DPC病院データからみた急性期リハビリテーションの現状

 つい最近出た急性期リハビリテーションの論文、An exploration of the association between very early rehabilitation and outcome for the patients with acute ischaemic stroke in Japan: a nationwide retrospective cohort survey | BMC Health Services Research | Full Textを読んだ。産業医大松田晋哉教授たちの仕事である。Very early initiation of rehabilitation(VEI)と退院時転帰に関して、日本の現状を論じている。概要は概ね次のとおりである。

  • VEIを脳梗塞入院後3日以内にリハビリテーションを開始したものと定義する。
  • データを、a case-mix classification system for acute care and a related reimbursement schedule in Japanから取り出した(なお、詳しく記載されていないが、松田晋哉教授が関与していることも考えると、内容からみて本データはDPC病院のものと思われる)。同時に行われたリハビリテーションサービスのデータと照合した。2007年7月から12月までに退院した患者データを用い、294病院5,482名を対象とした。
  • 入院中死亡と退院時modified Rankin scale(mRS)を転帰の指標とした。mRS 0-1を転帰良好とした。
  • 金曜日入院では3日以内にリハビリテーションが始まる機会に乏しいと考え、操作的に変数として定義した。
  • VEIを受けていた群では、1日あたり1.71単位のリハビリテーションを受けており、金曜日入院が少なかった。
  • 年齢、入院前のmRS、functional severity score、functional capability scoreとともに、VEIは有意差をもって機能転帰に関係していた。Bivariate probit modelを用いた解析では、能力低下を15.3%減じていることが示された。一方、金曜日入院は、7.6%転帰不良を増加させた。また、訓練密度が高くなると転帰不良が増えた。
  • VEIと入院中死亡は無関係だった。


 次のような考察がされている。
 入院後3日以内にリハビリテーションを開始した群では、mRS良好群が増えることが示された。さらに、金曜日入院は、選択バイアスおよび別の交絡因子として治療に関係していることが示された。発症直後にリハビリテーションを行うことが、脳の可塑性に良い影響をもたらしている可能性を示唆している。また、早期リハビリテーション廃用症候群を予防しているとも述べている。
 VEIで実施されたリハビリテーションの量が、週末・休日を含め1.7単位に過ぎないことを考えると、脳の可塑性に言及することは言い過ぎである。昨日紹介したThe Effect of Weekends and Holidays on Stroke Outcome in Acute Stroke Units - Abstract - Cerebrovascular Diseases 2005, Vol. 20, No. 5 - Karger Publishersとほぼ同様に、不必要な安静臥床による廃用症候群予防が早期リハビリテーションの効果と推測する。なお、mRS0-1を予後良好群として定義しているため、より重症な脳卒中で早期からのリハビリテーションが有効であったかどうか、本研究の結果をもとに判断することはできない。
 なお、訓練強度が増えると転帰不良群が増えることに関しては、先行研究と異なる結果となっている。このことに関しては、CiNii 論文 -  リハビリテーション患者の治療効果と診療報酬の実態調査において、自然回復が期待できる群では訓練量が少ない者が含まれていると指摘している、と紹介している。
 残念ながら、functional severity score、functional capability scoreについては、詳細な説明はされていない。また、入院日数の情報もない。多数データをもとにして検討された研究だが、リハビリテーション医の眼から見ると、もどかしい思いがする。
 診療報酬請求に関する様々な臨床指標が、DPC病院から自動的に収集される。このデータを基に、厚労省は診療報酬改訂を進めていく。今回の研究成果を踏まえるならば、脳梗塞急性期では、リハビリテーション医療を包括にするよりは、出来高払いのまま残した方が良いという判断になる。また、2年後の診療報酬改定では、急性期脳梗塞治療において、365日リハビリテーションが評価される可能性がある。