嚥下障害者への食事介助は最も危険な医療行為

 中日新聞ヘルパーのミス認定、賠償命令 食事中窒息死で名地裁支部より(注:エントリーのアップが遅れたため、元の記事は既に削除されています。申し訳ありません)。

ヘルパーのミス認定、賠償命令 食事中窒息死で名地裁支部
2008年9月25日 朝刊


 重度の身体障害のあった次男裕介君=当時(15)=が夕食をのどに詰まらせて死亡したのはヘルパーが注意を怠ったためだとして、愛知県一宮市の会社員伊達靖久さん(47)と妻典子さん(43)が市内の介護業者などに総額4000万円の損害賠償を求めた訴訟で、業者側に賠償を命じた24日の名古屋地裁一宮支部判決は「食物が詰まったことに気付かなくても、研修を受けたヘルパーなら食事との関連を疑うべきだった。上司に連絡して指示を仰いでいれば裕介君の窒息死を防げた」とヘルパーのミスが死亡を招いたと指摘した。


 その上で鬼頭清貴裁判長は、業者とヘルパーに計約2000万円の支払いを命じた。ヘルパー側は「裕介君の症状から食物がのどに詰まったと認識するのは困難だった」と反論していた。両親側は、ヘルパーへの指導が不十分だったとも主張したが、判決は「新人教育や研修で、報告や連絡の重要性や事故処理の方法を指導しており、体制が不備だったとはいえない」と認めなかった。


 判決によると、2005年10月24日夜、ヘルパーから夕食のロールキャベツなどを食べさせてもらった裕介君の様子が急変。ヘルパーは裕介君を残して近所に外出していた母親を呼びに出たが、戻った時にはぐったりしており、翌日夜に窒息で死亡した。


◆裕介君の両親「事故教訓に介護向上を」
 「事故を皆が真摯(しんし)に受け止め、地域の介護のレベルアップにつながれば」。食事を詰まらせる誤嚥(ごえん)で亡くなった伊達裕介君の両親、靖久さんと典子さん夫妻は裁判に込めた思いを語った。


 事故の日、異変の知らせを受けて典子さんが急いで自宅へ帰ると、裕介君はぐったりしていた。気道確保のため吸引器でのどの異物を引き出すと、かんぴょうが出てきた。


 そばで見ていた介護ヘルパーの男性がボソッと言った。「ああ、詰まっていたんだ」。典子さんは「誤嚥の知識がないのでは」と驚いた。


 20日ほど前、同じ事業所の別のヘルパーが裕介君を介護中、食事をのどに詰まらせたばかりだった。


 ヘルパーの男性は家族と一緒に食事するほど良い関係だった。だが、ヘルパー2級課程を修了したばかりで、食事介助は裕介君が初めてだった。事故の状況を尋ねても納得のいく説明が返ってこない。夫妻は06年2月、介護事業者とヘルパーの男性に損害賠償を求める訴えを起こした。


 裁判は多くの福祉関係者の関心を集めた。傍聴に訪れた福祉施設の中から、事故対応マニュアルの充実に努めたり、救急救命講習を盛んに取り入れたりする動きも出てきた。


 判決の内容について靖久さんは「事業者の運営体制の不備が認められないなど納得はいかない」と話す。「二度と同じ事故を起こさないために、障害者の痛みを本当に感じられる人や施設がもっと増えてほしい」。願いは募る。


 本件に関しては、いくつか疑問がある。20日ほど前にも窒息事故が起こっている。事故が起こった際に、すぐに関係者が集まり再発予防対策を立てる必要があるが、ご家族、ケアマネ、介護事業者たちの意思疎通は十分だったのだろうか。また、食事の内容には明らかに問題がある。窒息した食材は、咀嚼が困難なロールキャベツのかんぴょうである。嚥下障害者に不向きな食事をいったい誰が調理したのか。ヘルパー1人に食事介助を任せてご家族が外出していたことも解せない。


 嚥下障害者に関しては、食事、体位、介助法の工夫が必要である。嚥下造影や嚥下内視鏡は、どのようにしたら食事が摂取できるかを判定するための検査である。病態把握が不十分な場合、窒息事故や肺炎を起こす可能性がある。逆に、食事摂取困難と決めつけられてしまい、経管栄養に留まっている者も少なくない。


 ヘルパーは各種医療行為が禁止されている。緊急事態でない限り、痰の吸引はできない。したがって、緊急事態に対するトレーニングが決定的に不足している。
 嚥下障害者への食事介助は、窒息事故という危険が伴う。痰の吸引よりはるかに危険である。しかし、介護の現場では食事介助を短期間の研修で資格を習得できる2級ヘルパーが行わざるをえない。医療職が少ない介護施設でも同様である。老健や特養など重度要介護者が多数入所している施設でも窒息事故が多発しているのではないかと推測する。
 本裁判の結果が介護現場に与える悪影響を懸念する。約2000万円という損害賠償額は低賃金のヘルパーにとって過大である。介護事故に関する保険に入っていない限り払える金額ではない。介護職が刑事告発を免れるために、過剰な防衛にはしる可能性がある。嚥下障害者の食事介助を介護職が忌避した場合、最後に残された食事をするという楽しみが失われることになる。