奥田碩氏(トヨタ取締役相談役)の恫喝

 奥田碩氏(トヨタ自動車株式会社取締役相談役)の恫喝がマスコミを震撼させた。 
 厚生労働行政の在り方に関する懇談会(第4回) 議事要旨より。

1.日時:平成20年11月12日(水) 17:59〜19:29
2.場所:官邸小ホール
3.出席者 浅野史郎慶應義塾大学教授)、岩男寿美子慶應義塾大学名誉教授)、大熊由紀子(国際医療福祉大学大学院教授)、奥田碩トヨタ自動車株式会社取締役相談役)、高山憲之(一橋大学教授)、土居丈朗(慶應義塾大学准教授)、松浦稔明(坂出市長)、薬師寺泰蔵(慶應義塾大学客員教授)、内閣官房長官内閣官房副長官(政務、衆)、内閣官房副長官(事務)、厚生労働大臣、大村厚生労働副大臣、渡辺厚生労働副大臣


 本懇談会は、厚生労働行政についてはさまざまな問題が発生したことを踏まえて、国民の信頼を回復するために開催された。次回、12月15日に中間のまとめを出すにあたって次のようなやりとりがなされた。

薬師寺委員 2つあると思うんですよね。何が内容の目玉なのかという話、これはきちんと、もう土居さんなんかはわかっているから、それを書き入れるわけですよね。それと、あとマスコミ用に、浅野さんが言ったように、キャッチフレーズみたいなものが、その中から見えるような形で出していくと。そうしないと、厚生労働行政の在り方懇談会は、我々の総合科学技術会議に比べると随分社会的な評判というか注目度が高いから、これを出すだけでも相当影響があるんじゃないかと思います。


○奥田座長 影響があるから余計困るんですよ。変なものを出すと困ると。


○舛添厚生労働大臣 ちょっとよろしいですか。


○奥田座長 どうぞ。


○舛添厚生労働大臣 受け取る側が言ってはいけないんですが、ずっと3内閣続いて大臣をやっているものですから、言わせていただきますと、これは福田さんのときにどういう話し方をしたか、私ちょっと、ずっと話していなかったと思うんですけれども、もともと5つの安心プランを出すときに、つまり浅野さんもおっしゃったように、何で厚生労働省ばかりこんなに問題が起こるんだということはありました。したがって、そのときに、例えばこの中間報告的なものが出るとすると、受け取る側から見たときに幾つかポイントがありまして、例えば厚生労働省はなぜほかの省に比べてだめなのと。経済産業省はこんなにすばらしくやっているのに、なぜ厚労省はだめなのと。外務省はこんなにいいのに、なぜだめなのという、他省庁との比較というのは一つあると思います。
 それからもう1つは、先ほど浅野さんがおっしゃったことは、出先機関の問題にしろ、天下りにしろ、補助金についても、我が省だけがかかわっていることじゃなくて、これは今の霞が関全体の問題であるわけですね。ですから、そのときにそこまで問題を敷衍させるのかどうなのか。もしそうだとすれば、我々が率先してそれをやったほうがいいのかどうなのかという問題もありますね。
 ですから、ちょっと今1点だけ申し上げたんですけれども、そういうポイントが今の先ほどのお三方の議論の中で、よその省に比べてお前のところはどうだというのが余り見えませんね。というのがちょっと、もらう側が言うのもおかしいんですけれども。


○岩男委員 一言申し上げますと、他省庁と共通の問題と、それから厚労省?特種厚労省の問題と、どうしようかという話し合いもいたしました。しかし、現段階ではこういうふうにしておいて、皆様のご意見を伺って、特に厚労省に関係あるところだけに重点的に焦点を絞って出すということであれば、そのような作業をするということだというふうに思います。
 ですから、私たちの問題意識には、今おっしゃったようなことはあります。ただ、私たちの考えでどうあるべきということをどんどん書き込んでいいものか躊躇がありましたので、むしろもっとご意見を出していただいて書き込むという、そういうことで、本日はこういう形で、どちらかというとニュートラルに問題を提起するというか、整理をしたという、そういうことで出しております。


○奥田座長 どうぞ。


薬師寺委員 今、大臣がおっしゃった、なぜ厚労省だけが問題なのか。それは、他省に比べて国民にものすごく関係しているし、命がやっぱり関係している。だから国民もそういう点ではずっと見ている。そこのところはきちんとやっぱりこの報告書の中にも書く必要があると思いますね。


○松浦委員 私の感覚では、厚労省だけがとは思っていないですね、国民は。似たようなことは全部どこにもあるんじゃないかというのが一般的な国民の感覚ですね。ですから、私は根っこの部分はやはりしっかりとらえて、前々回でしたか、浅野先生が、範たれと、この改革の範たれと、こういうニュアンスのことをおっしゃっていましたが、私もそうあるべきだと思います。


○浅野委員 ちょっと今の舛添大臣の後半のところで、ちょっとニュアンスを一所懸命聞き取っていると、例えば他省にも共通の課題、例えば補助金の問題、出先機関の問題、天下りの問題、それはそうなんです。それをこの厚生労働行政のこれで先に打ち出していいかと疑問文でおっしゃったけど、それはちょっとやり過ぎなんじゃないかというふうにもし聞こえたとすれば、僕は逆だと思っているんです。最初から主張しておりますように、今、松浦委員も少し補強していらっしゃったように、私も個人的に厚生省OBとして、今回の一連の流れは非常に悲しいわけです。だからまじめにやってきているわけですけれども、私が厚生労働省をいじめているようにもし聞こえているとしたら、それはひがみというものであって、私が最も一番傷ついている一人です。
 後ろ向きなもので、こんなことを反省して、ごめんなさいということでは、私のプライドは回復されない、私のというのも変なんだけれど。だから、むしろ前向きに、言い方としてはこれを契機として、もっと言えば災いを転じて福とするみたいなものでやる。そうすると、結構褒められるんじゃはないかと、もしそれをやれば。よくやったと。その前の分が消されるんじゃないかというようなこともあって、私はむしろ、何で経済産業省がこんなにやっているのに、厚生労働省だけへまなこととかこんなことをやっているんだというのもあります。ありますけれども、だとしたらなおのこと、それをばねに、がーんと行くときには、ほかよりもちょっと一歩先に出るということは、私は本当にぜひ必要だと思っているわけです。それが目玉になってほしいということを言いたいと思います。
 それから、岩男委員が今おっしゃったのは、今回のことについてどうあるべきかということでニュートラルに書かれたというのは、もちろんそれはいいんですけれども、もう1回作業をやらなくてはいけないらしいですから、そのときには、それは独断と偏見とは言いませんよ。それは、別に岩男さんのご意見だというのではなくて、とにかくどっちかでバンと書いてもらうわないと議論にならないからということで割り切っていただきたいなと、ほかの3人の方にも申し上げたいと思います。


○土居委員 先ほど舛添大臣がおっしゃったことに関連して、なぜ厚生労働省だけなのかについての一つ大きなポイントは、公的保険を担っているという側面が非常に大きいと。ところが、保険というのは民間でもやっているけれども、さすがに社会保障にまつわる部分に関しては公的にやらなければいけない。だけども、保険という仕組みは民間でもやっているということがあったりすると、なぜそんなに公的保険はうまく効率よくやってくれないのかというような、もどかしさみたいものがある。もちろんそこには所得再分配が必要になってくるということがあるので、民間のようにはできないというのは、それはわかるんですけれども、なぜ民間のようにしないのか、これもきちんと説明する必要があるし、ないしは民間と同様に効率的にやろうと思ったら、できる部分は公的保険でもあるんじゃないかというところについてはもう少し効率よくやるというようなところ、その2つのところは、特に社会保障絡みでは大きなポイントです。経済学をやっている側からすると、保険としてもう少しうまくワークしてくれると、年金保険にしても、医療保険にしても、介護保険にしても、「保険」とついているので、国民の安全・安心をよりよく達成できるのではないかと、そういうようなところも国民の側からは、そういう思いもあるんじゃないかと思います。


 ここで、報道された奥田座長の問題発言が飛び出す。

○奥田座長 私の個人的意見を言いますと、本当に腹が立っていますよ。何に腹が立っているかというと、新聞もそうだけれど、特にテレビが朝から晩まで、名前を言うとまずいから言わないけれど、二、三人を連れてきて、もう年金の話とか厚労省に関した問題について、わんわんと毎日毎日やっているわけでしょう。あれだけ厚労省がたたかれるというのは、自分は正直言って厚労省の人間じゃないけれど、しかしやっぱり厚労省だけであれだけたたかれるというのは、ちょっと異常な話なので、私は何か報復でもしてやりたいなというぐらい、それぐらいの感じは個人的には持っておるんですよ。だから、例えばスポンサーとかね。だからそれはちょうど、今……


○浅野委員 それを言ってはいかんですよ。


○奥田座長 言ったらいかんけども、今のところやっぱりあれでしょう、実際に、だから会社なんか相当、経済の問題で最近沈んできているわけですね。だから、もう経費節減だと。経費節減だとなってくると、もう3Kが出てくるわけです。広告宣伝費と、それから交際費、それからもう1つは何だったかな……、3Kですよね。だから、広告宣伝費なんか出さないと、特に大企業は。
 ということで、私は正直言って、皆さんテレビを見てもらっていてもわかると思うけど、ああいう番組に出てくるテレビのスポンサーは、大きな会社じゃないですよ。いわゆる地方の中小といいますか、変な話だけれど、それはやっぱり流れとしてはあるんですよね。
 だから余計私も、そういう意味で個人的にも、やっぱり今、厚労省がこれだけど突きまくられて、何であんなにど突きまくられなければいかんかというのは、腹が立ってしようがないんです。個人的には座長は、もうこんなことをやらずに、私も言いたいんだけれども……


○浅野委員 私もそれのかかわっている、「朝ズバ」なんていう番組に出ていますからね。ただ、私は現職の知事のときからマスコミにいろいろ言われて、実は腹立っていないんですよ。随分ぼろくそに言われているんですけれど。それは、マスコミというのは批判するために存在しているのであって、マスコミに褒められるようになってはおしまいと。マスコミがおしまいということなので、ただ、そこのところでもし奥田座長にあれがあるとすると、うそを言ったり、うそはだめ。事実に反することを公共の電波なりで言われたら、これはきちっと反論すべきなんです。ただ、これが気に入らないとか、厚生労働省やっていることはおかしいとか何とかというのは、これはやっぱり言わせなくてはいかんのですよ。ぜひスポンサーも降りないでください。


○奥田座長 事の大小によってね、大きなことを言うのはいいけれど、小さいことを1つずつ持ってきて、こうやって、年金だ何だとかとやられると、正直言って……


○浅野委員 それはお腹立ちでしょうが、ただ、それは何かの形で反論するなら反論するということで、むしろそれは問題提起をしているわけですから、問題が広がるということ自体は悪くない。ただ、そこの中に、事実に反すること、誹謗中傷というのも……


○奥田座長 それはいかんですよね。


○浅野委員 事実に反することを根拠にした誹謗中傷ですね。それはきちっと現に、厚生労働省も報道のたびに言っているようですけれど、だけど、それで、褒めないからいけないとか、けなしたらスポンサー降りるぞというのは、これは座長、言い過ぎだと思います。


○奥田座長 いやいや、降りるぞというのではなくて、もう現実にそれは起こっているわけですよ。


○浅野委員 そうですか。それはえらいことだ。


○奥田座長 だから、今もうテレビ局なんか、正直言って、広告取りに走り回っているわけですけれども、ところが結局聞いてみると、マスコミというのは経営権と、それから編集権は独立したものであって、編集権には経営者は介入できないという話があって、だからいろいろ問題があって、こんなのはおかしいとか言っても、上のほうは編集権に介入できないから何もできませんと、そういう言い方をするんですよね。


 さらに、大村厚生労働副大臣が奥田座長に同調する発言をする。

○大村厚生労働副大臣 ちょっといいですか。私がちょっとこんな立場で言うのはあれかもしれませんが、今、浅野先生が言われたことは、確かに私もマスコミはそういうことだと、批判するためにあるというのはわかりますが、事実に反することが多々あるので、これはその都度、役所も反論しているんでしょうけれど、しかしそれは報道してくれませんからね。やられ損というのはちょっといかがかなと、個人的にはそう思います。ただ、だからといって、じゃ効果的に何か反撃できるかというと、なかなかできないというのはしようがないかなという気がしますが、それはそれとして。
 私はこの立場に来るまで、党とか国会のほうでずっとこの何年かは切り回しをやってきたんで、我々自民党の議員、特に解散総選挙を控えた衆議院議員として、やっぱり国民に直接触れていると、やっぱり本当にこの一連の経過の中で、自民党の中の雰囲気というのは、やっぱり厚生労働省に対しては、はらわたが煮えくり返っているというのが圧倒的多くのコンセンサスだと思いますが、ですから、どういうふうに具体的にどうのこうのというようなことは申し上げるのは控えますけれども、個人的にはいっぱいありますが、だけど、そういう雰囲気、空気もあるので、まさに浅野先生が言われたように、これだけ標榜したやつを打ち返すんだったら、よっぽどやってもらっても、ちょうどちょうどじゃないかという気がしますので、またぜひ先生方にはひとつよろしくお願い申し上げます。そのことだけ申し上げます。


○土居委員 今の議論をぜひ、中間とりまとめにうまく活用できるといいんじゃないかと。例えばきょうの資料2の1ページの一番下の4のところなんかは、やっぱりそういう、つまり例えて私がよく引き合いに出すのは、この前の年金改正のときに、未納三兄弟云々というふうな話ばかり盛り上がったけれども、実はマクロ経済スライドとか、非常に年金制度の中で重要な話がきちんとなされていたわけですけれども、そこは必ずしも国民の高い関心を集め切れなかったと。だけど、非常に話題性のある話ばかりが注目されたというようなあたりは、もう少しバランスよく議論ができるような、そういう広報及び報道への働きかけというのはあると思うんですね。
 未納三兄弟の話が注目を集めたから、マクロスライドの話はすっと通ったということなのかどうなのか、私はよくわかりませんけれども、少なくともそういう年金制度の重要な仕組みだと私は思っていますけれども、そういう重要な社会保障の改革が行われているというところは、もう少し国民の関心を集めるような取り組みというものをどう仕掛けていくかという議論は必要だと思います。


○奥田座長 それでは、申しわけないですけれど、時間が参りましたので、次回以降の会議については、とりあえず今は12月15日を予定しておりまして、そこで中間まとめをしたいと、こういうふうにロジとしては考えているわけですが、きょうの雰囲気を見ていると、これは早過ぎると。それから、まだ練れていないということですから、申しわけないけど、事務局はお三方の先生と話をされて、もうちょっと詰めたほうがいいですね。


薬師寺委員 ちょっと提案ですけれども、恐らく3人の人たちの有識者ペーパーとして中に提案を書き入れて、それをまず議論したほうが効率がいいんじゃないですか。


○奥田座長 いや、そのときに、だからもう1回やるのか、あるいは本当に中間とりまとめに持っていくまでに、例えば書類で原案を送り込んで、それをまたこちらに返していただくとか、それでまとめるという、そういう形のほうがいいかもしれないし、それは一遍、座長である私に任せていただいて、それで処理したいと思いますので。
 それでは、本日はどうも、とりとめのない会議になりましたけれども。


 議論の過程を見ても、奥田座長がなぜ厚労省に関するマスコミ報道を嫌悪するかがよく分からない。推測になるが、年金問題が鍵を握っているように思える。大企業にとって、社会保険料は経営上大きな負担となっている。現在、基礎年金を社会保険料方式から税方式に移行する案が議論されている。この案どおりにいくと、企業の社会保険料負担は大幅に軽減される。しかし、厚労省が袋叩きにあっている中、年金議論が思惑どおりに進んでいない。
 いずれにせよ、広告宣伝費はマスコミ対策であるということだけは明らかになった。TVや新聞などの商業マスコミは大企業という広告主に逆らえない。世界のトヨタから睨まれた場合、経営が成り立たなくなる。いや、既に世界同時不況に突入する中、実際に広告収入が減り、マスコミは赤字に陥っている。非正規労働者の雇用止め問題にしても、体力があるはずの大企業を正面から批判する報道は少ない。

 ちなみに、予定どおり、12月15日に厚生労働行政の在り方に関する懇談会(第5回)が行われた。しかし、奥田座長の恫喝が効いたのか、中間のまとめという重要課題にも関わらず、マスコミ報道は控えめである。