福田政権退陣で医療はどうなる?

 河北新報のコラム、河北春秋(2008年9月3日)より。

「息子が過労死するんじゃないでしょうか」。岩手県立中央病院の院長を務め、現在は旧玉山村(盛岡市)で地域医療に携わる樋口紘医師は他県の女性からこんな電話をもらった▼息子は医学部を卒業し、公立病院で研修医として働いているという。月に10回も当直をこなし、携帯電話もつながらない。心配で宿舎を訪ねると、ぐったりしながら「とにかく寝かせて」


 ▼樋口さんが近著で明かしているエピソードだ。勤務医の平均労働時間は週70時間超。当然、法律違反だ。厚労省が最近、法令順守を指導し始めたが、樋口さんは「ならば今の3倍の医師が必要になる」▼医学部定員を1.5倍にする必要がある―。厚労省の検討会がそんな中間報告書を先週まとめた。地域医療の崩壊を食い止めるには、医師の総数を増やすことが大前提。提言は遅いくらいだった


 ▼福田内閣が6月に表明した社会保障分野の「五つの安心プラン」。医療の取り組みは「安心と希望の医療確保ビジョン」にまとまった。先の報告はその具体化を検討した結果だが▼言い出しっぺの首相が政権を投げてしまった。特定財源、医療、経済など「方向性は打ち出せた」と福田さん。方向だけでは道半ばでさえない。次の首相は実現まで泥をかぶってでも、という気概と粘りの人でなければ。


2008年09月03日水曜日


 上記エピソードは、「医療崩壊はこうすれば防げる!」の93ページに記載されている。

医療崩壊はこうすれば防げる! (新書y)

医療崩壊はこうすれば防げる! (新書y)


 福田首相は、退陣にあたっての記者会見で「これまで誰も手を付けなかったような国民目線での改革に着手」し、「最終決着はしておりませんけれども、方向性は打ち出せた」と述べている。医療分野も間違いなく、その1つである。ただし、社会保障費2,200億円削減はそのままである。アクセルとブレーキを同時に踏まれたような中途半端な状況となっている。
 河北春秋は、福田首相の置き土産の中から、医師数増を取り上げた。医師不足が地域崩壊を招きかねない地域の実情を踏まえたものである。政局にらみの記事ばかり飛び交う中で、医療問題に視点をあててたコラムに真っ当さを感じる。