霞ヶ関の内幕暴露、「さらば財務省!」

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白


 副題にひかれ、購入した。
 東大理学部数学科出身という異色の財務省官僚が、小泉元首相の懐刀竹中平蔵経済財政政策担当相に見いだされ、政策実現のために裏方として活躍していく。「省益」に執着する官僚と対峙し、「郵政民営化」「道路公団民営化」「政策金融改革」に関わり、その結果として、出身母体の財務省だけでなく、「官僚すべてを敵にした」経過がつづられている。
 ベールに包まれた霞ヶ関の事情が、具体的事実とともに暴露されている。内幕ものとしては実に面白い。入省年次が幅をきかせ、天下りという悪習に対し自己改革ができない官僚に対する痛烈な批判が基調として流れている。


 一方、どうしても感情移入できない部分がある。
 著者は、自らをコンテンツ・クリエーターと繰り返し呼び、政策実現に関与する機会を与えてくれた小泉元首相と竹中平蔵大臣に繰り返し感謝を表明している。さらに、小泉路線を継承する安倍首相の退陣を改革路線の頓挫と捉え、中川秀直氏らの「上げ潮派」と増税不可避とする「財政タカ派」とを意識的に対立させ、前者を救世主のように持ち上げている。
 しかし、小泉構造改革新自由主義経済政策を推進し、医療をはじめとした社会保障を切り崩した。恨み骨髄に達している医療関係者は少なくない。また、財界にとって都合の良い規制改革によって、若者が希望を失い、ワーキングプアが大量に生まれた。著者は、自らが関わった改革の負の側面に目を向けていない。
 本書は、政治家と官僚しか登場しない。公務員として郵便局や社会保険庁職員も出てくるが、民間常識からかけ離れた存在として戯画化されている。経済財政諮問会議小泉改革の推進役を果たしたことは紹介しながら、財界人の姿は全くでてこない。そして、改革によって国民がどのような影響を受けたかについては関心を払われていない。結局、著者も庶民感覚のない官僚なのではないかという思いがしてしまう。


 裁量的行政が幅を利かせ官僚と政治家が利権をむさぼっていた政治は改革されるべき、という本書の主張は理解できる。だが、小泉元首相が推進した構造改革路線を継続すべきだという論調に関しては、どうしても同意できない。