社会保険料事業主負担は先進国の中では最低水準(資料編)

 社会保険料事業主負担は先進国の中では最低水準にある。関係する資料を紹介する。


# 厚労省資料
 社会保障審議会年金部会(第3回)(平成14年4月19日)内、(資料6)国民負担率(租税負担、社会保障負担)の推移社会保険料負担の国際比較に次のような記載がある。

 社会保険料負担について国際比較すると、我が国はアメリカやイギリスと同じ水準であり、ドイツやフランスと比べると低い現状にある。

 【社会保険料率の国際比較(勤労者)】という表に、各国の保険料率、うち本人負担、うち事業主負担の値が記載されている。
 事業主負担だけ抜き出すと、保険料率は、日本11.27%、フランス31.97%、ドイツ28.58%、イギリス最大10%、アメリカ7.65%、となる。なお、表をみるとわかるが、イギリスはNHSを税金で運用していることもあり、医療保険が含まれていない。


 アメリカについては、次のような記載が特別に追加されている。

 アメリカは公的医療保険制度がないため、公的社会保険料だけで比較すると事業主負担は低いが、事業主が負担している私的年金、医療保険の負担を加えると、我が国よりアメリカの事業主負担の方が高い。


 【社会保障費用及び租税等の事業主負担の国民所得費の日米比較】という図をみると、アメリカは社会保険料6.4%に加え、私的年金・私的医療保険が5.7%となる。確かに日本の社会保険料7.1%より負担が重い。


# 李啓充氏、緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療
 〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第120回第127回において、社会保険料の国際比較に関する詳細な分析がされている。
 第123回第124回より、引用する。

 では,なぜ,国民負担率が日本よりはるかに大きい国々で個々の国民の実際の負担は日本とそれほど変わらないのだろうか? 表2に「社会保険料率の国際比較」を示したが,フランス,スウェーデン社会保険料率は,国民負担率が大きいことと相応して,確かに,日本よりも大きな数字となっている。しかし,ここで注意しなければならないのは,本人負担だけに限ると,両国の社会保険料率は,逆に,日本よりも低い事実である。それどころか,表で示した5か国のうち,本人負担がいちばん重い国は日本であり,前回,米国との比較で成立した「国民負担率は実際の国民の負担を反映しない」という命題は,西欧諸国との比較でも成立するのである。さらに,「フランスやスウェーデンでは,国民負担率が日本よりもはるかに大きいのに社会保険料の本人負担は安い」というと,まるで「手品」のように聞こえるかもしれないが,実は手品でも何でもなく,本人負担が安い理由は,事業主負担が日本の約「3倍」と,非常に手厚いからにほかならない。

 つまり,西欧諸国の実例を見る限り,国民負担率が大きくなったからといって自動的に個々の国民の実際の負担が重くなるわけではないし,「国民負担率が大きい国(=大きな政府を運営している国)」は,現実的には「事業主負担率が大きい国」と同義といってよいのである。翻って,日本では,「小さな政府」派の人々が,「大きな政府にすると個々人の負担が重くなるぞ」と,しきりに国民の恐怖心を煽ることに専心しているが,これほど真実からかけ離れた「デマ」もないのである。

 「国民負担率」がどれだけmisleadingな言葉であるかを4回にわたって論じてきたが,ここまでの議論を以下にまとめる。


1)国民負担率は個々の国民の実際の負担を反映しない:国民負担率が日本よりも小さい国(たとえばアメリカ)の国民負担は日本よりも極端に重いし,逆に,国民負担率が日本よりもはるかに大きい国(たとえばフランス・スウェーデンなど)の国民負担は,日本とそれほど変わらない。
2)国民負担率が大きい国で国民負担が重くならない最大の理由は,事業主が手厚く社会保障費を負担していることにあり,先進諸国の実情を見る限り,「小さな政府」は,実際的には「国民の負担が重く,事業主負担は軽い国」と同義と言ってよい。


# 平成19年度医療政策シンポジウム 脱「格差社会」と医療のあり方

 パネルディスカッション 脱「格差社会」と医療のあり方、の中で神野直彦氏が図表4を用いて発言している(68〜70ページ)。

 ちなみに社会保障負担のほうを見ていただくと、スウェーデンも高いのですが、社会保障が発達しているフランスとかドイツも高いということになっています。しかし、フランスもスウェーデンも、極端に言えば、基本的に本人の社会保障負担はありません。事業主負担ですから、企業が負担します。
 見ていただければ分かりますけれども、日本は50:50ですから、個人の社会保障負担は4.3で、フランスの4.0、社会保障負担が非常に高いフランスの水準を突破しているのです。ドイツは日本より高くなります(6.0)。しかし、スウェーデンは日本より個人負担は少ないのです(2.8)。しかし、企業が負担している部分というのは日本は4.5で、企業はヨーロッパに関して言うと2倍以上しています(フランス11.0、ドイツ6.9、スウェーデン11.3、イギリス3.7、アメリカ2.4)。
 したがって、社会保障負担に関して言うと、引き上げ方を考えないと、ここでまた社会保障負担を引き上げると、もうギリギリです。後期高齢者医療が今度入ると、年金を貰っている人は年額で18万円の人に対して1/2まで保険料を取ってよいことになりますから、こんなことは市町村ではできないと行っています。社会保障負担の個人負担はかなり限界が来ている。消費税のほうはまだ余裕があるかもしれないが、その前にまだ余裕があるものがあるということです。

 注:( )内の数値は図表4より引用。なお、イギリス、アメリカの数値が低い理由は、# 厚労省資料で記載した内容を参照していただきたい。


 この他、事業主の社会保険料負担が低いことを、以下のエントリーで繰り返し言及してきた。


 結論は次のとおりである。
 医療費を税金でまかなっているイギリス、私的年金・私的医療保険が大きな比重を占めるアメリカを除けば、日本の社会保険料事業主負担は先進国の中で最低水準にある。一方、国民の社会保険料負担は、他の国と比べ決して軽くはない。
 社会保障費が削減され、医療や年金制度に関する不信が渦巻いている。一方、国民の社会保険料負担や医療費窓口負担は限界に来ている。このような状況の中で、どこに財源を求めるべきか。財界は、法人税率が高く国際水準並に引き下げが必要と主張する。しかし、社会保険料事業主負担が先進国内で最低水準にあることに関しては、決して語ろうとはしない。