クルマ高齢社会に関するシンポジウム

 毎日新聞が、クルマ高齢社会という題で、記事を連載していた。昨日、高齢ドライバーに対する認知機能検査(2009年1月28日)というエントリーを記載した。関連する記事をご紹介する。

◇衝突事故4倍にも


 年々増加する高齢ドライバーの事故をどう防いだらいいのか。8月6日に東京都内で開かれた自動車技術会の夏季大会で、「ドライバーを中心に据えたクルマ技術〜超高齢社会における自動車技術」と題したシンポジウムが行われた。専門家ら6人が基調講演やパネルディスカッションを行い、現状と課題を話し合った。【板垣博之】


 高齢ドライバーによる事故で、認知症は深刻な問題だ。池田学・熊本大大学院教授(神経精神医学)によると、欧米の研究データでは、認知症の高齢ドライバーの30〜50%が何らかの事故を起こし、健常者の高齢者に比べると、衝突事故のリスクは2・5〜4・7倍に上るという。


 来年6月から75歳以上を対象に運転免許更新の際、認知機能の簡易検査が導入される。医師から認知症と診断され、過去1年に事故・違反歴があれば、免許取り消しとなる。


 池田教授は「認知機能検査の導入は評価できるが、課題もある。路上試験やシミュレーターで運転能力を評価すべきだ」と指摘。対象年齢についても「認知症の中で最も運転が危険なピック病など若年性認知症は検査の対象外となる」と拡大を求めた。


 国立長寿医療センター研究所の伊藤安海(やすみ)・生活支援機器開発研究室長は「診断の難しいピック病など簡易検査では見つからないこともあり得るので、長期間のモニタリングで発見できるようにすべきだ」と指摘。交通事故総合分析センターの西田泰・研究部担当部長は「単独事故や違反が続く運転者を把握して、問題のある高齢ドライバーを特定することも可能ではないか」と述べた。


 「車を運転する高齢者は元気。運転が社会参加につながる。運転をできる限り続けてもらうことで高齢者の生活の質も維持される」。鈴木春男・自由学園最高学部長は、高齢者が運転するメリットをこう説明した。


 ただ、加齢に伴い、運転能力が衰えてくるのは避けられない。このため、70歳以上の高齢ドライバーは3年に1回、運転免許の更新の際、高齢者講習を受け、自分の運転能力をチェックすることが義務づけられている。


 JAFMATE社の吉岡耀子・ウェイズ編集部編集長は「高齢者にとって3年に1回は長い。高齢者から『3年の間に自分たちがどうなるか不安』という声も出ている。高齢者が運転をチェックする機会がもっとあった方がいい」と指摘した。


 毎日新聞の城島徹・生活報道センター長は「高齢者講習は教習所によって内容にばらつきがある。一定の質を保った講習にすることが大切」と訴えた。


 自動車メーカーに対し、事故防止につながる技術開発への期待の声も相次いだ。鈴木氏は「高齢になると、たくさんの情報を一度に処理することが難しくなる。カーナビなどで、複数の情報を処理しなくても運転できるシステムもほしい」と要望。さらに「75歳以上に高齢運転者標識(もみじマーク)をつけることが義務づけられたが、他のドライバーは高齢ドライバーの特性を知って運転することも重要。高齢ドライバーの特性を理解してもらえる教育機器が開発できないか」と述べた。


毎日新聞 2008年8月31日 東京朝刊

クルマ高齢社会:年々高まる運転リスク 認知症検査拡大を−−防止考えるシンポ開催


 医療関係者は、認知症ドライバーの高い事故率を理由とし、早期に発見し運転させないようにすべきだという趣旨で発言をしている。一方、医療者以外は、高齢者にとっての運転のメリットを強調し、安全に運転するための環境整備を求めている。公共空間を占有する自家用車は、この2つの相反する課題に向き合う。
 アルツハイマー型老人性認知症は変性疾患であり、緩徐に進行する。高速道路逆走事件などを起こした初めて認知症と診断される高齢者もいる。毎日新聞の連載記事をみると、空恐ろしくなる事例が多数掲載されている。認知症高齢者をスクリーニングし、専門医の診断につなげるという仕組みが必要である。ピック病も含め、進行性の認知症者の運転を禁止することに私は異論はない。
 一方、リハ医として運転に関する意見を求められるのは、脳血管障害者の方が圧倒的に多い。この場合、別の観点が必要である。私は、操作能力と認知機能とに分けて説明をしている。
 片麻痺が重度でも高次脳機能障害が顕著でない場合には、操作の工夫をすれば大丈夫とお話をする。アクセル、ブレーキの位置を変更したり、ノブ付のハンドルにしたりなどの改造が必要な場合もある。
 認知機能低下がある場合には一筋縄でいかない。特に、麻痺がさほどでないが左半側無視がある患者の場合は要注意である。関東地方の病院に勤めていた時、通院患者が「東名はいつから片側二車線になったのでしょう。」と言われた時には驚いた。詳しく話を聞いてみると、家族の反対を押し切って運転していた。車庫入れでいつも左後方のバンパーをぶつけているとのことだった。ご家族に連絡し、危険性を詳しく説明して運転をやめさせるようにとお伝えした。ただし、高次脳機能障害があれば全てダメかというと違う。失語症患者でも安全に運転できる場合がある。アルツハイマー認知症と違い、認知機能低下が進行する訳ではない。病態の認識ができている高次脳機能障害者の場合、教習所に行って実際の運転をチェックしてもらうように指導するように心がけている。考えてみると、安全運転が可能かどうかは教習所の教官が最もよく分かる。障害を持っていなくても、運転して欲しくない人はいる。
 高齢者・障害者と運転の問題は奥深い。今回、75歳以上の高齢者に認知機能検査が導入されることを契機として、この問題が高い関心を呼ぶことになると予測する。医師が運転免許の相談に応じる機会が増加することになる。