医療事故情報収集等事業に対する報道姿勢への疑問

 日本医療機能評価機構は、医療事故情報収集等事業を行っている。医療事故情報収集等事業要綱には、その目的について、次のような記載がある。

第一条 医療法施行規則に基づく医療事故情報収集等事業(以下「本事業」という)は、医療機関から報告された医療事故情報等を、収集、分析し提供することにより、広く医療機関が医療安全対策に有用な情報を共有するとともに、国民に対して情報を提供することを通じて、医療安全対策の一層の推進を図ることを目的とする。


 医療事故情報や、ヒヤリ・ハット情報(ニアミス情報)を積極的に収集することにより、医療の安全性を高めることが目的であることを謳っている。医療事故を隠蔽するのはなく、軽微なものを含め、情報開示をすることが再発予防につながるという考え方である。


 8月13日に発表された平成19年年報に関して、いくつか報道がされている。CBニュース、ヒヤリ・ハットが増加−評価機構報告書より。

ヒヤリ・ハットが増加−評価機構報告書


 日本医療機能評価機構(坪井栄孝理事長)は8月13日、2007年の医療事故報告の結果を公表した。医療事故の一歩手前に当たる「ヒヤリ・ハット」は前年から1万3000件以上増加した。


 調査は全国の国立病院機構や大学病院を中心に04年から行われており、「医療事故情報収集等事業年報」として報告している。
 ヒヤリ・ハット事例は全国の240病院(総病床数9万9901床)から、20万9216件が報告された。06年の19万5609件(247病院、総病床数10万3610床)より、1万3607件増加している。
 内訳は「処方・与薬」22%、「ドレーン・チューブ類の使用・管理」14.5%、「療養上の世話」9.2%などだった。ヒヤリ・ハットの当事者は看護師が72.8%を占めた。
 ヒヤリ・ハット全体の65.2%では患者に影響はなかった。ただ、事前に誤りに気付いたものの、そのままにすれば患者の生命に影響しうるケースも3689件(1.8%)あった。


 医療事故では、報告義務のある大学病院など273病院(総病床数14万4736 床)から1266件が報告されている。


 同機構は「類似の事故や事例が繰り返されているので、具体的なケースも検討しながら、防止に活用してほしい」としている。


「医療事故情報収集等事業 2007年年報」


更新:2008/08/14 13:50   キャリアブレイン


 事実を客観的に報道しており、医療事故情報収集等事業の趣旨を理解していることが伺える。


 一方、読売新聞、医療ヒヤリ・ハット20万件…昨年、過去最多では、次のような記事になってしまう。

医療ヒヤリ・ハット20万件…昨年、過去最多


「処方・投薬」トップ


 国立病院や大学病院など主要240医療機関で2007年に、医療事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット事例」が計20万9216件起きていたことが財団法人「日本医療機能評価機構」の調査でわかった。


 06年を1万3607件上回り、統計を取り始めた05年よりも2万6318件増えている。


 同機構は国の医療事故報告制度に基づき国立病院などから、ヒヤリ・ハット事例の報告を受けている。


 事例を発生場面別にみると、薬の種類や処方量を間違える「処方・投薬」が4万6056件(22%)とトップで、「ドレーン・チューブ類の使用・管理」が14・5%、「療養上の世話」が9・2%などだった。


 原因別では、薬の名前などの確認が不十分だったことが24・5%。病室の見回り時などの観察が不十分も12・7%と初歩的ミスが目立った。


(2008年8月14日 読売新聞)


 「医療は誤りがあってはならない。しかし、現実には医療事故につながりかねない初歩的ミスが過去最高になっている。」というニュアンスを感じる。


 報告病院は、2006年と2007年は大差がない。医療事故報告はむしろ対前年比で30件減少している。それにも関わらず、ヒヤリ・ハット報告が増えたのは、医療機関の安全意識が高まっているからである。
 ちなみに、看護師の報告173,485件に対し、医師は8,026件しかない。看護師の方に問題があるというよりは、実際にあったニアミス中、医師が報告する件数が少なすぎるからではないかと推測される。
 些細な事例でも報告をすることが、再発予防につながる。ヒヤリ・ハット報告増加は、医療安全意識の高まりの象徴であり、歓迎すべき現象である。それを揶揄するようなマスコミの報道姿勢には疑問を感じる。