「プチ生活保護」の勧め

 引き続き、「生活保護VSワーキングプア」について。

生活保護VSワーキングプア (PHP新書)

生活保護VSワーキングプア (PHP新書)


 平成19年度 社会福祉行政業務報告(福祉行政報告例)結果の概況、生活保護関係をみると、生活保護利用者中、高齢者世帯、傷病・障害者世帯が相対的に増加している。一方、母子世帯、その他の世帯は全体に占める比率が年々下がっている。
 母子世帯、その他の世帯には若年層が含まれている。ワーキングプアという形で若者に貧困が広がる一方、水際作戦の結果、生活保護受給が抑制されていることが統計で示されている。著者はここで次の問いかけをしている。「水際作戦の本当の被害者は誰なのか?」
 世代別の利用者数の推移をみると、生活保護を利用する高齢者数が増加する一方、1980年代後半から0〜19歳までの子供たちの数が急速に減少している。母子家庭などの若年層を排除することで、その子供たちがセーフティネットから排除されていることが示されている。


 著者は、生活保護制度の使命は、「生活保障」+「自立支援」と述べている。若年層が精神的にも身体的にもどうしようもなくなってから生活保護を利用するのではなく、困った時だけちょっと利用する「プチ生活保護」を勧めている。入りやすく出やすい制度に変えていくこと、再挑戦を行うためのバネとすることが生活保護の役割と強調している。
 私は、上記主張に対し、次のように考える。生活保護ケースワーカーは、相談窓口・支援者、生活保護費管理者という2つの顔がある。この二律背反する立場を解消しない限り、「自立支援」に向けた援助はしにくい。医療保険介護保険では、患者・利用者、保険者、そしてサービス提供者の3極がある。保険者は無駄な給付を減らそうというインセンティブを働かせる。一方、サービス提供者は最も適切なサービスを行うとする。両者が分離していることで緊張関係が働き、サービスの質と量が決定される。一方、生活保護では、相反する2つの役割を同時に求められている。このことによる矛盾が生活保護現場を苦しめている。
 現在の縦割り行政の中では、生活保護ケースワーカーは、あなたは生活保護対象ではありませんと追い返す立場にどうしてもなってしまう。申請者が来た時に、総合的に相談に乗り、生活保護を利用するかどうか決定する役割を持つ者がまず必要である。一方、自立に向けたサービスを提供する者も求められる。
 本書では、「希望のさいたま方式」を紹介している。貧困に苦しむ人たちを支援するネットワークをつくり、様々な角度から援助する方式である。考えてみると、高齢者や傷病・障害者の場合、医療や介護の現場では、多職種が関わりチームで援助を行っている。若年貧困者層に対しても、同じようにネットワークを作り、多職種で援助を行うという取組みは可能ではないか。生活保護が「自立支援」に向けた「生活保障」機能として役立つように制度運用が変わるのならば、そのイメージもだいぶ明るくなるような気がする。