全がん協加盟施設の生存率協同調査にみる自律性の高さ

 「全国がんセンター協議会」(全がん協)の生存率協同調査の結果が公表された。新聞各社が次のように報道をしている。


 病院のランキング本さながらに、各種癌の5年生存率の順位を表にしてまとめている報道が目立つ。


 全がん協加盟施設の生存率協同調査について生存率Q&Aには、次のような記載がある。

Q.施設毎の生存率を算出する意義は何ですか?


A.各施設の診療実態を把握し、各施設ががん診療の見直しや改善に役立てるために行われています。病院全体の機能評価のため、各施設で診断治療を受けたがん患者さんを集計対象としています。これまで、入院治療を受けた患者さんが中心でしたが、これからは外来で化学療法を受ける患者さんが増加しているため、入院、外来を問わず、全てのがん患者さんを対象とすることが求められています。
尚、施設毎の生存率データをここで示す公表指針を満たす形で作成するためには、その施設のがん診療データベースの品質が高くなくてはできません。逆にこのホームページで施設毎の生存率値が公表されている施設や精度評価の表でAランクの評価が多い施設ではそれだけその施設のがんの生存率データには高い信頼がおけるものと考えることができます。

Q.生存率の高い施設の方が、治療成績が高いと考えて良いですか?


A.生存率は観察開始日(診断日、入院日、治療開始日:3年たてば観察開始日にどれを用いても大きな違いがないことがわかっています。)、観察終了日、観察終了日における生死の情報があれば計算できます。
生存率に影響するのは性、年齢、初回治療年、外科症例のみかまたは内科症例を含んでいるのか、外科症例の場合手術後30日以内の死亡症例(術死)を含んでいるか、検診発見か、検診由来の粘膜がんを含んでいるかどうか、合併症の有無、病期診断の正確性、術前合併症に対してきちんと治療が行われたか、部位・進行度により初回治療に放射線、化学療法が併用されたか、追跡率が95%以上かなど様々な要因が関係します。生存率が高い施設の方が単純に治療成績がいいとは限りません。生存率が算定された根拠をきちんと把握することがとても大事です。全がん協では少なくとも追跡率、臨床病期の記載率、一定以上の症例数を基準とし、外科症例だけでなく内科症例、放射線科症例も含んでいますので、通常、各病院のホームページ等で掲載されている生存率とは異なることをご理解ください。


参考:詳しいことは下記ホームページを参照してください
http://www.cancerinfo.jp/jacr/survival.html#03


 日本では、施設名入りでがんの治療成績を公表したことは初めてである。画期的なことである。がん対策に真摯に取組み、質の高いデータ管理をしているという自信の表れである。全がん協加盟施設の生存率協同調査で実名を公表した施設は信頼に足ると考えて良い。


 回復期リハビリテーション病棟連絡協議会も、断面調査という形で毎年実態調査を行っている。施設間に治療成績の差があると言われているが、各医療機関の成績は公表していない。自律性を高め、施設の質を上げるという立場から考えると、通年のデータをまとめ、公表すべきである。
 残念ながら、今年度、回復期リハビリテーション病棟に「質の評価」が導入され、在宅復帰率や重症患者改善率によって診療報酬に差がつけられた。がん患者の場合、臨床病期や年齢などの背景因子で5年生存率が異なる。同様に、リハビリテーション患者も、重症度や家庭状況によって、自宅退院率もADL改善度が変わってくる。ADL指標もリハビリテーション医学の世界でこれまで使用したことがない「日常生活機能評価」が用いられることになった。「日常生活機能評価」とは、ハイケアユニット用の看護必要度の一部である。急性期医療において看護師がどのくらい患者に関わったかという指標である。例えば、絶食で点滴をしている場合、食事の介助が不要となるため「日常生活機能評価」では自立となる。看護師が介助していない項目は自立と評価される。リハビリテーションとは相容れない評価である。
 がんの場合、5年生存率だけを持って、診療報酬に差をつけようとは誰も思わないだろう。たとえ厚労省中医協で改定を強行しようと思っても、阻止できるだけのデータを持っている。しかし、回復期リハビリテーション病棟の場合は、厚労省主導で成果主義が導入された。リハビリテーション医療の積み重ねを否定され、専門職としての誇りが傷つけられた。全がん協加盟施設の生存率協同調査にみる自律性の高さを羨ましく思う。