27年間経過した「閉じ込め症候群」

 総合リハビリテーション Vol.36 No.11 (2008年11月10日発売) | Fujisan.co.jpの雑誌・定期購読に、大橋正洋氏(神奈川リハビリテーション病院)が、「27年間経過した『閉じ込め症候群』」という題で症例報告を行っている。


 興味深い点をいくつか紹介する。

# 「閉じ込め症候群」の分類
 まず、引用文献から。Varieties of the locked-in syndrome. - PubMed - NCBIより。

The locked-in syndrome (LiS) was broken down on the basis of neurological symptoms in 12 patients. The criteria of classical LiS are total immobility except for vertical eye movements and blinking. If any other movements are present one should consider the condition as incomplete LiS. Total immobility, including all eye movements, combined with signs of undisturbed cortical function in the EEG led to the concept of total LiS. The anatomical basis for this condition consists of lesions in both cerebral peduncles which interrupt the pyramidal and corticobulbar tracts, the supranuclear fibers for horizontal gaze and the postnuclear oculomotor fibers. As to the course, chronic and transient LiS have been described.

 「閉じ込め症候群」は次の3種類に分類される。

  • classical LiS : 眼球の垂直方向の運動と瞬目以外は完全麻痺。
  • incomplete LiS:上記以外にも部分的に運動が保たれているもの。
  • total LiS:眼球運動も含め随意運動が失われた状態。


 本症例報告で紹介されているM氏は、頭部外傷に伴うincomplete LiS例である。


# コミュニケーション機器の歴史
 1980年に交通事故で受傷後、重度四肢麻痺があり、発語不能だが、頭部運動は可能で、首振りがイエス、ノーの応答ができた。ヘッドスティックを用い、電動カナタイプライター使用を指導された。その後、ワープロなどデジタル機器の発達に合わせ、M氏は様々なコミュニケーション機器を使いこなすようになる。M氏の用いたコミュニケーション機器の表をみると、情報機器発達の歴史を概観できる。
 なお、情報機器操作能力を見込まれ、M氏は、2003年から数年間、トーキングエイドを開発する会社に雇用された。


# 自立生活
 2005年から都内のマンションで自立生活をしている。情報機器の他に、リフター、食事支援機器マイスプーン:セコム社も使用している。ホームヘルパーは1日12時間利用している。基本的生活経費は、障害者自立支援法などの行政サービスの枠の中で賄えている。


 橋底部両側の随意運動を司る神経経路の障害で「閉じ込め症候群」は生じるが、障害の程度により3種類に分類されることを、初めて知った。
 治療効果が全くないと一見思われがちな「閉じ込め症候群」患者の可能性を本症例報告は示す。それにしても、最重度の障害を持ちながら、自立生活を営んでいるM氏のバイタリティーには驚嘆させられる。関わったリハビリテーション関連職や、日常生活の支援者に与えた影響は計り知れない。リハビリテーション専門職として、「閉じ込め症候群」患者に遭遇した場合には、本症例報告を参考に対応しなければならないと自戒する。