病院勤務医と開業医の「給与」を作為的に操作

 厚労省は、「勤務医の給料」と「開業医の収支差額」について|厚生労働省にて、行政刷新会議に出された下記資料に対し、ささやかながら反抗を試みている。

このグラフに対する見解


○ 月123万円、月211万円、月205万円という数値自体は、中央社会保険医療協議会が実施した調査の結果(917病院、1047診療所が回答)であるが、病院勤務医の数値が「給与」である一方、開業医(個人)の数値は「給与ではなく収支差額」である。


○ 開業医(個人)の収支差額で賄っている費用としては、院長の報酬相当額のほかに、例えば、

  • 診療所を建築するために借り入れた借金(元本)の返済
  • 診療所の老朽化に備えた建て替えや修繕のための準備金
  • 病気やけがにより休業した場合の所得補償のための費用(休業した場合に収入は激減)
  • 老後のための退職金相当の積立て(サラリーマンのような退職金はない)

いったものが含まれるものであり、勤務医の「給与」とは内容や性質が異なるものである。


○ また、全国の病院勤務医11万8157人、開業医7万1192人の平均年齢は、病院勤務医が43.4歳(※1)、開業医が59.4歳(※2)となっている。


(出典:「医師・歯科医師・薬剤師調査」(平成18年12月31日現在))
※1 大学附属病院以外の病院における、開設者を除く勤務者の平均年齢である。
※2 診療所の開設者の平均年齢である。


 元となった調査は、厚生労働省:第17回医療経済実態調査の報告(平成21年6月実施)である。機能別集計等の64/94ページに、一般病院職員の平均給与が記載されている。賞与も含み月平均で、病院長219万円、医師123万円となる。なお、本数値は時間外勤務手当等も含めたものである。医師123万円という数値が、グラフの値と一致する。
 開業医(法人等)の給与は、同資料の67/94ページにある。院長211万円、医師115万円となっている。この院長211万円の方がグラフに記されている。
 開業医(個人)では、医師107万円と記載されているが、院長欄は空白である。この部分を埋めるために使用された数字が、同資料30/94ページ、一般診療所(個人)・全体 IV 損益差額 204.8万円である。


 さらに、厚生労働省:第151回中央社会保険医療協議会総会資料に提出された、医療経済実態調査に係る意見について資料(総−1)を見ると、一般診療所の給与の中央値は平均値と比し、低い方に偏位している。例えば、一般診療所(医療法人)の病院長・院長の給与は平均211万円、中央値180万円となる。高収入である一部の開業医が平均値を引き上げていることが示唆される。


 行政刷新会議に提出された資料が如何に作為的であるかがわかる。「開業医は儲けている」という実態を恣意的に描き出そうとしている。開業医の収入を削り勤務医に回せば良いという世論作りを意図している。
 総医療費抑制政策が医療崩壊の主因であり、医療費総枠を増やさない限り、問題は解決しない。勤務医と開業医分断政策に乗るほど医師は愚かではない。統計を使った見え透いたうそを見破る能力は基礎素養として持っている。
 医療費抑制政策一本やりだった厚労省が、控えめながら行政刷新会議に反論したことを評価する。厚労省の変化の兆しと考えたい。