検体取り違えによる医療事故
検体取り違えによる医療事故が報道された。読売新聞、検体取り違え、別人の乳房を切除…岡山済生会病院より。
検体取り違え、別人の乳房を切除…岡山済生会病院
岡山済生会総合病院(岡山市、糸島達也院長)は19日、乳がん検診を受けた県内の40歳代女性の左乳房を間違って切除していたと発表した。検体を、乳がん患者と取り違えたのが原因で、女性はがんではなかった。病院は、女性に謝罪したが、女性は納得せず、双方が弁護士を通じて話し合いを続けている。
病院の説明では、昨年7月、この女性に胸部エックス線撮影などをしたところ、乳がんが疑われ、翌8月中旬に顕微鏡による組織検査を行った。その際、臨床検査技師が、検体を載せるスライドガラスに、乳がん患者の識別番号を誤って書き込んでいた。検査をもとに9月中旬に女性の左乳房をすべて切除したが、切除した部分を検査すると、がんではないことがわかった。
一方、乳がん患者は一度はがんではないとの診断を受けたが、取り違えが判明した後、乳房の一部を切除する手術を受けた。糸島院長はこの日、記者会見し、「女性には、心身に大きな傷を負わせてしまい、心よりおわびします」と述べた。
(2008年8月19日 読売新聞)
同種の事故を検索してみたところ、次のような事例があった。
- 国立がんセンター:肺がん(2005年9月)(参照:「術前検査にかかる検体の取り違え」報道について)
- 埼玉医大病院:甲状腺がん(2006年3月)(参照:日刊スポーツ、埼玉医大病院で検体取り違え甲状腺摘出)
上記の他、愛知県立がんセンター(肺がん、2005年5月)、01年に福島県立医大付属病院(胃がん、2001年)、筑波大付属病院(肺がん、2000年)でも同種の医療事故が起こっている。
検体検査取り違えに関しては、北里大学病院の取組みが参考になる。多種多様な臨床検査、特色踏まえた安全対策をきめ細かに実施より引用する。
臨床検査部独自にリスクマネジメント委員会を設置し、機能強化してきた成果はどうか。インシデント・レポート報告数の推移をみると、統計を取り始めた2002年7月から着実に減少していることが分かる(表2参照)。
発生が最も多かった「検体取り違え」については、医師からの内線連絡での指示取り消しがミスの発生につながっている可能性が高いと分析。病院本体のリスクマネジメント委員会に要望を上げて、文書で指示取り消し記録が残せるよう「検査結果訂正・削除依頼書」(表3参照)を導入した。「患者苦情」についてはマナー講習会を実施、技師1人ひとりが検査サービス向上の意識を高めるよう啓発活動を展開した。
2003年度に計408件あった臨床検査部のインシデント報告数は、04年度200件台に減少。05年度は100件台に落ち着く見通しだ。バーコードによるオーダリングシステムが導入されたため、検体受付時のミスはさらに減る予定で、06年度は二桁台が目標という。八木委員長は「ただインシデント・レポートの数を減らすのではなく、自分たちの職場の医療安全に必要なものを、1人1人が考えて達成してほしい」としている。
北里大学病院で年間に行われる臨床検査数は現在およそ500万件に上るとのこと。2003年度はそのうち408件にインシデントがあった。割合にすると0.001%未満となる。
病理検査に関しては、自治医大附属さいたま医療センター:病理部が、医療安全対策指針をまとめている。
病理における医療事故の特徴
病理検査は、疾病の確定診断や術前の検査など、患者の治療そのものに大きく関わり影響するものであり、臨床側による検査中の取り違えや検査室内における検体の取り違えや紛失・診断に関わるミスなどはあってはならないものであるとの心構えと、発生したミスを誤診・医療過誤に結びつけない細心の注意が病理・臨床双方に求められる。
臨床による検査の取り違え・事故
a.組織診における医療事故
- 確認不足による患者の取り違え。
- 検体提出と提出書類(依頼伝票)の不一致。
- 検体提出・保存方法の誤りによる検査不能。
- 検体採取量の不足による検査不能。
- 手術材料の処理作業に起きた間違いや取り違え。
- オ‐ダ‐入力の誤り。
防止対策
- 検査前の患者の確認が十分にされているか。
- 提出検体と依頼伝票が一緒に提出されているか。
- 依頼伝票には患者基礎情報・臨床所見・臓器名等の必要事項が正しく入力されているか。
- 検体は原則としてホルマリン固定(15%中性緩衝ホルマリン・15%ホルマリン・マスクドホルマリン等)で、特殊検査を必要とする検体は未固定で提出されているか。
- 提出された検体には、患者基礎情報が記入されたラベルが添付されているか、または直接記入されているか。
- 検体は採取後速やかに提出する事が原則であるが、不可能な場合、特に未固定検体は適切な場所・温度(冷蔵庫等)で保管されていたか。
- 採取された検体量は充分であったか。
- 手術材料は正しく処理(リンパ節処理・写真撮影等)されているか。
- オ‐ダ‐入力が正しくされているか。
北里大学、自治医大等での取組みをみると、検体検査時には次のような対策が特に重要と考えた。
- 医師の指示
- 正確なオーダリングをする。
- 追加・取り消しの場合も、口頭や電話で行わない。
- 検体採取時
- 患者確認の徹底。氏名を訪ねるだけでなく、その他の基礎情報(生年月日)なども合わせてチェックする。
- 重要な検査(病理検査など)では、特に気をつけ、ダブルチェックを必須とする。
- 検体分析
- 提出検体と依頼伝票の一致の確認。
- 重要な検査(病理検査など)では、特に気をつけ、ダブルチェックを必須とする。
検体取り違い、処方取り違いは、ヒヤリハット報告の中でも代表的なものである。リスク管理上、手書き伝票でのやり取りは危険としか言いようがなく、オーダリングシステム整備は必須である。軽微な事例でもヒヤリハット報告を行う習慣をつけ、組織的に再発予防対策を講じることが求められている。