物理的バリアの克服、移動・排泄・入浴への対応が鍵

 要介護者が安全で活動的な生活をおくることができるように、リハビリテーション科では家屋調査をよく行う。自宅の物理的バリアの克服において鍵を握るのは、移動、排泄、そして入浴への対応である。


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 水平方向の移動(歩行、車椅子)への対応は比較的容易である。段差解消、てすり設置などを行う。一方、玄関出入り、階段昇降などの垂直方向への移動の場合、特別な工夫が必要となることが多い。丘陵地に作られた家では、玄関に入るまでに十数段の階段がある。玄関の上がり框(あがりかまち)も問題となる。歩行が不可能な場合、スロープ設置、段差解消器、階段昇降器などを使用する。ホームエレベーターを設置する場合もある。
 尿意・便意のコントロール、排泄動作を評価したうえで、どこで排泄を行うかを決定する。たとえ介助であっても、可能な限り自宅のトイレで排泄を行うことを目指す。てすり設置やウォシュレットの利用、便座補高などを行う。必要に応じて、ポータブルトイレや尿器の利用を進める。
 入浴は家族にとって最も介助量が多い。自宅浴室での入浴、通所施設での入浴、そして、訪問入浴という選択肢がある。自宅で行う場合でも、ヘルパーや訪問看護師に依頼する方が家族の介護負担軽減になる。脱衣所と洗い場の段差、浴槽出入りなどに着目する。てすり設置、バスボードやシャワーチェア、滑り止めマット、浴槽内椅子などの利用について検討する。
 家屋調査においては、要介護者本人の能力、介護者の状況、住宅環境、そして、利用できる社会資源などを総合的に判断し、個別状況に応じた工夫をする。機械力もよく使う。一時的にお金がかかっても、介護にかかる人件費を削減できる。介護者の健康状態を守ることにも通じる。


 学校などの公共施設の場合、個人の住居と異なり、特別な工夫なしに誰でも利用できるユニバーサルデザインの思想にそったものの方が後々便利である。しかし、短期的な対応が求められることがある場合には、個別状況にあわせた方が安上がりとなる。リハビリテーション専門職が通常行っている家屋調査のノウハウが利用できる。


 障害児の中学就学問題で揺れる下市町立下市中学校の物理的バリアに関する情報を集めてみた。http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200907030063.htmlをみると、次のような状況になっている。

 午前8時10分、校舎近くで母親の美保さん(45)が運転する車から降り、車いすでスロープを使って校内に入る様子を、在校生が校舎の窓から身を乗り出し見守った。

 受け入れにあたり、町教委と県教委は、これまで下市中になかった肢体不自由児の特別支援学級を1階に設置。入学を拒否されていた間、自宅で明花さんに勉強を教えていた県立養護学校の女性講師(23)をそのまま配置した。


 下市中によると、明花さんは交流学習時やホームルームでは普通学級の1年A組に参加する。ただ、他生徒と履修状況に差があるとみられるため、1学期中は支援学級での個別学習が中心。明花さんが階段を上り下りする際に必要な介助員2人が集まっておらず、4階の普通学級へ移動する場合は、職員が背負うという。


 http://osaka.yomiuri.co.jp/edu_news/20090703kk06.htmには次のような記載がある。

 同校では、明花さんが科目によって学ぶ特別支援教室を、障害者用のトイレに最も近い教室にした。県教委も、自宅に派遣していた講師を、県立養護学校から下市中に異動させ、副担任としてサポートさせる。


 車いす少女入学拒否について(元町民として)の情報もあわせると、概ね次のような状況であると推測する。

  • 自家用車で校舎の近くまで来ることができる。
  • 肢体不自由児の特別支援学級を1階に設置された。この教室にはスロープを使って、1人介助で出入りができる。近くに障害者用のトイレがある。県立養護学校の女性講師がこれまでと同じように配置されている。
  • 教室は2〜4階にある。1年生の教室はどうやら4階にある。介助員2人は集まっていない。4階までは職員が背負わなければならない。


 以上をまとめると、校舎前までと1階特別支援学級へのアクセス、及び、排泄場所の確保は既に済んでいる。となると、残っている最大の問題は、教室までの垂直方向への移動手段となる。様々な手段はあるが、エレベーター設置が根本的な解決手段ではないかと考える。
 エレベーターは別の目的でも使用できるという利点がある。奈良県調理場別学校給食・米飯給食推進状況をみると、下市中学校は自校方式の学校給食をとっている。しかも、車いす少女入学拒否について(元町民として)に、「通常の学校にあるような間に踊り場がある階段その2。ただし給食室に一番近く、給食運搬の要。」という記載があることを考えると、給食は階段を使って運搬しており、かなりの重労働となっている。


(2009年7月7日午後9時追記)
 コメント欄に貴重な情報が寄せられました。ぜひともご覧下さい。学校などの建築物にエレベーターを設置する場合、どの程度の費用がかかるか調べることができませんでした。ご存知の方がいれば、ぜひとも情報をお寄せください。
 前回記載した内容のうち、不適切と思われる部分を字消し線で取り消させていただいたうえで、新たな結論を青字で付け加えました。誠に申し訳ございません。


 ホームエレベーターは、急速な普及に伴い、安価なものになってきている。http://www.ads-network.co.jp/ziten/k-0301.htmhttp://allabout.co.jp/house/housefacility/closeup/CU20010623/index.htmをみると、価格は200万円台、メインテナンス料も年間数万円程度である。これに月々の電気代500〜700円程度が加わる。介助員2人の人件費を節約できることを考慮すると、お手頃である。なお、ホームエレベーターは3階までの規格しかないようだ。障害児の利用する教室を3階までとするといった運用の工夫も求められる。
 廊下などの段差解消にはさほど費用がかからない。当面の改修費用は多く見積もっても400万円以下に抑えられる。こうしてみると、訴訟に費やした80万円が実にもったいなく思えてくる。バリアフリー化に関する補助金も期待できる。町の財政がいくら厳しいとしても、十分検討に値するのではないだろうか。


 エレベータ設置価格が適切なものであれば、設置を検討しても良いのではないだろうか。