自費診療の場合には、大量の未収金が発生する

 自殺未遂には健康保険が適用されない(2010年4月23日)に対し、多数のブックマークとコメントをいただいた。その中で、ごく一部ではあるが、舞台となった医療機関に対する批判があった。
 保険者(健康保険組合)が診療費支払いを拒否した事例では、医療費は全額患者の自己負担となるが、医療機関の収入は全く増えない。そればかりか、自費診療の場合には、大量の未収金が発生しかねない。http://www.gikai.metro.tokyo.jp/netreport/2007/no_13/05.htmに次のような記載がある。

 ▼山口委員
 今いただいた答弁により、依然として九億円を超える金額が個人未収金となっていること、また、さまざまな理由で未収金が発生していることがわかりました。ところで、病院の中にはさまざまな診療科があります。通常の診療科であれば、大抵の場合、予約をとり、受診をするのが基本的なルールでありますが、救急部門では事故や病状の急変など不測の事態で病院を受診するため、保険証や現金の用意ができないなどの理由で未収金になりやすいのではないかと考えます。
 そこで、個人未収金に占める救急部門の割合はどのくらいなのか、また、ほかに救急部門について特徴的なことがあればお答えをいただきたいと思います。


 ▼病院経営本部長
 都立病院のうち、東京ERを有する広尾、墨東、府中、この三病院につきまして詳細に調査をいたしました十七年度分を見てみますと、診療収入に占める救急部門の割合は約七%にすぎませんが、未収金では救急部門が全体の約三〇%を占めておりまして、未収金の発生割合が極めて高くなっております。
 また、救急部門の未収金は、約五〇%が自費診療、自費受診をされた方でございまして、そのうちの約九〇%は保険証の確認ができない方、または無保険の方となっております。


 「自殺未遂の場合健康保険を適用しない」というルールでは、自費診療となる。医療機関側は治療に専念したいのだが、医療費全額請求という気の進まない仕事を引き受けなければならない。高額な負担を家族が強いられる場合には、回収は事実上不可能となり、医療機関は経済的ダメージを受ける。東京都の調査のように、生命に直結する救急部門ほど、不合理さは顕著となる。
 医療保険制度には、保険者、被保険者、そして、医療機関という当事者がいる。現行健康保険制度における保険給付の制限は、保険者(支払い側)にだけ都合の良いルールであり、医療機関も語られざる犠牲者である。