登半島地震6.3%,新潟県中越沖地震6.9%,岩手・宮城内陸地震7.1%であり,これらは新潟県と調査した新潟県中越地震対照地のDVT頻度1.8%よりも有意に高い.したがって現在の避難所環境では震災後に約 6〜7%のDVT発生の危険があることになる.


 当院では、脳卒中や大腿骨頚部骨折におけるリスク管理として、ほぼ全例に下肢静脈エコーを行っている。喘息と診断されていた患者が実は肺塞栓だったことが分かり、急遽、循環器科に転院して下大静脈ステント留置術を行っていただいたこともある。
 今回の震災直後、度重なる余震の中で入院患者は狭いところで不動を余儀なくされた。エレベーターも止まったため、療法士も食事運びなどに駆り出され、リハビリテーションを行わない状態となっていた。震災3日目になって、リハビリテーションを再開することになった時、下肢浮腫が増強したことに気づいた療法士より深部静脈血栓症の検査をして欲しいとの依頼があった。そこで、当院の検査技師たちが30〜40人ほどの患者をまとめて下肢静脈エコーを行った。


 幸いなことに、遠位型の深部静脈血栓症は数例あったが、近位型の重度血栓症はなかった。療法士たちも安心してその日からリハビリテーションを再開することができた。その後、訓練量こそ減ったものの、土日祝日も休まず、リハビリテーションサービスを提供した。病棟では、震災翌日から立ち上がり訓練やリクリエーションを行っていた。これらの効果もあり、ほとんどの患者が震災関連の合併症を悪化させることなく、順調に退院に向けた取組みが進んでいる。
 リハビリテーションを売り物にしている病院として、職員の意識の高さを少しは自慢しても良いのではないかと思っている。